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7‐2 影は暗い瘴気と共に

 シモンが共に住むようになってからも、アレクたちの生活はあいかわらずダラダラと続いていた。

 アレクは昼まで惰眠をむさぼり、リリカはアレクに抱き着き、ロゼはアレクに戦いを挑み、そしてシモンは不敵に笑う。

 シモンがいったい何をしているのか、アレクたちにはいまだに理解できていないようで、突っ込むことは半ばあきらめていた。彼らは山の中で、穏やかに日々を過ごし、たまにやって来る刺客たちを完膚なきまでに叩きのめしていた。


 そんな変わらない日々であったが、1つだけ変化したことがあるとすれば、家が新しくなったことだろう。

 もともとアレク1人が住むために作られた小屋も、4人で住むことにはもう耐えられなくなっていた。寝床も、生活スペースも足りないこの部屋に、アレクは限界を迎えていた。


「それなら、私にお任せください」


 そう名乗り出たシモンが見事に一回りは大きな立派な建物を完成させた。これでアレクたちの生活も楽になる……はずだったのだが。

 

「なんなんだ、この装飾は」

 

 新しく完成した寝室を眺めて、アレクはぼやく。シモンが作った新居は、石造りの境界のような物だった。僧侶の名にふさわしいシックな建物、少なくとも外観は神聖な雰囲気を醸し出していた。

 しかし、中を開けてみればそこはまるでアンデッドの巣窟。見渡す限りにどくろ・どくろ・どくろと趣味の悪い装飾が敷き詰められていた。挙句の果てには、アレクの寝室の天井に大きく描かれているどくろが嫌でも彼の目に入ってしまっていた。

 

「なんだと言われても、どくろですよ」

 

 シモンは何でもないという風に答える。

 

「なんでこんなにどくろがあるんだよ! こんなんじゃ気になって眠れないじゃないか」

「かっこいいからに決まってるじゃないですか」

「かっこいいか? ずっと見られている気がして落ち着いて寝られないじゃないか」

「まあ、いいじゃないですか。どくろに監視されているということで」

 

 そう言うとシモンは高らかに笑う。自分で自分言ったことにツボったようだった。

 アレクにはいまだにシモンの笑いのツボがわからない。不満な目を向けていると、リリカが部屋の中に勢いよく飛び込んできた。飛び込んでくるなり、リリカは叫ぶ。

 

「ちょっと、シモン! なんでトイレに骸骨の絵画なんて置いたんですか!」

「趣があっていいでしょ?」

「よくないですよ! 何してくれるんですか。トイレに行くたびにあんな不気味なものと目が合うなんて耐えられませんよ!」

「そんな、子供じゃあるまいし」

 

 リリカの目は少し涙が浮かんでいる。どうやらよほど怖かったらしい。

 

「ほら、シモン。キャロットもああやってさっきからどくろに威嚇し続けているんだよ。怖がっているみたいだし、やめてくれよ」

 

 アレクが指さした方向では、キャロットが壁に吊るされたどくろに向かってずっと唸り声をあげていた。

 それを見てシモンは感嘆の声を上げる。しかし、その対象はキャロットではなく、アレクに向かっていた。

 

「そんな言葉を吐くなんて、アレクも変わりましたねえ。その強さを除いて、もう魔王を倒していたころの面影はないじゃないですか」

「あ?」

 

 シモンは、今やニート生活と愛猫のことに気がいっぱいのアレクの姿に興味津々だった。彼の目に映っているのは、かつて魔王を討伐した時の雄々しい勇者の姿ではなかった。

 

「そりゃあ、もう魔王もいないしな。勇者だって一般人に変えるんだよ」

「まあ、それもそうですね」

 

 そんなことを言うシモンの目はどこか寂しそうだった。

 

「そんなこといいから、早くトイレの絵画を何とか……」

 

 リリカがシモンに訴えかけている最中、彼女の言葉がハタと止まった。

 彼女の表情が一気に険しくなる。

 

「どうした?」

「結界が」

「ああ、いつものか」

「いえ、今回はなんか違うんです」

 

 いつもの結界が破れる時とは、明らかに違うリリカの緊迫感にアレクは違和感を感じる。すっかり慣れてしまった結界の破壊。もはや結界が壊されるくらいのことでは、驚く者なんていないはずだった。

 

 グッシャー――ン!!!!!

 

 地を揺るがす程の轟音が鳴った。結界が割れる音も消し去りながら、衝撃が突然アレク達のもとに響く。

 

「なんだ?」

「敵対者……? であることは間違いなさそうですね」

「こんな衝撃初めてです」

 

 戸惑う3人のもとにロゼが駈け寄って来る。


「おい、アレクやばいぞ」

「今の衝撃か? 多分敵襲だな」

「早く、外を見てみろ!」

 

 ロゼが緊迫した様子でアレクに訴える。

 アレクは言われるままに外を眺める。そして、その様子に急激に表情を変えた。


 外は、青空を覆い隠すように、暗い瘴気が覆っていた。昼間であるはずなのに薄暗く、50メートル先も正確に眺めることができない。

 その様子にアレクは既視感があった。

 

「魔王?」

 

 アレクの表情が険しくなる。

 魔王であれば、アレクの結界も壊すこともたやすい。この世界の中で、唯一勇者アレクの力に匹敵できる存在だ。

 

「あの時封印したはずなのに、なんで……」

「とにかく外に出てみましょう」

 

 戸惑うアレクを引っ張り出すように、リリカたちは外へと飛び出した。

お読みくださりありがとうございます!


トイレに真正面で待ち構えている骸骨。

1人じゃトイレいけなくなりますね


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