第20話「侵入者」
サクヤは、森の気配に足を止めた。
――何かいる。
それも、ただの魔物じゃない。
嫌な感覚が、背中を撫でる。
その瞬間。
――警報が鳴り響いた。
アジト全体に、鋭い音が走る。
「……来たか」
小さく呟く。
さっき感じた“何か”が、動いた。
そう確信する。
振り返った先に――ヴァルカがいた。
「サクヤ」
短く呼ぶ。
「仕事だ」
それだけで十分だった。
同時に、ヴァルカは周囲へ命じる。
「全員、隠れろ」
低い声。
逆らう者はいない。
子供も、大人も、すぐに動き出す。
空気が一瞬で張り詰めた。
サクヤは、仮面を手に取る。
このアジトの大人たちが使う、身分を隠すためのもの。
迷いなく、それを顔に当てる。
覆われた瞬間。
“サクヤ”という個は、消える。
――直後。
侵入者が現れた。
複数の気配。
迷いなく、アジトへ踏み込んでくる。
その先頭にいたのは――ルミナだった。
「あれ?」
軽い声。
場違いなほどに。
「一人?」
くすくすと笑う。
楽しそうに。
その後ろで――
「……あいつ一人か?」
レンが低く呟く。
視線は鋭く、油断はない。
「警戒して!」
リンがすぐに続く。
周囲へ鋭く注意を飛ばす。
張り詰めた空気。
だが、ルミナだけが違う。
「まあいいや」
肩をすくめる。
「サクヤ出せよ」
その名を、当然のように口にする。
仮面の奥で、サクヤの目がわずかに細まる。
声を――変える。
「ここから出ていけ」
低く、少し掠れた声。
別人だと分かるように。
一瞬の沈黙。
そして――
ルミナが、ため息をついた。
「はぁ……」
興味を失ったように。
だが、その目は冷めていない。
「あいつ、やれ」
軽く言う。
指示されたのは、リンとレンではない。
後ろに控えていた兵士たち。
数人が前に出る。
武器を構える。
空気が、さらに張り詰めた。
サクヤは、一歩踏み出す。
右手――義手が、わずかに軋む。
仮面の奥で、感情は消えている。
ただの“仕事”として。
静かに、構えた。
――戦いが、始まる。




