プロローグ
本日、人物紹介とプロローグ、第1話、の合計3つを更新しています。
このプロローグからお読みください。
第一章『ソラと異国と綺麗な魔術』の二年半前の話を、マドリガーレの姉アリアが語るお話です。主人公の奏楽があまりにコントラルト国の事情を知らないので、補足するような形で間章をはさみます。
※プロローグは第一章が終わった直後です。第一話から二年半前に遡ります。
「アリィお姉さま、少しお話したいことがあるのだけれど」
「まぁ、何かしら、マーレ?」
「ええとね……ソラと、これからどうやって接していこうかと少し考えてしまって……ほら、ついこの間まで、ソラは私にとってライバルで、単に従弟というだけの気に入らない存在だったのに、急に……私、副長官になるって言ってしまったけど、それをソラには伝えてないし、どう……ソラと付き合っていけば良いのか……」
妹のマドリガーレは先日、皆の前で魔法副長官になると宣言した。
魔法長官は他の魔法庁の職員と違い、通常の職務以外に一年に一度、大掛かりな魔術を行う。その補助をするのが副長官だ。ただ単にふたりが力の限り魔術を使うのではなく、副長官は魔法長官の魔力に添わせて魔術行使をせねばならず、魔術使用の数か月前から魔力合わせと呼ばれる、投薬と魔力交換の行為を行って準備をしていくらしい。
いくら投薬しても元々の魔力がかけ離れていては、副長官が長官の魔力に添わせることが難しいらしいので、魔法長官と副長官は近親者で一緒に就任すると決まっているのだ。
兄弟、姉妹、従兄弟、従姉妹、までが限界で、兄妹、姉弟、従兄妹、従姉弟では許可されないと言う。
マドリガーレと奏楽は従姉弟同士。
このままでは魔法長官と副長官にはなれない。
なのに、この前マドリガーレは「魔法副長官になる」と宣言した。
そう決めたということは、妹は従弟と婚姻する決意をしたということに他ならない。
「マーレはソラと婚約することに不安があるの?」
「そりゃあ……無いわけが無いでしょう、お姉様」
「まあ、そうよね。でもそれは漠然とした不安なのかしら? それとも具体的に何かあるの?」
奏楽が、大きくて素晴らしい魔術を使用した日、奏楽が疲れて寝てしまった後。
あの時の妹はあんなに堂々としていたのに。
あれほど「魔法副長官になる、彼を導く責任者は自分だ」と強い瞳をしていたのに。
「そうね……ソラの魔術は綺麗だし、魅力的だと思うわ……あの強大な魔力をサポートできるのは私しかいないと思うし、それを任されるのは誇らしい仕事だし……やり遂げたいとも思うわ……でも……いざ数年後に彼と夫婦になるのだと言われても、少し戸惑いが大きくて……いえ、ソラが嫌いというわけではないのよ? 素直で明るくて思いやりがあって、こちらのことを知らないから色々失敗するんだけどすぐに反省して謝罪もできるし、改善しようとするし、真っすぐ見つめてくる瞳に好感を持っていることは確かなの。でも……それが恋情かと言われると、ピンとこなくて……」
「ええ、分かるわ。突然、婚約だなんて言われてもすぐには自分を納得させられないわよね」
「そうでしょう!?」
突然、ガバッと迫ってきた妹に慌てる。
「アリィお姉さま、お姉さまの時はどんな感じだったの? パストと婚約して、どう思ったのかしら? すぐに受け入れられた? どうやってパストと本当の意味で婚約者同士になっていったの? 教えて!」
ギラつく目で覆いかぶさるように迫ってくるマドリガーレにたじたじとなる。
「え、聞きたいの……?」
「もちろん!」
「でも……参考になるかなんて分からないわよ、パストは特殊な人だし……」
「特殊? ますます聞きたくなったわ!」
爛々(らんらん)と瞳を輝かせ、肩をガシッと捕まえてくる妹にため息をつく。
そしてパストラーレとの道のりを思い返した。
二年前の冬からようやく分かってきた彼のこと。
もうずいぶん長い間婚約者として近くにいたのに、彼のことを、その心の内を知ったのはたった二年前。
――それを考えると妹と従弟の関係がそんなにすぐには近づかないとは分かっているけれど。
それでも妹には幸せになって欲しい。
私は二年前まで婚約者であるパストラーレのことを全く理解していなかった。
生まれた時からの幼馴染で、十一歳で婚約したにも関わらず。
でも今は、ようやく相手のことを知り、自分を見つめ直せるようになった。
妹も、そうやってソラとの関係を作っていってくれると良い。
そして、ソラも。
将来が未だ決められないふたりに、互いの手を取り合うことの大切さを伝えてあげられたら良いのだが。
――自分に何ができるだろう。
私は二年半前の夏の終わり……もうすぐ十七歳、という頃のできごとを心の中で振り返り、少しずつ語りだした――。
引き続き第1話をお楽しみください。




