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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
第二章 ソラとマーレの綺麗な魔力
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7.初めて知った事実

 コン・センティメント家に着いて、夕食の時間までマドリガーレに今日あったことを色々話した。


 字が全然読めなくて困ったこと。

 会話だって翻訳魔道具を使っていて、本当はちっとも話せないこと。

 こちらの常識を知らないと困ると言われ、あちこち見学に連れて行ってもらうことになったこと。

 こっちにいる間は午前中が魔力調整訓練で、午後から見学に回ること。

 今日は職人街と商人街へ行き、商工局長官達やレッジェロから色々話を聞いたこと。

 明日は魔法庁内をぐるっとひと回りする予定であること。


 俺が話している間、マドリガーレはにこにこしながら、うん、うん、と楽しそうに聞いてくれていて、なんだか嬉しくなって止まらずどんどんしゃべってしまった。


「そうなの。商人街は行ってみたことがあるけど、職人街はないわ……私も一緒に行きたかったなぁ」


「そっかあ、すっごく楽しかったよ。職人さん達の仕事をいくつか見せてもらったし、大きな機械や道具、逆にものすごく小っちゃい道具もあったし、何に使うのかさっぱり分かんないような変な形の道具もあって面白かった! それに職人さん達はみんな陽気で明るくて楽しい人ばかりだったよ! 第二家の血が流れてるからみんなそんな風に気楽に生きてるんだって」


「まぁ、そうなの。確かに第二家の一族はみんな軽い感じよねぇ。パストもレッジェロさん相手だとあのノリについていけなくて、時々対応に困っているようだし」


「そうだね、今日もパストさんが何度か頭を抱えているのを見たよ」


「まあ」


 顔を見合わせてふたりで笑う。

 今日一日、なんだかずっと緊張していたけれど、ようやく気を緩められたように感じた。


「明日が楽しみだわ」


「でも、学校サボっちゃって大丈夫なの?」


「午前中は行くわ。午後からだけだから、大したことないわよ」


「そうなんだ。一緒にお昼ご飯食べられる?」


「そうね、そちらで一緒に食べたいわ」


「良かった」


 微笑む彼女の顔を見ながら話をするだけで、なんだかとても居心地が良い。


「それで……さっき少し言っていた、『はしゃぐ小栗鼠(こりす)亭』、だったかしら? そこに明日も行くのね。どんな様子だったの?」


「うーん、詳しくは分からなかったんだよね。なんか、看板娘のリラさんに惚れてる男がいて、交際を迫っているようなんだけど、リラさんには他に好きな人がいるようで、それで迫っている方の男の様子がおかしいって、リラさんのお兄さんが心配しているってくらいしか聞けなかったんだよ。だから明日、そのお兄さんのコルネットさんの話を聞きに行くんだ……もし、その男が魔力暴走起こしたら困るからね……」


 俺の言葉の最後の方が、少しだけ小さくなったことにマドリガーレが気づき、背中をそっと撫でてくれた。そこがじんわりと温かくなる。それでなんとなく心も慰められた気がした。


「でさ、不思議に思ったんだけど、こっちには犯罪者っていないんだってね。俺の住む世界には犯罪はたくさんあるよ。日本は治安が良いから夜だって気楽に出歩けるけど、世界には昼間も安心できない国や地域もあるって聞く。こちらにはそういうのは無いんだね」


「ええと、ソラの世界ではどうして悪いことをする人がいるの?」


「どうして……って、よく分かんないけど……なんか欲望が抑えられないから、とか、憎しみが募って、とかかなぁ?」


「そうなのね……こちらでは、人は生まれながらに曇りのない真っ直ぐな心を持っているわ。それが歪むとしたら、悪い魔素を取り込んでしまったから。悪い魔素をいったん心や体に入れてしまうと、身も心も悪い方へとどんどん傾いてしまって加速していき、坂道を転がるように周囲の悪い魔素を取り込み過ぎて、魔力暴走への道をたどると言われているの」


