第17話。『第1回クラス対抗洞窟山登り合戦』~(洞窟編)~ 8。
「ハァハァ……。流石に、キツいぜ」
僕らA組の同じ班の大山君が、重そうな身体をいつも以上に引きづりながら、息を切らせていた。
それもそのはず。
あれから、強制的に霊スキル『【間】』の状態にするピピ郎先生の創ったピンクの腕輪が、解除されたからだ。
『【間】』の状態を完全に維持出来ない僕らは、この『修験洞』に霊力や妖力がやたら吸われるみたいに感じていた。そんな中、洞窟内に吹くヴィシュヌヴァ先生の風は、凄く救いになっていた。
けれども、生徒の子たちによって『【間】』の修得率は、かなりバラつきがあるようで。やっぱり、みんな苦しそうだった。
「なーに言ってんのよっ! いつものデカい態度は、どうしたのよぉ!」
流石に鳥みたいに良くしゃべる轟さんも、チラリと横目で大山君を見ただけで、今は前を向いて歩くだけで精一杯のようだ。
青紫色に光る洞窟内の不思議な光が、やたら眩しくてツラく感じる。
ヴィシュヌヴァ先生の霊力回復の癒しの風が無ければ、僕らは立つことさえ出来ないんだって、改めて感じさせられる。
さっきまで、僕は出来るヤツなんて持て囃されてたけど、霊スキル『【間】』を常に安定して維持させるのは、かなり難しい。コツは掴んだけれど、気を抜くと霊力をすぐに持っていかれそうだ。
それでも、どのクラスの子もなんとか耐え凌いでいるようで、最初に『修験洞』に来た時みたいに倒れるような子はいなかった。
「浮いてるだけで、精一杯……」
南さんが長い睫毛をゆっくり閉じながら、フワフワと力無く浮いている。
両手も長い前髪もダランとさせた状態で、南さんは絵に描いた幽霊さんのような姿になっていた。
僕らの班は、各クラスの中でも最後尾に位置していて、ここから洞窟の出口に向かって、みんながツラそうに長い列をなして、ゆっくりと歩くのが見える──。
(──お爺ちゃん校長先生の『全員が先にゴールしたクラスが勝ち』の話を聞いてから、生徒の子たち、みんなの進むスピードがゆっくりになってる……)
だけど、ここに来て霊スキル『【間】』の修得率によって、かなり差が出始めているみたいだ。
脱落者じゃないけど、ポツリポツリとついて行けなくなった子たちが、置いてけぼりにされ始めた。
特に幽霊な子たちには、その傾向が強くって。
かと言って、他の浄霊師の子たちも妖魔の子たちも自分の霊スキル『【間】』を維持させるのに精一杯みたいで。
「み、南さん、しっかり!」
僕は、やれるかどうか分からないけど、もう一度意識を身体全体に素早く集中させて『【憑】』を発動させようとした。
(ブブブブ……──)
(──き、来た……)
僕は脇を抱えるようにして南さんを支えて、その手をぎゅっと握りしめた。
「あ、ありがと。赤羽君」
チラリ──と、黒くて長い前髪から南さんの長い睫毛と大きな瞳が覗いた。
僕と目の合った南さんは、少しだけ目を閉じてニコッとした。
「い、いや。べ、別に良いよ。気にしないで……」
僕は、少し恥ずかしくなって青紫に光る洞窟の地面を見た。
(うっ、け、けっこう目に来るよね……)
恥ずかしさを紛らわせてから顔を上げると──、
洞窟の出口へと伸びる生徒の子たちの列の中で、何かが始まるのを目にした。
「霊スキル『【憑】』──。拙者に上手く出来るで御座ろうか? しかしみんな、ヘバっているで御座る。拙者、今こそ試練の時。いくで御座る! 甲賀流闇忍術『蜘蛛糸縛り』──!!」
そう言ったC組の御剣君が、静かに目を閉じて両手を口もとに当てて『印』を結ぶと──、御剣君の口の中から、何か透明な極細の蜘蛛糸のようなのがフワリフワリと伸び始めた。
「な!? み、御剣君!?」
「な、何、なに!? 何かヤラかすつもり!?」
隣にいた満天君と青風さんが、口々に目を見開いて驚いている。
「ヴィシュヌヴァ先生の風の助力もあって、上手く行ったで御座る。蜘蛛糸の射程距離は、同じC組の幽霊殿たちを引っ張るので精一杯で御座るが……」
御剣君の近くにいるC組の幽霊な子たちが、ゆっくりと御剣君の口の中から伸びた蜘蛛糸に引っ張られて行く。
御剣君の足の草履と足袋が、力強く洞窟の地面を踏み締めていた。
「ちっ! あの忍者バカやりやがるぜ。なら、俺も負けてらんねぇよ」
その少し後方──。
──センター分けイケメンなB組の花園君が、歯を食いしばりながら何かをしようとしている。
「くっ! あ、アンタ、まさか、『【憑】』やるつもり!?」
すぐ近くにいた火の鳥妖魔の紅さんが、赤いショートの前髪を掻き分けて、花園君の様子を見て驚いている。
「へっ! 俺だって植物霊使いとして親からも期待されてんだ。ここでヤラなきゃ男が廃るぜ。それに忍者バカには、負けたくねぇよ」
すると──、長身の花園君の手からスルスルと小さな細い蔓のような植物が伸び始めた。
「出来たぜ……」
スルスルと伸び始めた花園君の出した蔓が、B組の幽霊な子たちをクルクルと包んで引っ張る。
「アンタだけじゃ頼りないから」って言った紅さんも、その蔓を掴んで引っ張ってる。他のB組の子たちも。
もしかしたら、『【憑】』が少しずつ出来始めているのかも知れない。
「!? や、ヤベーぞ! 赤羽!! C組のヤツらもB組のヤツらもなんか、やり始めたぜっ!?」
「ちょ、落ち着きなさいよ! 大山白虎!!」
「うがっ!?」
大山君が、大きな身体を揺らして慌てている。
けど、轟さんに、フルネームで呼ばれてピタリ──!と、止まった。
僕も何とかしなきゃって、想うんだけど……。
「轟さん、赤いアヤトリ紐……」
「分かってる。けど、出来るかしら……」
僕に支えられてフワフワと浮いてた南さんが、轟さんと顔を見合わせていた。
轟さんが、少し汗を浮かべるようにして右の手のひらを見つめている。
一つ括りにした轟さんの背中のポニーテールが、ヴィシュヌヴァ先生の風に揺れた。
「出ろ……。出ろ! 私の、アヤトリ組紐!!」
右の手首を握って叫んだ轟さんの手のひらから──、
──赤いアヤトリ紐が、少しずつユラユラと伸び始めた。
「で、出たぁっ!!」
「おぉぅっ! スゲェ!! やるじゃねぇかっ!!」
「轟さんだって、負けてない……」
静かに静かに──、ユラユラと伸び始めた轟さんの赤いアヤトリ紐が、A組の幽霊な子たちを包む。
右手の赤いアヤトリ紐に意識を集中させた轟さんは、しばらくすると無言になった。
C組の御剣君も、B組の花園君も、意識を集中させてるみたいで、同じように黙ったままだ。
「みんな、行こう……」
僕が、静かにそう言うと──。
──大山君も南さんも、黙ってコクリとうなずいた。
少しずつ、少しずつ、洞窟の出口の明かりが近づいて来る。
ゆっくりとだけど、他のクラスの子たちも、まるで蜘蛛の糸を掴むようにして、出口から伸びた光の向こう側へと歩いて行った。
地上へと吸い込まれるようにして──。




