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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
第四章(最終章) ソラと異国と綺麗な魔法
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1.出かける準備

本日、人物紹介とプロローグ、第1話、の合計3つを更新しています。

このページから開かれた方は、ひとつ戻ってプロローグからお読みください。

 十二月になってどんどん寒くなってきた。

 今年の秋はなんだか長く、十一月に入っても冬の気配があまり近付いていないような気がしていたが、十一月中頃からだんだん冬の気温となってきたのだ。クラスの女子達は「ホワイトクリスマスにならないかなぁ」と、きゃいきゃい騒いでいる。クリスマスに雪が降ったから何だって言うんだと、俺なんかは思うけど、恋愛している人にとっては大切なことなのだろう。


 それよりも、俺にとっては大変なことがある。期末テストが終わって次の週の金曜日、コントラルト国ブリランテ王女の生誕祭に出席しなければならないのだ。


 夏にマドリガーレの誕生日会があって、そこで初めて本格的な夜会衣装を着た。なんだかもみくちゃにされているうちに着付けが終わり、装飾品も身に取り付けられていたのだ。あれよ、あれよという間にホールに連れ出されて両親の後ろをおろおろと付いて回っていると、知らない人からどんどん話しかけられて、正直気後れしてしまった。そう、第三家であるコン・センティメント家一族の主だった人が全員集まった会、そこで俺は初めて一族の皆に紹介されたのだ。


 マドリガーレの誕生日会が始まると、その紹介劇は酷くなった。マドリガーレと共に壇上に上がらされ、婚約が発表されたのだ。婚約式は改めてすることになるが、一族の皆には先に知らせておくとアルマンド叔父が言うと、場があふれんばかりの拍手に包まれ、人々の視線と熱気が集まった俺は、笑みを顔に貼り付ける以外できなかったのだ。


 隣でマドリガーレがはにかむように笑っていて、その赤く染まった頬を見てようやく少し落ち着いたけれど、壇から降りて人々に囲まれるともう、取り戻した落ち着きもどこかにふっ飛んでしまった。


 一度にたくさんの人が自己紹介をしながら、祝辞を述べてくる。

 父親の父親、俺にとって祖父であるアモソーゾの従弟にあたる誰それさんとか、そのまた従弟の誰々さんとか、会ったこともない叔母の従弟違いの何某(なにがし)さんとか、もうちっとも分からない。そんな人達が次から次へと何十人も挨拶に来て「おめでとうございます」と言うのだから、正直目を回してしまっていた。


 父レチタティーヴォは「いちいち覚えなくて良いよ」と笑っていたし、マドリガーレも「私が全員覚えているから大丈夫よ、親戚付き合いは任せてくれて良いわ」と笑顔で言ってくれたので、なんとかその場を乗り切ることだけを頑張ったのだが。


 今度の第一王女の生誕祭では、第三家以外の人がお祝いを述べに来るだろうと言われて、愕然(がくぜん)としている。

 もう笑顔のお面を被っておきたいくらいだ。


 アルマンド叔父や父レチタティーヴォから「当日はソラに近付いて来ようとする者が大勢いるはずだ。ソラが次期魔法長官にほぼ決定したと知って接近しようとしてくる者達や、元老院の老害共には警戒が必要だから、決してひとり、もしくはマドリガーレとふたりきりにはならないように」と言われた。


 当日はパストラーレとアリアもずっと側にいてくれるらしい。俺とマドリガーレを六人の大人達が取り囲んでガードしてくれるとのこと。なんだか本当に……日本で生まれ育った俺には現実味が無い話だ。

 そんな訳でブリランテ王女の生誕祭出席は、少しだけ憂鬱なのだ。


 ああ、それから、もうひとつ問題があった。

 実は俺が日本人とコントラルト人のハーフであることは、学校には受検の際に書類提出をしているが、主要の先生方と事務の人くらいしか知られないようにされている。ところが今回、担任から「そろそろ公開してはどうか」と両親に相談をされたのだ。


 夏休みが終わってすぐ、マドリガーレの誕生日があり、十月にはパストラーレとアリアの結婚式があった。そして今回はブリランテ王女の生誕祭があり、その全てが日本では平日だったため、病気でもないのに「家庭の事情」ということで学校を休んでいる。教科担当の先生から担任は「宍戸(ししど)奏楽はなぜこうちょくちょく家庭の事情で休むのか? しかも金曜ばかり」と聞かれ、困ったらしい。それでとうとう公開することにした。明日にも職員室で校長から先生方に発表があるらしいし、クラスメイト達には俺の口から話すことになっている。