 人は生まれながらに曇りのない真っ直ぐな心を持っている。

 それはあちらだってそうだと思う。

 赤ちゃんは誰だって歪みひとつない。

 だとしたら、あちらで歪んでいく人も、何か悪い魔素のような物を取り込んでしまっているのだろうか。


「だからそうならないうちに、周囲の人が皆、互いを見ているの。そして何か兆候があれば早めに上に報告して様子を見てもらうのよ。魔力暴走を起こす前に治療院で治療してもらったり、福祉局で相談に乗ってもらったりすれば助かるでしょう? 誰でも死にたくないし、人を巻き込みたくなんかないわ……」


「そうだね……」


「だから人は皆、ひとりでは生きられないの。誰かと寄り添い、支え合って生きていくのよ。いつも一緒にいる人なら相手の不調をすぐに見分けられるでしょう? 単に病気で体調が不良なのか、魔素を取り込んで心も一緒に調子を崩しているのか、気づきやすいでしょう? そして治療院に一緒に付き添うこともできるもの。以前、ララ伯母さまに聞いた『日本では、独り暮らしをしながら在宅で仕事をする若者が増えている』なんてこと、こちらでは絶対にあり得ないわ」


「なるほど」


 人の気持ちが歪むのは、その人の性格のせいではなくて、悪い魔素のせい。

 犯罪が起きるのも、悪い魔素を取り込み過ぎたせい。

 犯罪イコール魔力暴走なので、それを防ぐためにお互いに気遣い合い、気にし合う。

 治安部も医療局も福祉局も、魔力暴走を事前に防ぐために日々活動している。


 魔力暴走はとても怖いと思うけど、この世界はなんだか優しいなと思った。

 だからここで知り合う人はみんな優しいのだろうか。


 マドリガーレも。


 隣で柔らかな笑顔を浮かべ、こちらを見つめてくれる彼女の隣に、ずっといたい気分がした。




** ** **




 翌朝。

 魔法庁に出勤する両親と叔父夫婦と一緒に車に乗る。マドリガーレは俺を送って行くと言ってくれたが、学校への遠回りになるから遠慮した。ちょっとつまらなそうに口を尖らすマドリガーレに「それじゃ、またお昼に。気を付けて来てくれよ」と言うと、彼女は照れたようにくすりと笑ってから小さく手を振って出発して行った。

 俺も両親の車に乗せてもらって魔法庁へ向かう。魔力研究部へ行き、パストラーレと合流すると昨日と同じ魔術遮断室に入った。


「それで、昨日はあれからマーレに色々責められなかったかい?」


「え、大丈夫でしたよ。でも昨日あったことや見たものをたくさんしゃべったら、自分も一緒に行きたかったって言われちゃいました」


「そっか……確かに、きみが長官になるなら彼女が副長官になるのだから、一緒に行くべきだったね。気遣えなくて悪かったな」


「俺も全然気づきませんでした」


「まぁ、ソラが本当に魔法長官になるって決めたら、その時はソラがマドリガーレを職人街へ連れて行ってあげれば良いよ。きっと彼らなら、大歓迎できみらをもてなしてくれると思うし」


 昨日の職人さん達の様子を思い出し、くすりと笑いが漏れて「そうですね」と答えた。

 するとパストラーレがいきなり爆弾を落としてきた。


「それに商人街は、これからいくらだってデートで行くことができるだろうしね」


「ええっ!? で、でででデートなんて、パストさん、何言っちゃってんスか!?」


「え? 何もおかしくないでしょ? だっていずれ婚約するんだろうし」


「こ、婚約!? そ、そそそんなこと、まだ分かんないっす! 俺達、そんな関係じゃないからっ……!」


「ええ? だってソラが魔法長官になったら、マーレが副長官なんでしょう?」


「そう、だけど……でも、そういうんじゃなくて……」


「マーレが副長官になるって宣言したのは知ってるの?」


「それは、聞いた。俺が長官になるなら、副長官になって助けてくれるって。だけど、俺、まだ長官になるって決めてないし、なったとしてもマーレと結婚するかどうかなんて、まだ決められないよ」


