第16話。『第1回クラス対抗洞窟山登り合戦』~(洞窟編)~ 7。
「ちょっと待ったぁ!! なのじゃ!!」
「う、うわっ!? なんです、校長っ!?」
洞窟内に響く突然の大声。
お爺ちゃん校長先生が川岸教頭先生に抱っこされたまま声を張り上げたかと思うと、ひょぃっと、驚いた川岸教頭先生の腕から地面へと飛び降りてニヤリと笑った。
「な、何、急にっ!? お、お爺ちゃん──、いや、校長先生! また、何か始める気ですかっ!?」
僕らA組担任の叶先生が、先生のお爺ちゃんでもある校長先生へと、何かを恐れたような表情で雷のような電光と轟音を立てて駆け寄った。叶先生の赤いジャージ服とツインテールが、黄色く光っている。
(ドッゴォォォン──!!)
これには、川岸教頭先生も、流石のお爺ちゃん校長先生も、ビックリして洞窟の地面へとヘタリ込んだ。
「な、なんじゃ、ゆ、夢葉か。 ビックリさせるでないわい!」
「いや、だって、お爺ちゃんの発言には……」
「そうですよ。毎回、毎回、校長の発言には私たち教師陣が、振り回されてるんですから!」
ヘタリ込んだままのお爺ちゃん校長先生を、駆け付けた叶先生と、ポンポン!と砂埃を払って立ち上がった川岸教頭先生が、間に挟み込むようにして見下ろしている。
「まぁまぁ、良いじゃない? 叶校長先生のダイナミックで素晴らしい発言には、いつも驚かされるけど? 刺激的で興奮するじゃない、夢葉? 楓くんも、ね?」
お爺ちゃん校長先生の発言を持ち上げつつも、叶先生と川岸教頭先生の間に割って入るようにして、B組担任の黒井戸先生が挑発するみたいにショートの黒い髪を耳もとで掻き上げた。けど、川岸教頭先生にだけ左目でウインクする黒井戸先生の姿を、僕は見逃さなかった。
「ちょ、黒音! お爺ちゃんへのポイント稼ぎのつもり!?」
「何それ、夢葉? 言いがかりじゃない? 急な変更にも柔軟に対応するのが教師としての役割よ?」
「い、いや。黒音ちゃんの言うことも分かるんだが、『旅のしおり』の予定時間や行事も立て込んでてだな……」
いつも通り、バチバチ!と目には見えない火花が叶先生と黒井戸先生の間に飛び交っている。
そして、二人の間に挟まれた川岸教頭先生が、オロオロと、どうしたら良いか分からない様子で困っていた。
「相変わらず、三人とも仲が良いな? 私も加えてくれないか?」
その様子を見ていたC組担任の白銀先生が、青いジャージ服に背中の銀に光り輝く大きな剣をガシャン!と揺らしてやって来た。
「いや! 黒井戸先生とは仲悪いですよ! 白銀先生!」
「あら、教師がそんなこと言って良いのかしら? 叶先生?」
「あぁ……。また、ストレスが……。髪が抜け落ちる」
腕組みして睨み合う叶先生と黒井戸先生の間で、頭を掻きむしるようにして俯く川岸教頭先生。
川岸教頭先生の赤いネクタイがヨレヨレになっている。
「ん? まだ、叶校長先生は、何も発言していない様子だが?」
お人形さんのような表情で、黄色の腰まで届く長い髪の毛をスラリと掻き上げて、静かに立っている白銀先生。
「え──?」
「フン!」
「あ……、」
白銀先生の冷静な発言と言うか、僕もずっと思ってたんだけど、お爺ちゃん校長先生は、まだ何も言ってない。
叶先生が我に返り、黒井戸先生がそっぽを向いて、川岸教頭先生がポカンと口を開けたまま固まっていた。
「ウォホン!! では、説明しようかの?」
叶先生、川岸教頭先生、黒井戸先生、白銀先生に取り囲まれてたお爺ちゃん校長先生が、チンチクリンの身体を起こして、ひょぃっと、立ち上がった。
お爺ちゃん校長先生のハゲちょろ毛が、洞窟内に吹くヴィシュヌヴァ先生の風にフワリと揺れた。
「えーと、じゃな……」
「ちょーっと、待ったぁっ!!」
お爺ちゃん校長先生が、何かを話そうとした瞬間。