 コントラルト国において、俺は今年、高等部に入る年齢だ。あちらでは十五歳になった次の春から、五家の者は国の行事に出席しなければならない決まりがある。本来ならば昨年のうちに一族内でお披露目をし、今年の春から社交界に出席しなければならなかったようだ。今更それを言っても仕方ないが、俺が将来コントラルト国で生きていくのなら、今後はあちらでの行事には欠かさず出ないといけないとのこと。年が明けたら第一王子の生誕祭もあるし、国王の生誕祭、王妃の生誕祭、その他、国の主要行事など、今後はどんどん出席していかなければならないようなので、学校をしょっちゅう休むことになるから仕方がない。


 そう、俺はコントラルトで生きていくことを決めたのだから。

 高校は今の学校を卒業するまでいるけれど、卒業後はあちらに移住して高等部に二年間所属し、卒業後に魔法庁に入庁予定だ。

 もう決めたんだ。だから仕方ない……本当は多くの人に注目され、話の中心になってたくさん話しかけられることは苦手なのだけれど。乗り越えていくしかない。魔法長官なんてものに、なると決めてしまったのだから。


 頑張るしかない。




** ** **




「ソラ!」


 ゲートをくぐると、マドリガーレが大きく手を振って走り寄って来た。


「マーレ!」


 思わず俺も駆けだす。距離が詰まる一歩手前で立ち止まったが、彼女がそのままの勢いで迫って来たと思った瞬間、首に両腕を回され、飛び込むようにして抱きつかれてしまった。

 転ばないように、脊髄(せきずい)反射でマドリガーレの背中を抱きすくめ、受けとめる。

 思わず見開いてしまった目。

 心臓が早鐘のようだ。


「会いたかったわ、ソラ! 会えて嬉しい!」


 こちらの女子は、なんか西洋風で積極的だ。日本男子の俺には、時折ついていけないこともあるのだが……こちらで生きていくと決めたからには、慣れていくしかない。まったく、日本でもコントラルト国でも、慣れなければならないことだらけで、戸惑うばかりだが。

 俺も男だ、頑張らねば。


 だから勇気を出して、マドリガーレの背に回した腕に、もう少しだけ力を込めた。


「マーレ……お、俺も、あ、あああ会いたかっちゃ」


 噛んでねーよ。

 ビビってもない。

 ち、ちょっと……いや、大丈夫、武者震いだよ。


 「ふふっ」と顔の横で小さく笑う声が聞こえたと思ったら、頬に柔らかい接触があった。

 軽いリップ音の後、マドリガーレが天使のような微笑みを向けてくる。


 撃沈。




** ** **




 明けて今日。

 コン・センティメント家は朝から大忙しだ。朝食終了後、早々に風呂へと突っ込まれ、要らないと言うのに全身を隅々まで洗い流された。その後はマッサージ。注文の多い料理店じゃなかろうかというくらい、体に何かを塗りたくられ、ぐったりしてしまう。世話をしてくれたのが全員男性だったのだけが救いだった。


 肌着を身に着けてからは女性のスタッフさんに交代して、美容的お手入れが始まった。一か月分、伸びた髪を整えるように少しハサミを入れられてから、あちこち引っ張られブローってやつをする。春まで適当に千円カットに通っていた俺は、夏に「日本で散髪禁止令」を出された。第三家本家に相応しい髪形があるとかで、ひと月に一度はこちらに来て整えてもらっているのだ。なんだか自分のキャラに似合わない軟派な髪形になってきているし、艶出しのためのやり方とか、お肌の手入れ方法とか習って、日本でもできるだけ毎日やるよう言われたのだ。正直、面倒くさい。顔のあちこちや襟足(えりあし)剃刀(かみそり)を当てられた後、眉毛を整えるという名目により、毛抜で一本一本引っこ抜かれ、痛みと情けなさでライフが激減。


 内心「とほほ」な気分で、なすがまま、されるがままにお世話をされて、ようやく昼食の時間となった。味気ないが、今日は皆、それぞれ支度の進行度が違うので、自室で各々軽食を取ることになっている。簡単な食事とお茶が出され手早く済ますと、いよいよ豪華な衣装の着付けと化粧だ。この化粧に関してはマドリガーレの誕生日会の日に散々ごねて、ごねて、ようやくニキビ隠しだけするというところで妥協し合った。

 まったく、高校生なんだから、ニキビくらい普通にできるっつーの。


 全身整えられて侍従と女官から合格をもらい、ふらふらしながら階下の応接室に向かう。準備ができた人からこの部屋に集合することになっているのだ。もうこの時点で俺のライフはエンプティ状態だったが、本番はこれからだ。


「あ、お()ぃ」


「ソラ義兄(にい)さま、ご用意終わったんですね。格好いいです」


「うん、お兄ぃ、ステキだよ」


 ぐったり肩を落としたまま扉を開けると、中には妹の麗美と、マドリガーレの弟のスピリトーゾがいた。父レチタティーヴォとアルマンド叔父も整え終えたらしく、既にソファに座って待っている。


