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ep.12 花のんの音

 「人は変わっていく。それは嬉しいことであり残酷であり尊いことだよね。だって生きてる証拠。」


(じゃあ変わらないボクの生きてる証拠はどこ?)


「花のん!元気か?1週間ぶりだなー!」


俺は薄く雪が積もった早朝の道をザクザク歩きながら今日も一軒家の前にいる花のんに話しかける。


ただ一点だけを見つめている花のんの目は虚ではない。キラキラと輝いてもいない。ただその部屋に釘付けで動かないんだと感じられる。熱心なものだ。


「1週間ぶりだね!雪が積もってるね〜冷えるから風邪ひかないでね」


最近花のんはこちらを見てくれる。それが嬉しい。


いつもだったら数分だけ話をしていなくなる。ただ今日は様子が違った。

現在 朝の8:00 花のんが釘付けになっているこの家の前に数台のトラックが停まっていた


恐らく引っ越しをするのだろう

目的地は知らぬが今日お別れをしたらもう一生花のんに会えない気がした。


「花のん、この家の人達がどこに行くのか知ってる?」


「ううん、知らないよ。えっ?どこかに行くの?」


花のんは引っ越しという存在を知らなかったようで目を見開いて驚いていた。


「多分この家の人達は引っ越しって言ってどこか違うお家に住むつもりなんだと思うよ。」


「そんな、、、じゃあボクまたあの子と離れ離れなの?」


悲しみに満ちた顔で家の方を向いたかと思えば視線の先から3人家族がでてくる。お父さんとお母さんと成人はしているであろう若い女性の3人だ。

おそらくあの若い女性が花のんの、、、


「ことはちゃん!!!!!!!!!覚えてる?

ボクだよ!!!花のんだよ!!!!!」


大声を出して花のんは女性の元へ走っていく。


しかしその女性に花のんの姿は見えていない。鈴の音のようにカラカラと可愛くシャンとしている花のんの可愛らしい声が辺り一体に響き渡る。

花のんは自分の声が届いてほしくて必死だ。


家族は業者さんにお願いしますとにこやかに話していて花のんなんてまるで見えていない。

居ても立っても居られなくなった俺は女性に話しかけようと家に近づく。


「廃棄の物はこれだけでしょうかー?」


「すみません、あとゲーミングPCも廃棄でお願いします!」


「新品も同然じゃないですか!本当に良いんですか?」


「はい!もう使わないのでいらないです!」


そのやりとりを聞いて青ざめる。ゲーミングPC。つまり花のんの家が捨てられる、もう彼女にVtuberは花のんは必要ないのだと言うことだ。

花のんはそれを間近で自分を介さず告げられた。


「花のん、、、、。」


花のんは諦めたようにでも慈愛に満ちた顔で『ことは』という中身の人間を見つめていた。

やがてトラックと家族を乗せた車は出発し俺たちだけがもう誰も住んでいない一軒の前にいた。


「ねぇそんなに悲しそうな顔をしないで?君の好きな歌はなに?ボクお歌は上手じゃないけど歌おっか?」


最初に口を開いたのは1番悲しくて辛いはずの花のんだった。


「こんなっ、、、、、時くらい自分の感情を優先すればいいのに。悲しい時は泣いてもいいんだよ。」


涙を堪えるのに必死なのは俺の方だった


「ボクはね、バーチャルだから変わらないの。人々が否定をする中の人がいて初めて声も表情も動くの」


子どもを慰めるような優しい眼差しで花のんが語りかけてくる


「でも中の人がいないなら動けないボクに生命はないよ。ボクは生きていないんだ。だから心も動かない、悲しくなんてないよ。泣かないで」


「泣いてなんか、、、いや。俺は悲しくて大泣きしたいよ。だって花のんがどんだけあの人を待ち望んでいたか、もう一度一緒にステージに立つ為に頑張ってきたかを知っているから悲しくて悲しくてしょうがないよ」


「ボクの為に泣いてくれるんだね。ありがとう!でもね、悲しくなんてないよ。だってあの子は家族に囲まれて笑顔だったもん。それだけでボクは嬉しくて幸せなんだ」


「あのね」と花のんが俺の頬に手を伸ばして微笑む。


「ボク、今日までここで待ってて良かったと思ってるの。結果は望む方向に進まなかったけど、あの子の笑顔が見れた。ボクが1番に笑顔にしたかったのはあの子なんだ!!!そして」


「1番お礼を伝えたいのは君。今日までありがとう。ボクは眠るけどこれからも生きていく君に幸あれ」


我慢できずに鼻水と涙が雪にボタボタと落ちる

神様こんなのあんまりだ。無償の愛で健気に待っていたこの子はなんで報われないんだ


「こんなの俺の知ってる幸せじゃない」


「幸せだよ。ボクがひとりぼっちにならないようにいつも君はここに来てくれた。ボクは恵まれている。」


「そんなのファンなら、友達なら当たり前だ」


「優しい君に1つお願いがあるんだ。個人情報に配慮してずっと聞けなかったんだけど君の名前が知りたいな。」


「そんなのいくらでも教えてやる。だから眠るなんて言わないでこれからも側にいてほしい、、、」


少し困ったように微笑む花のんを見て俺はそれが無理なことを悟る


「俺の名前は紫音。紫に音って書いてしおんだ。花のんに似てたからなんだか照れくさくて自分からは言えなかったんだ。」


「ふふ!ボクと一緒だね!!!でも君には音って字があっていいなぁ!羨ましい」


「花のんにも俺の音とお揃いの字あげるよ。花のんは今日から花音だ!」


涙でぐちゃぐちゃの顔で俺は言う。カッコつかないな


「花音?ボク今日から花音になるの?嬉しいなぁ!!ありがとう!!!!!嬉しい!!!!!!!!」


花音が大きな目に涙をためてキラキラと笑う。その瞬間に大きな風がビュウッと吹き思わず目を瞑る。

次の瞬間に花音はいなくなっていた。


その日を境に俺は花音に会えなくなった。ネットにも花音についての情報やSNSのアカウントも全て無くなっていて次第に俺の記憶からも薄れていくのがわかる。

でもただ一つ、俺には後悔がある。そう、花音が私は生命じゃないと言った時に否定してあげられなかったことだ。


バーチャルのその先には生命が動いている。確かに誰かが生きている。

それを俺は知っているのに伝えてあげられなかった。その後悔を胸に今俺はアルバイトをしながらVtuberを題材にした小説を書いている。

花音のことをずっと覚えていることは出来なくても、あの子がここで生きていた歴史を残してあげたいからだ。


知っていてほしい。画面の向こうで健気な生命が動いていることを

人生で初めて書いた物語です。

電子の海で生きる彼ら彼女らに幸あれ。引退し、誰の目に留まることもなくなったVtuber全員がどこかで幸せであれ。そう思って書きました。

生命の定義はわかりませんがみんな生きています 


拙く稚拙な文ではありますが最後までお読みいただきありがとうございました。これでこの物語も生きられます

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