 俺がうろたえてしどろもどろになっていると、しばらく俺をじっと見ていたパストラーレが「ああ」と()に落ちたようにうなずいた。


「そうか。ソラは知らないんだね。魔法長官と副長官は、男女で担うなら夫婦でなければならないんだよ」


「ええっ!?」


 望まれていたのは知っていた。

 周囲が、俺を魔法長官に、マドリガーレを副長官に、そして将来俺達が結婚して、豊富な魔力を持つ子供をたくさん作ることを、望んでいるということを。

 俺は知っていた。


 それでも、それは“希望”であって、長官と副長官になることは、必ず結婚する、という“常識”だとは思ってもみなかった。

 呆然とする俺に、パストラーレは椅子を勧めてくれてゆっくり丁寧に教えてくれた。


「魔法長官が一年に一度、大掛かりな魔術を使うのは知っている?」


「聞いたことが、あります……」


「それは国中の魔流を整える大事なことで、災害を抑えて五穀豊穣を誘う大切な魔術だという。でもそれは、魔法長官ひとりの魔力では足りないらしい。それを副長官が補う。けれど大昔、建国の頃、人々はもっと大きい魔力を持っていたらしく、国を守るその魔術は国王ひとりで執り行っていたらしいんだ。この魔術以外にも、ありとあらゆる事柄を魔法で全て片付けていた……そんな時代があったらしい。ところがいつの間にか、人々は持てる魔力を減らしていって……王族だけでは大魔術を行えなくなったんだ。困ったその時代の人々は、王族以外の特に大きな魔力を持つ家を五つ選び、その中から特別大きな魔力を持つ者を長として、王族の代わりにこの大いなる魔術を任せるようになった……これが五家の始まり。ここまでは分かった?」


 初めてこの国の歴史を聞いた。

 大昔はそんなに大きな魔力を持った人達であふれていたんだ。

 それがいつしか持てる魔力を減らしていって。

 王様だけじゃ大きな魔法を使えなくなり、五家の人達が協力した、と。


「うん、理解した」


「どんなに大きな魔術でも、元々ひとりで行うことが前提の魔法。魔力の質が違う者の協力では魔術が発動しない。なので五家の中で特に魔力の多い者が長官になっても、ひとりではこの魔術を発動できなくなった時に、兄弟、姉妹が魔力の補強をするようになった。生まれが近いほど魔力の質は似るから。そして魔力の質を整えて似せることができる薬を作った。その薬を飲みながら、長官と副長官はその大掛かりな魔術を行うのさ。それを『魔力合わせ』と言う。ただし魔力合わせは誰とでもできるものではないとのこと。同性の兄弟、姉妹、あるいは同性の従兄弟、従姉妹までが限界だと言う。同じ両親から生まれても異性の兄妹姉弟(きょうだい)では薬の力を借りても魔力はなかなか合わせられないらしいんだ。何故だかは分かっていないけれどね。しかも互いに子づくり期間に制限ができてしまう。だから自然に異性の兄妹姉弟間では魔法長官と副長官は担わないこととなった」


