↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/14

「聖宝の試練」

 螺旋階段を上り地上に出ると、もう日が昇りつつあった。そして、手に持った盾がなにやら光を帯び始めた。

 「グリンドさん、これは…?」

 「言ったじゃろ?盾は地上でこそ真価を発揮するとな。聖鏡盾はその名の通り聖なる鏡、光を増幅させて反射するだけでなく、奴らにとって天敵の太陽光を蓄え、必要な時に放つことができるんじゃ。じゃが気をつけろ?一度光を溜めた後、今のお主が連続して放てるのは五回まで。使うタイミングをよーく見定めなさい。さあ、盾を太陽にかざしてごらん」

 ルミナが盾を天に向けると、細かい光の線が集まって、次第に一本の太い光の柱になった。

 「うわ!!これ…すっごく眩しいです…!」

 「うむ、それでいいんじゃ。盾は素直じゃからの、もうお主を持ち主と認めたようじゃ」

 光は次第に小さくなり、最後は槍に触れたときのように収束していった。

 「一度対峙したお主なら分かっておるじゃろうが、奴ら半魔獣には普通の攻撃は効かん。じゃが、太陽の光を全身に浴びせることで、通常の武器による攻撃が大ダメージになるほど身体が脆くなる。まあそれでも倒しきることはできんがな」

 「それじゃあ…一体どうしたら…」

 「答えならお主の右手にあるぞい」

 「…祈りの石?」

 「その通り。その武具は心の器。持つ者の心により、いかようにもその姿を変える。今はまだ小石じゃがな。お主の精神の成長次第で、奴らの体を真っ二つにするほどの切れ味を誇るようにもなるんじゃ」

 「今はまだ…扱えない?」

 「うむ、じゃからお主はこれから試練を受けなくてはならん。石を使いこなす心を手に入れるために」

 「試練?」

 「選ばれし者が聖宝を手にした時、夢のなかで女神からその者に必要な試練を聞くとされておる。試練の内容も数もワシにも分からん、すまんな…」

 「あの、一つ聞き忘れてました。グリンドさん、"黒いローブを身に纏った長身の男"…奴の正体は一体何なんですか?」

 その言葉を聞いて、老人の表情が一瞬曇ったのをルミナは見逃さなかった。

 「うむ…そうじゃな、そのことも話さなくてはならないか…」

 「聞かせてください」

 「……黒ローブの男、奴の名前は『ディペスト・クブラ』、かつて聖宝を手にする資格を有し、ワシがこの塔の地下に導いた者の一人じゃ。」

 「一人?」

 「まあ待て、それは追々話す。ともかく、奴は資格を持っとった。元々ワシと同じ島の出身でな、幼い頃から類稀なる身体能力を発揮し、精神力も申し分なかった。誰に対しても分け隔てなく接する子で、周りの人間からも愛されていた。まあ、ひと言で言えば純粋じゃった」

 「そんな人がなんで……」

 「そんな人、だからじゃよ…」

 「?」

 「奴は石板とレリーフの内容を聞き、自らのルーツとマンハ族が辿った運命、そしてセイリン島の人間がかつて彼らにしたことを知った。そこまではよかったんじゃ…そこまでは。結局、奴はワシの話を聞いて使命を感じるのではなく、島の人間に対して憎悪を抱いてしまった。共感力に優れた子じゃったから、どうしてもその行いを許せなかったんじゃろ。ワシの制止も虚しく、奴は聖宝を手にすることなく塔から姿を消した。そしておそらく、奴は白い悪魔が身を隠す島へと向かった」

 「!?」

 「半魔獣とは、元々白い悪魔が使役しとったものなんじゃ。奴がそれを使う以上、どこかのタイミングで接触したことは確実じゃ。奴は…悪魔に魂を売ってしまったんじゃ…。皮肉じゃな、かつて悪魔と戦ったマンハ族の末裔が、その手先に成り下がるなんての…」

 「……」

 「幸い、白い悪魔はまだ力を取り戻しておらん、攻め入って来ないということはな。最悪の事態になる前にディペストを討ち、白い悪魔の居場所を聞き出すのじゃ。二つの聖宝を使いこなせれば、戦うこともできるじゃろう。まずは試練じゃ、試練を乗り越えないことには話が始まらん」

