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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
第一章 ソラと異国と綺麗な魔術
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9.大人から聞く話

 アルマンド叔父の館は、本来は王都で駐留する際に使用されるコン・センティメント家の別邸宅である。


 領地にある本邸には父レチタティーヴォとアルマンド叔父の弟が住んでいて、領主の仕事を代わりに引き受けてくれているとのこと。次男であるアルマンド叔父がコン・センティメント家の本家三兄弟の中で一番魔力が高かったので、この家を継ぐことになったのだが、魔法長官として王都在住が決定してしまい、その上長兄のレチタティーヴォが日本へ移住すると決めてしまったため、兄達の代わりに一番下の弟が快くその役目を引き受けてくれたのだという。


 しかし本当の領主はアルマンドだ。彼は魔法長官の仕事をこなしながら、領地が多忙な時期は週に二日も転移装置であちらに戻り、領主の役目も果たしているようだ。それを聞くとアルマンド叔父はなんて大変なのだろうと思う。


 たまには本邸に行ってみないかと時折誘われるが、俺は一度もうなずいたことがない。

 俺の目にはこの別邸自体も、外観の装飾、内装、家具や飾ってある美術品のひとつひとつが素晴らしく豪華、かつ年代物、金のかかった超高級品に見えるが、領地の本邸はそれ以上だという。好んで足を踏み入れたいとは思わなかった。


『相変わらず、宮殿みてーだな……』


 ものおじせずにはしゃぎ回れる麗美を逆に感心する。自分など、庭でボールひとつ蹴るにも、綺麗に手入れされたお庭の植物サマに傷をつけたら困ると思ってできないに違いない。


 そんなことを考えながら案内されて部屋に入ると、飲み物を出されて叔父達から話をされた。


「ソラ、皆で話し合ったのだがね、ここにいる間……十日くらいのことだと思うが、きみには魔力調節能力を(みが)く訓練をしてもらうことにした」


「え、そうなんですか……」


「奏楽、お前にはあまり詳しく話したことがなかったから知らないと思う。今日初めて話すのだけど……こちらの者の魔力は、年齢と共に上がり続けていく。そのピークが二十五歳くらいで、それ以降、二十五年から三十年ほどがその状態を維持する安定期に入り、その後、魔力は五十年ほどかけてゆっくりと落ちていく」


 父親の説明に頭の中でなんとなく計算していて、ふと気づいた俺は大声で叫んだ。


「え、それって、こっちの人って、寿命が百年以上あるってこと!?」


「まぁ、だいたい百歳から百十歳くらいは普通に生きるかな。百二十歳を超すと長寿と言われる」


「俺は……いくつくらいまで生きられるんだろう……」


「こればっかりは分からないな。ハーフ第一号のお前が前例となっていくしかないから」


 自分の寿命など考えたことがなかった俺は、頭の中がぐるぐると混乱してしまっていた。


「現実的な話……もしも奏楽が百二十歳くらいまで生きたとする。日本で生活していたら、それは難しい話だよな。まぁ、今はハーフも数が少なくて、登録されている子も皆、生活上ではそれを隠して生きているけど、あと何十年かしたらハーフも普通にカミングアウトして生きるようになるかも知れないからなんとも言えないんだが……今の状態では、奏楽は日本での生活を選んだとしても、老後はこちらで過ごさなければならなくなると思う」


「そ、そっか……」


「日本ではそろそろ定年を迎えると言われる年でも、こちらでは魔力のピークから少しだけ減らしたという状態を維持している年齢だ。魔力の調整ができないと困るんだ」


「うん……」


「実は、もしも寿命が平均的日本人と同じくらいだったとしても、日本で安全に暮らしていくためには、魔力調整訓練が必要なんだよ」


 父親の言葉に反応し、慌てて顔を上げる。


「どういうこと?」


「こちらでは誰でも、学校で魔力調整訓練のやり方を習う。こちらには、自然からあふれ出る魔力の流れ……魔流があるんだ。山も、川も、海も、樹も、微量だが草や小さな花も、全ての自然が魔力を保有している。偉大なる自然は、魔力の流れをいつも放出し、新たな魔力を吸収し、呼吸をしているのだ。その流れが急激になれば災害が起きたりするのだが、まれに、その急流の場に居合わせた者が、魔流の力にあてられて体内の魔力を暴走させてしまうことがあるのだ」


「暴走……」


「たとえるなら、見た目は穏やかな川だったので歩いて向こう岸まで渡ってみようとしたら、中は想像以上にものすごく速い流れで足を取られて転び、(おぼ)れて死んでしまう……そんな感じだな」


