第18話。樹海①。
「え?」
洞窟の出口。
その光の射す方向へと、一歩一歩、みんなと一緒に歩んで来たはずなのに。
「嘘でしょ?」
洞窟の出口に辿り着いた瞬間、眩しい太陽の光が目に飛び込んで来て──
「ここ、何処?」
──誰も居ない。
さっきまで、隣にいた南さんも大山君も、轟さんも居ない。
森の奥から鳥の鳴き声が聞こえる。
見上げると、鬱蒼と生い茂る樹木の枝葉の隙間から、眩しい太陽の光と青空が覗く。
「う、眩しい……。地上、だよね?」
何故か神秘的なものを感じる。
僕の足もとからは、獣道って言うんだろうか、暗く生い茂る樹木や草葉の中に細く伸びていた。
けど、森の奥の向こう側から、得体の知れない何かがやって来そうな恐さがある。
「み、みんなは? 何処、何処にいるの?」
だんだん、目の前の景色に目が慣れて来ると、不安を覚える。
明らかに僕一人、迷子になってるって言う事実を突きつけられているから。
「おーい!! みんなー!! おーいっ!!」
びっくりするくらい僕の声が、森の奥まで静かに響いて木霊した。
いよいよ怖くなって来て、後ろを振り返ってみても──、
──誰も居ない。
同じような鬱蒼と生い茂る樹木や草葉の影が、森の奥の暗闇へと続くだけ。
もはや、前を向いているのか後ろを向いているのかさえ、分からない。
「な!? ど、どっちなんだ!? どっちに進めば……。そ、そうだ」
僕は耳もとに装着しているピピ郎先生のデバイスを思い出した。
普段は、ふざけてるピピ郎先生だけど、今ほど心強いと想ったことはない。
「けど、どうやって使えば……」
心強いんだけど、使い方が分からない。
洞窟を抜けるまでに取り扱い方の説明くらいして欲しかった。
やっぱり、ピピ郎先生は、ヴァンパイアみたいだけど肝心なところが抜けているんだなって想う。
「うぅっ……。ど、どうしよう……」
なんか、泣けて来た。
いや、これって本当にヤバいんじゃないのって想う。
目に涙が込み上げて来て情けなくって、何をどうしたら良いのかが分からない。
(──ピピピ……。ザー、ピピピ……)
「ん?」
耳の奥から何かが聞こえる。
ピピ郎先生がくれた『デバイス』から音のような声みたいなのが、聞こえた。
「な、ドーなって」
「ちょ……、ドコ」
「ナニ、コレ……」
(声だ! みんなの声がする!!)
僕は、今ほど人の声が聞こえるのを嬉しいと想ったことはない。
けど、ピピ郎先生のデバイスから聞こえる声は、僕と同じように困ってて戸惑っているみたいだ。
(聞こえた──って、ことは僕の声も?)
一瞬、閃いて──、
──僕は、鬱蒼と生い茂る樹木の隙間から射し込む日の光に向かって、叫んだ。
「赤羽射矢です!! 聞こえますかっ!!」
僕の声が森の奥へと響き渡る。
「ア……──!」
「──カバネ……」
「くん──?」
デバイスから僕の耳もとへと響く三人の音声。
間違いない。大山君に轟さんに、南さんの声だ!
「み、みんな! 何処にいるのっ!?」
僕はなんだか嬉しくなって、樹木の枝葉の隙間から青く見える空へと向かって叫んだ。
「わ、分からネ……」
「ひたすら、ミドリ……」
「木の枝と、葉っぱ……」
どうやら、みんな、僕と似たような場所に居るみたいだった。
けど、どっち方向に進めば良いのかさえ分からないくらい、前も後ろも樹木がたくさん生い茂ってて分からない。
とりあえず登れば良いのかも知れないけど、今居る場所は昼間なのに薄暗くて不安になる。
(みんな、独りなんだ。僕も頑張らなきゃ……。けど、どうする──)
──考えても考えても、分からない。
森の奥から鳥の鳴き声が聞こえる。キレイな鳴き声で、少しだけ安心する。
でも、こう言う時は、下手に動かない方が良いって誰かが言ってたような気がする。
それもそのはずで、ちょっと視界を横に向けると谷になってて、川が流れているのか水の音が聞こえる。
それに、草の緑が地面を覆ってて足もとが見えない。
穴ぼことかに落っこちたら、大変だ。
先生たちや他の生徒の子たちも、どうしてるんだろうって想う。
「せめて、ピピ郎先生のこのデバイスの使い方が分かったらな……」
辺りを見回しながら、僕は無意識に呟いていた。
「分かる……よ。アプリ……みたいなの。位置情報の取得。とりあえず、班の子たちのだけ分かる。山の地形……も」
途切れ途切れだけど、南さんの声が、ピピ郎先生のデバイスから聞こえた。
「おぉっ! 南! デカしたぜっ!!」
「さ、流石~っ! 南さん!!」
デバイスの奥から、大山君と轟さんの明るい声が響く。
ザーザーと流れる川の水の音も、時々聞こえる鳥のキレイな鳴き声も、まるで声援を送ってくれているように感じる。
なんだか、希望って言うか、勇気が湧いて来た。
「待ってて。今、みんなのとこ、行く……から」
南さんの確かな声が聞こえて、その後から、大山君と轟さんの声がデバイスの中で混じって聞こえて来た。
「な!? ど、どうやって──、」
「──も、もしかしてっ!?」
「私は、幽霊だから──、飛べる……」
いつもは消え入りそうに頼りない南さんだったけど、この時ばかりは凄く力強くて、頼もしさみたいなのを南さんから感じたんだ。