「おお、奏楽、ようやく来たな」


「なんだか疲れている様子だな……夕べはよく眠れなかったのかい?」


 生まれた時からこの家で貴族として生きてきた父親と叔父には、この窮屈(きゅうくつ)さは理解してもらえないだろう。でも可愛い妹が褒めてくれたので、気分が少し上昇した。ちなみにスピリトーゾはなんかムカつくから、褒められても嬉しくない。そして麗美からもうちょっと離れろ。ぴったりくっつきやがって。


 そうこうしているうちに、アンティフォナ叔母の用意が整い、母蘭々が来て、最後にマドリガーレが「遅くなってごめんなさい」と言って微笑みながら入って来た。


「わぁ、マーレお姉ちゃん、きれーい! お姫様みたーい!」


「そうですね! マーレ姉さま、綺麗です!」


 本当だ。

 胸元からお腹の辺りまでが濃い目の桃色、そこからだんだん色が薄くなって腰から下は淡いピンク色になり、膝下くらいは白かと思うほどの薄い色味と、全体的に綺麗なグラデーションとなっているドレスだった。しかも袖と裾に飾りレースが施されていて、それが淡いグリーンとなれば、なんとなく桜のイメージを思い浮かべてしまう。胸元を飾るネックレスと、ハーフアップっぽく複雑に結い上げた銀色の髪に挿してある飾りが、またピンクと緑の花飾りなので、本当に一足先に春が来たように感じてしまう。

 そう、麗美が言うとおり、マドリガーレはおとぎ話に出てくるお姫様のように綺麗だった。


「ふふっ、レミ、スーゾ、褒めてくれてありがとう」


 そう言って微笑む彼女は、まるで春の妖精のそのもののように愛らしい。そして軽やかな足取りで俺の方に近付いてくると「ソラ」と、そのとても魅力的な笑みを向けてくれた。


「……お兄ぃ、口、開いてるよ」


「あの……ソラ義兄さま、マーレ姉さまを褒めてさしあげないんですか?」


 スピリトーゾに袖をツンツンと引っ張られてハッと気づき、慌ててマドリガーレに声をかける。


「マ、マーレ……素敵だ、まるで……」


「まるで?」


「いや、あの、その……」


 周囲の視線が痛い。

 大人達の生温かく見守る雰囲気が場を包み、麗美からは目をキラキラさせて次の言葉を期待している様子が見られ、スピリトーゾはなんだかハラハラしているような感じがする。

 そんな中、微笑みながらじっと俺の言葉を待ち続けているマドリガーレ。


「えーと、だから……」


 体中から汗がダラダラ流れているような気がする。

 その時。


「皆さま、パストラーレ様とアリア様がお着きになりました」


 侍従長から声がかかり、大人達がサッと立ち上がってエントランスに向かってしまった。それと一緒にぴょこんと立ち上がり、走って行った麗美の後を付いて行こうとして、一回だけ心配そうにこちらを振り向いたスピリトーゾの顔が見えたけど。

 俺は棒を飲んだように立ち尽くしたまま動けなかった。


「ソラ?」


「…………」


 一瞬、ちょっとつまらなそうな顔をして軽くため息をついたマドリガーレは、気を取り直したように明るく笑って「私達も行きましょう?」と声をかけてくれた。


「ほら、エスコート、してくれるんでしょう? 今日のソラはとても素敵よ。立派な紳士だわ」


 そう言って俺の腕をひょいと持ち上げてエスコートの形にすると、満足そうにひとつ「うん」とうなずき、そこに自分の手をかけて「さぁ、アリィお姉さまの所に行きましょう」と笑ってくれた。


「う、うん……」


 にこにこと機嫌良さそうに笑う彼女が、本当は俺に褒めて欲しかったことくらい分かっている。

 視線を思わず左右に泳がせて、干上がって乾いた舌を無理やり動かした俺は。


「……マーレ」


 扉をくぐって廊下へ出る直前、ようやく早口で言い切った。


「まるで、春の妖精みたいだ、すっごく可愛い」


 めちゃくちゃ顔が熱い。

 首から上が沸騰(ふっとう)したみたいだ。


 照れくさくて、ごまかしたくて、先に進みたいのにマドリガーレが立ち止まってしまい、メチャメチャ困ってしまった。

 恐る恐る彼女の顔を見てみると。


 本当にここだけ、一足先に春がやって来たように、彼女は喜びにあふれた柔らかい微笑みを向けてくれていた。

今日から最終章である第四章の始まりです。

お待ちくださっていた方、ありがとうございます。


今までに張られ、間章4に解答を得られなかった伏線を、この章で全て一気に回収していきます。

悲しみも苦しみもある第四章ですが、登場人物達と一緒に乗り越えていっていただけたらと思います。

ぜひソラ達を応援してください。


次話はブリンちゃんの生誕祭に出席します。

ソラとブリンちゃんの出会いはどんな感じか、楽しみにしていただけたら嬉しいです。


次回更新は11月16日(金)です。

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