041 フォートレス・ワールド
ゲートに飛び込んだ俺たちは宇宙のような空間に出た。上下左右には暗い闇と、かなたに瞬く星々が見える。
「ここはどこだ?」
「えっとね。あのね。ここは魔王軍が侵略用に設置した異世界間通路。等間隔で通信用の中継マシンが設置してあって魔界との通信に利用しているんだよ。たまに魔界からの増援が通ったりするけど今はその予定がないから空いてるよ。」
たしかに周囲には宇宙の闇とその内側を隔てる透明な壁のようなものが見える。ガラスチューブでできた通路のようだ。
「ここを通るのにかなりのコストが使われるので、魔界からじゃ分霊による出張がメインなんだよね。ボクはまぁ、魔界で唯一、影を飛ばしたけど。これも……愛!」
「愛なのですか。」
「そうなんだよリュミドラ。ボクをもっと愛して!」
マリのたわごとは右から左に聞き流しつつ、後ろを振り返る。今まで自分たちが居た世界が見えた。その世界はまるで、膝を折りたたんで抱えた女性のようだった。いや……あれは宇宙船か?
ピンクメタリックに輝く女性型の宇宙船。通路の移動にあわせてどんどんと遠ざかっていく。
「あれは何だ? 宇宙船に見えるんだが……」
「ん。今までボクらが居た世界だよ。フォートレスによって管理される世界。フォートレス・ワールドの一つだね。」
「フォートレス・ワールド?」
「そう。こうして世界を外側から見ることは稀だからね。多分、あの世界の出身でこうやって見たことがあるのはヒョーマたちが最初だと思うよ。」
俺はピンクメタリックの宇宙船を再び見た。そうか、あれがテラガイアなのか。魔界をぶつけるといった時、壊れてしまうと言ってた意味がよくわかった。
「魔界はどんな世界なんだ? あれを魔界の一部にすると言ってたが……どうやって。」
「魔界も同じ。フォートレス・ワールドだよ。ただね。魔界は世界の寿命が尽きたんでね。他のフォートレス・ワールドを支配して魔界にドッキングさせて延命してるの。ほら、こんな感じに。」
マリが魔法を使って魔界の外見を空中に投影する。それは複数の色の違う宇宙船を無理やりつなげて巨大化した宇宙船に見えた。中核になっている大きな黒い宇宙船が魔界だろうか。
「これもフォートレス・ワールド。この世界の目的はね。知的で優れた生命体を育てて次なる世界を創造させるために送り出すこと。その繰り返しをさせるために存在しているんだよ。」
「なん……だと。」
話している間にも俺たちは魔王軍の設置した通路を進んでいた。かなりの速度で。星がビュンビュンと後ろに流れていく。
「知的生命体を育む『誕生の時代』、その次にフォートレスを攻略していく『発見の時代』『探索の時代』を過ごして、すべてのフォートレスに支配者ができたら次に世界の統一をする『闘争の時代』を経て最後に『創造の種』を放ち終わる『終焉の時代』があるんだって。」
「聞きかじりなのか……」
「サイクルがとても長いからね。ボクもすべてを体験はできてないんだよ。魔界は『終焉の時代』を迎えてなお、『創造の種』になれなかった者達が立ち止まって延命をしている場所なんだよ。」
「地球のように惑星じゃ……ないんだな。」
「あれ。地球もフォートレス・ワールドだったんだよ。ただ、紀元前にジ・ブンメイがフォートレスコアを破壊しちゃってね。地球はもう役立たずになっちゃって。それ以後は色々あったんだよ。」
「おい、なんだそれは!?」
「地球で生まれた命は死んだ後、魂をあちこちのフォートレス・ワールドで引き取ってるんだよ。ルールを決めてね。」
マリお前それは……テラガイアの、フォートレス創造神レベルの話だぞ。なぜ魔界の知的生命体……住人レベルのマリが知っているんだ? それとも魔界のような寿命がきているフォートレスでは常識になっているのだろうか。
「ヒョーマもフォートレス・ワールドを支配するつもりなら、コアクラッシュには注意してね。『闘争の時代』を勝ち抜くつもりなんでしょ?」
「あ、ああ……そうだな。」
バキュラの襲来を回避するためにフォートレス・ワールドの座標をずらさなければいけないが、それは宇宙船テラガイアの操縦者となる……ということか。『闘争の時代』という一つの区切りを俺が生きているうちに……制覇する。
「闘争の時代になったらどうなるんだ?」
「えっとね。あのね。まずは未発見フォートレスや踏破者のいないフォートレスをすべてヒョーマが制覇するでしょ。これが第一段階。次にフォートレス管理者どうしのフォートレスコアを巡る戦いが開始される。戦争の時代だよ。今までフォートレスコアを支配して生産したすべてのリソースを注ぎ込んで戦うんだ。」
「ほうほう。」
コアの領主が天候を支配して領内の生産性を上げたり出来ていたのは、すべて闘争の時代に備えての事だったのか。
「ただ、あの世界のフォートレスはほぼ魔王軍が支配しているから、ヒョーマは魔王軍の後釜にするっと入り込めばだいぶ楽ができると思うよ。」
「本当に危ないところだったんだな……魔王軍有能すぎないか。」
「魔王軍はそればっかりうまくなってね。魔界はすべてのフォートレスを魔王が管理しているんだ。増設……奪ってきたフォートレス・ワールドの分も含めてね。そうやって侵略を繰り返して魔界を延命させてきたんだ。」
「魔王は……それでも創造の種になれないのか?」
「なったら代替わりして次の魔王に変わってるよ。魔界そのものが滅びるまで、他の世界を食いつぶしながら延命していく。それが今の魔界なんだ。」
「……そうか。俺はあの世界への侵略をやめてもらえばそれでいい。魔界の有り様について是非は言わない。」
「そう。ありがとうね。できれば、魔界は嫌いにならないでほしいな。ヒョーマが魔界を破壊したらね。たくさんの魔族が行き場を失っちゃうから。」
「わかったよ。魔族に大量移民されても困るしな。」
「たのむよ。本当にね。」
俺たちは魔王軍の通路を進み続け、やがて魔界が見えてくる。
「そろそろ魔界だよ。準備はいいかい。はぐれないように手をつないで。」
マリはリュミドラと俺と手をつなぐ。
「待ちくたびれたぜ。」
俺はマリとルビーと手をつないだ。
「大丈夫よ。ヒョーちゃんには私がついてるから。」
ルビーは俺とエルジェブブと手をつなぐ。
「ああ、お兄様と……いえ何でもありません。」
エルジェブブはハネエルフの一人と手をつなぐ。
「おじゃじゃ。」
ハネエルフの二人目とリュミドラが手をつなぎ、俺たちの準備は完了した。
そうして俺たちは出口のゲートをくぐり、目的地である魔界に到達する。
魔界で俺たちは魔王率いる魔王軍と戦い、ジ・ブンメイと因縁を持ち、勝利してテラガイアに帰って『探索の時代』『闘争の時代』を戦い抜いてバキュラと戦うことになる。
だが、それはまた別の機会に語ろう。
フォートレス・ワールド、テラガイアにおける俺の冒険はこれで終わり。
ルビーと出会い、ルビーを選んでバキュラの支配を断ち切った俺は、これからもルビーをはじめとした仲間たちとともに戦ってゆくだろう。
これにて完結です。
ご愛読ありがとうございました。




