② 婚約破棄?
「……っ、えっと……」
卒業パーティーへ突然現れたオリバー様達に、会場全員の注目が集まる。
私はオリバー様との再会を喜ぶ時間もない。彼から告げられた言葉を処理することに努めるが思考が鈍く、上手く纏まらないのだ。
「あ、あの……」
オリバー様が王都に帰還されたということは、王太子として認められる旅が成功したということになる。彼の無事を喜ばなければいけないが、婚約破棄の言葉がそれを阻む。オリバー様に発言の理由を訪ねたいが、それを聞いたら彼との関係が終わってしまう気がするのだ。
加えてオリバー様の横に立つ美女の存在が気になって仕方がない。私の地味な茶色の髪と瞳に比べて、彼女は爽やかなグリーンの瞳と髪が美しいのだ。オリバー様が彼女の肩に手を置き、その仲睦まじそうな姿に胸が痛む。
まるでこれは憧れていた小説の場面そのものである。しかし王子に守られるヒロインの立場ではなく、婚約破棄をされる悪役令嬢になるとは想像出来なかった。
「シャーロット」
「……は、はい」
何も言葉を発しない私に痺れを切らしたのか、オリバー様が私の名前を呼んだ。想いを寄せている人物から名前を呼ばれて、返事をしない者は居ないだろう。掠れた声を出す。
漆黒の髪を撫で付け、正装に身を包んだオリバー様の姿に息を吞む。旅に出られる前よりも凛々しく逞しく成長されている。
祈ることしか出来ない私よりも魅力的な女性と出会えたのだろう。私は用済みで邪魔な存在になったからこその婚約破棄なのだ。国王陛下御夫妻や私の両親もこの場に居るが、彼の発言を諫めないところを見ると了承済みということになる。
「君に伝えたいことがある」
「なんでしょうか、オリバー殿下」
彼の琥珀色の瞳に私が映る。きっとこれが最後だろう。
婚約破棄の内容など聞きたくもない。オリバー様との関係が変わってしまうことが嫌だ。私以外を隣に連れて欲しくない。本心を叫びたいが、公爵令嬢である私にそれは許されない。
「私と結婚をしてくれ」
彼は床に膝を着くと、私に求婚をした。