 「最後に、さっき言ってた『一人』って…?」

 「!?」

 さっきとは違い、老人はなんだかバツの悪そうな顔をした。

 「聞く覚悟は…あるか?」

 「え?」

 「聞けば、ショックを受けることは確実じゃ…」

 ルミナは老人の表情から、なにか不穏なものを感じたが、聞かないわけにはいかなかった。

 「教えてください」

 「……ワシが塔の最深部に導いたもう一人、それはお主の母親、フィオナじゃ」

 「!?」

 「言ったろう、ショックを受けると。だからこれ以上は――」

 「聞かせてください」

 「ん?」

 「わたし、知らなきゃいけないんです…お母さんがあの日どうなったのか…。娘の私だけは、本当のことを知らなきゃ…!」

 「…そうか…なら、教えよう…」

 

 「お主が生まれるずっと前から、ワシとフィオナはコンタクトを取っておった。お主やディペストと同じく、彼女も資格を有した選ばれし者じゃった。ディペストのことを聞いた彼女は、この島を護るため、聖宝の試練を受けた。そして見事試練を乗り越え、聖宝を我が物としたんじゃ。お主が触れた槍、あれはフィオナが持っていた時の姿じゃ。」

 「!!」

 「じゃが、その後ディペストはなかなか攻めて来なかった。半魔獣を育てるのに余程苦戦したんじゃろうな…。長い時が過ぎ、やがてフィオナは普通に結婚し、お主を産んだ。狩人として、そして母親として、日々を生きるうちに、彼女はだんだん選ばれし者としての力を失っていった…。そして6年前、ディペストの力が巨大に膨れ上がるのをワシもフィオナも感じ取り、離れ小島に潜む奴の元へと向かった。既に全盛期を過ぎたフィオナじゃったが、その槍さばきは凄まじく、奴がせっかく育てた半魔獣を一人で全滅させた。そしてディペストとの一騎討ち。奴はフィオナの槍に全く対応できず、深い傷を負って瀕死の状態になった。そしてとどめを刺そうとした時、奴はこう言い放った。『…お前の娘のいる所に…既に半魔獣を一匹向かわせた…!殺されたくなければ、その槍と盾を置け…!』見え見えの罠じゃったが、フィオナは激しく動揺し、それまでの動きができなくなった。奴はいざという時のために隠しておいた半魔獣を呼び出し、最後の猛攻を仕掛けてきた。そして、フィオナは命を落とした…」

 「!!」

 「じゃが、フィオナの与えた傷は大きかった。それで今日に至るまで、奴は傷ついた身体の修復と半魔獣の再育成をする羽目になったんじゃ。ワシはなんとか槍と盾を回収し、命からがら島を脱出した。すまないの…フィオナの遺体を持ってくることは叶わなかった…」

 「…私のせいだ、私が足を引っ張ったから…」

 「違う!それは絶対に違う!フィオナが死んだのはワシのせいだ!力が衰えた彼女を戦わせたワシが悪いんじゃ!」

 「わたし…お母さんはまだどこかで生きていて、いつかわたしのところに戻ってきてくれるって思ってた。島の人たちが言うように、わたしを捨てて男と逃げたんだとしても、別にいいと思ってた。生きてさえいれば、また会えるって。でも、お母さんはわたしを守るために、あの時死んだ」

 「……」

 「わたし、決めました。この手で絶対に、ディペストを倒す。お母さんが命を賭して守ったこの島は、今度はわたしが守ってみせる…!使命とか運命とか、そんなことどうだっていい。わたしはただ、母さんの意志を継ぎます」

 「ルミナ…そうじゃな、お主はワシが思っとったよりずっとずっと勇敢な子じゃ」

 「そして、かつて母さんがしたように、試練を乗り越えて自分だけの刃を作り上げます。そうすればきっと、あいつに辿り着くことができるから」

 そこで、話を聞いていたナンブが二人の間をくるくる回りだした。

 「ほら、この子もそう言ってます」

 「……一緒に連れて行くのかい!?」

 「はい、この子はわたしの唯一の家族であると同時に母さんの形見でもあります。危ない目には合わせたくない気持ちもあるけど、きっとこの子はどこにでもついてきちゃいます。それに、この子がいればわたし、どんな辛い試練でも乗り越えられそうです」

 「ほっほっほ、そうかそうか、なら二人で行くべきじゃな。ワシも、お主らなら出来る気がするわい」

 「ありがとう」

 「なぁに、礼を言うのはこっちじゃよ」

 「グリンドさんはこれからどうするんですか?」

 「ワシは、ワシにできることをするよ…」

 「じゃあ、くれぐれも気をつけて…」

 「うむ、心配いらんよ。さあ行くんじゃ。島の命運はお主の手にかかっとる。頼んだぞ!ルミナ!」

 

 照りつける太陽の下、宿命の子は進みだした。

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。