 そこまでは分かった。

 でも俺とマドリガーレは従姉弟だ。

 魔力合わせが成功するとは思えない。


「そこに例外があった。夫婦になることだ。魔力を持たない世界で生まれたソラには分からないことかも知れないけど、子供は父親の魔力の性質を受け継いで生まれる。すなわち子は母親の胎内で父親の魔力の性質を蓄えながら生まれてくるんだ。結果、妊娠すると女性は胎の子を通じて夫の魔力にだんだん染まっていく。子供をふたり以上産むと、女性は夫の魔力にほぼ染まると言われているんだ。産んでから十年も経つとだんだん女性本来の魔力に戻ってくるらしいから、そうなる前にまたひとり産む。アルマンド長官とアンティフォナ副長官の家庭を思い出してごらん。結婚してアリィが生まれて、二年後にマーレが生まれた。それから八年後にスピリトーゾだ。計算して子供を作っていることが分かるだろう。スーゾは今九歳。だからあの夫婦は、あと一年か二年の内にもうひとりくらい子供を作ろうと計画しているんじゃないかと思うな。次の魔法長官に引継ぎを終えて引退するまであと十年くらいはかかるだろうから」


 衝撃的だった。

 結婚するのも子供を作るのも、義務でするなんてこと、考えたこともなかった。

 日本では何をするのも自由だ。

 押し付けられた役目で子供の数まで決められてしまうなんて。


「きみがこちらを嫌っている間、マドリガーレはずっと、従妹に副長官になってもらって自分が魔法長官になると言い続けていた。それだけの実力がそのふたりにはあった。けれどもソラ、きみがいる。きみという大きな魔力を持つ者を、元老院は手放したくない。魔法庁だって、強制はしたくないと言いながら、きみを魔法長官にしたがっている。異世界に簡単に放逐できるほど、きみの才能は軽くないんだ。だからきみを誰もがこちらに留めたがる。魔法長官になって欲しがる。副長官を決めるは二の次だ。きみの従弟……スーゾは少し年が離れているが、領地にいるアルマンドさんの弟君のところの息子さんが、ソラのひとつ年下だと聞いているから、彼に頼むのも良いと魔法庁の上部は考えていた。マーレときみがあまりにも仲が悪かったからね。元老院の思惑通りにはならないだろうと思い込んでいた。ところが……一ヶ月前、マーレが『自分が副長官になる』と言い出した。『あまりにも大きな魔力を持つソラをサポートできるのは、ソラに次ぐ大きさの魔力を持つ自分しかいない』と」


 何も言えなかった。

 目を見開いてパストラーレが話すことを聞いているだけ。

 受け止めきれている自信がない。


「分かるかい、ソラ。マーレは、きみと結婚し、子供をふたり以上設ける決意をした、ということなんだよ」


 言葉が出ない。

 身動きすらできない。


「マーレは以前、きみと素敵な恋ができるかと悩んでいた。きみがまだ子供っぽいから、自分が望むような恋ができるかどうか分からない、と。五家に生まれた者は、魔力の大きさで縁が結ばれてしまうことも多い。恋情を抱いても魔力の大きさが釣り合わないと家の都合で別れさせられてしまうこともある。その多くは元老院の指示で従わざるを得ない……それでも、若者は夢を見てしまうんだ。婚約者となった相手と想いを交わすことができないか、と。互いに尊敬し合い、大事にし合い、形だけの夫婦でなく温かな家庭が作れないかと。そして女性は更に望んでしまう傾向が強いんだよ、婚約者と素敵な恋ができないか、と」


 放心。

 まさにその一言だった。




** ** **




一方、その頃のマドリガーレ




「マーレ、今日は朝からとても機嫌がよいな」


「ああ、殿下、おはようございます! 今日はとても良いお天気ですね!」


「……もう一時限目が終わったというに、今更何をいっておるのか、おぬしは……今日も授業は全く聞いていないと見た。きっと一日中コレなのであろうな……」


「あ、そう言えば私、今日は午前中で早退です! 午後の授業、後でノート写させてくださいね!」


「報告を受けておる。元よりそのつもりだ……楽しんで、たくさん学んでくるのじゃぞ」


「はいっ! ありがとうございます!」


「良い笑顔じゃ。ソラとやらに、(われ)も一度()うてみたいのう……」

マーレが何を決意して「魔法副長官になる」と言ったのか、初めて知ったソラです。

日本の高校一年生には想像外のことでしょう。


次回更新は7月2日(月)です。

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