「怖いね」


「そう、とても怖い。速い流れの川の中で転ばないためには、ひとつは危険な川を見きわめてそもそも川に近づかないこと。そしてもうひとつが足腰を(きた)え、身体のバランス感覚を養って、思いがけず急流の川に入ってしまっても、流れに足を取られないような強い身体を作っておくこと」


「……うん」


 父レチタティーヴォは大きく息を吐いて、椅子の背もたれに寄りかかり、足を組み替えた。


「魔力の調整訓練というのは、自然の中にある大量の魔力が自分の中に入ってきた時、それを過度に取り込み過ぎないようにするためのもの、というのが目的だ。そしてその訓練の課程で、大量の魔力が渦を巻くように滞留している場所の見分けをいち早くつけ、その場から離れられるようになることもできるだろう。訓練することによって、過度の魔力にあてられて、お前自身が溺れてしまわずにいられるようになるはずだ。その為に、魔力調整訓練をして欲しい」


「う……ん、分かった。でも、どうして日本人の平均寿命だとしても訓練が必要なの? 俺は日本では生きていかれないの?」


 俺は何が何でも日本で生きていきたい。

 できるだけこちらの生き方に染まりたくない。

 日本で死ぬまで生活できるなら、ぜひともそちらを選びたかったのだ。


「うーん……詳しい話をいちから話すと、だな。実は、こちらでは人も自然の一部なのだ。人も他からの魔力を吸収し、自分の魔力を排出している……自然に、呼吸のように。その中で、人の中にある良くない感情、たとえば、妬みや恨み、怒り、悲しみ、そういったものも、魔力に乗って排出されてしまう。負の感情を溜め込まないようにする人間の自己防衛能力だな。自然の中ではそれらはいずれ拡散して消えていくだろうが、人が集団で暮らしている場所ではなかなかそれは難しい。特に都市部では、街のあちらこちらでそういった良くないものを含んだ魔流が吹き溜まりのように留まり、渦巻いているんだ」


 父親の説明に、路地裏の暗いつきあたりで何やら黒い(もや)のようなものが(うごめ)いている様子を想像してしまい、ぶるっと震えが走った。


「訓練をしないとそういったものがある場所を見分けることもできないし、そうなれば避けることもできず、体の中に良くないものを取り込んでしまう。結果、自分が暴走してしまうんだ。とても怖いだろう?」


「うん、怖い。ねぇ、人が暴走してしまうとどうなるの?」


「死ぬ。しかも周囲の人を巻き込んで。暴走者の持つ元々の魔力が高ければ高いほど、周囲への被害は甚大だ」


 ……ということは。

 先ほど自分が出した類を見ない魔力測定結果を思い出し、恐怖する。


「それで、さっきお前の手首に着けたバングルが必要になる。訓練をしていても自分ではどうにもならない事態になった時、このバングルが多少なりとも、魔力を取り入れたり放出したりするのを手助けしてくれるのだ。魔力が高い家系に生まれた者は、これを装着することを義務付けられている。お前もずっと身に着けていなさい」


「分かった。でも日本に帰る時は外して良いんだろ?」


「まあ、そうだな。だがこちらほどではないんだが、実は日本にもそういった吹き溜まりの場所はあるんだ。都心の、繁華街と呼ばれる場所のあちこちに……」


「そうなの!?」


「人の心に巣くう悪感情は、こちらもあちらも、そう変わりはないということだね」


「そっか……」


「お前が一生日本で生きていくにしても、田舎に引っ込んで、ほとんど人と交わらないで生活するなんてことはできないだろう。だとするならば、お前が高い魔力を保有している以上、必ず訓練は必要だ」


「うん、分かった。都会でそういう良くない場所を見分けられるように、そして避けていかれるように、もしも状況的に避けられなくても、自分を見失わないでいられるように、ってことだね」


「そのとおりだ。だからここにいる間、真剣に訓練をして欲しい。分かったね、奏楽」


「うん」


 素直にうなずくと、周囲の大人達は一斉に安堵したようだった。

 それを見て、ああ、心配かけていたんだな、と俺は感じた。


 ようやく、初めて、そう思ったのだ。

父の実家はお貴族様で、叔父は領主様でした。庶民育ちのソラには色々ついていけません。(笑)

そして魔力暴走の話を初めて聞くソラ。

裏話として、どうして今までそんなに怖い話を親達が説明しなかったかというと。

説明しようとしても、コントラルト国へ行きたくないソラが聞く耳持たずだったから。ついでに反抗期だったので。(笑)

今回、ソラが素直に聞いてくれて良かったです。親世代もホッとしたことでしょう。


次回更新は3月21日(水)です。

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