ヴァンパイアみたいなピピ郎先生が、紅い眼を光らせて、洞窟の天井に青白い指先をまるで突き刺すように、シャキーン!と立てて手を挙げた。
「な、何なんじゃ? ピピ郎君? ワシはまだ」
「いえ、校長先生っ! 私、ピピ郎からも提案があります!」
「いや、じゃから、ワシ、話の途中……」
「生徒諸君っ!! 驚き喜びたまえっ!! 合宿持ち込み禁止のスマホと同等以上の機能を有する『ピピ郎デバイス』を漏れなく進呈して差し上げようではないかっ!!」
洞窟内に響き渡るピピ郎先生の驚きの発言。
お爺ちゃん校長先生が、何か突拍子もないことを言いそうな空気の中、さらに上回る勢いでピピ郎先生の言葉が、全部をかっ攫って行った。
これには先生たちは、もちろん、洞窟内にいる生徒の子たち全員が響めいた。
「んなっ!? ピピ郎ぉっ!?」
川岸教頭先生の目が、明らかに三角の目になり白い光を放っている。
まるで鬼のような形相で、川岸教頭先生の身体から燃え上がる炎のような霊気が立ち昇る。
着ている白のカッターシャツがバタバタと靡き、赤いネクタイが川岸教頭先生の怒髪とともに天を突き刺すように舞い上がる。
「か、楓っ!?」
「楓くん!!(素敵……)」
「ほぉ……。凄まじい霊気。やはり川岸教頭先生。大したものだな」
「ま、まあまあ、楓っち! ピピちゃんの意見っていうか、意図を聞こうじゃない!!」
「いや、それより、ワシ……。話が……」
川岸教頭先生の様子に──、叶先生が驚き、黒井戸先生の目がハート♡になり、白銀先生が感嘆し、お爺ちゃん校長先生から逃げ惑っていたヴィシュヌヴァ先生が苦笑いして、話の腰を折られたお爺ちゃん校長先生が、シュン……として俯いている。
「ピピ郎……。禁止のはずだが……?」
ピピ郎先生に静かに詰め寄る川岸教頭先生が、とてつもない霊気で凄む。
「あ。私、もしかして、川岸教頭先生に浄霊されちゃいます? しかーし! 最期の言の葉を、私の遺言を皆様に届けさせて頂けませんか?」
「楓っち! どうどう!! 落ち着いてっ!! ピピちゃんのお話を聞こうよ!!」
「ダメだよっ!! 楓っ!!」
「あぁ……。素敵。楓くん」
どうなるんだ。一体……。
もはや、先生たちを見てると、僕ら生徒たちだけで自主的に行動した方が良いんじゃないかとさえ思う。
「では、私の遺言の前に、校長からのお言葉を頂きましょう!!」
そう言ったピピ郎先生が、他の先生たちに取り囲まれる中、うな垂れるお爺ちゃん校長先生を、ひょぃっと持ち上げて拡声器のように、僕ら生徒たち皆の前に差し出した。
「あー……。クラス対抗戦の続きじゃが、先にゴールした生徒のクラスが勝ちとするのではなく、クラスメート全員が先にゴール出来たクラスを優勝とする。それに、お助けポイント制を導入し、クラスに関係なく困っている生徒を助けた生徒には漏れなくポイント加算し、合計得点で競うこととする……」
虚ろな目をして俯くお爺ちゃん校長先生を他所に、それを聞いた川岸教頭先生が、ようやく我に帰った。
「な!? そ、そうでしたか、校長。それは、申し訳ない……」
済まなさそうな表情で謝る川岸教頭先生だけど、ピピ郎先生に話の腰を折られたお爺ちゃん校長先生には、もはや覇気がない。とっても、聞き取りづらい小声だった。
「そして! 校長のお話の内容は想定していませんでしたが、洞窟を抜け出ますと広大な樹海! 迷子や遭難を避けるためにも、このピピ郎を電波塔とした霊通信機器『ピピ郎デバイス』が必要なのです! 装着はカンタン! 耳もとにつけるだけ!! お話はもちろん、位置情報の取得、ラインでのやり取りなんかも出来ちゃいます」
再びピンクのお立ち台に立ったピピ郎先生が、お爺ちゃん校長先生を足もとに置いて、声高らかに宣言した。
もはや、この合宿の主役は僕ら生徒じゃなくって、ピピ郎先生なんじゃないかって思うほどに──。
「フン! そう言うことか、ピピ郎。致し方あるまい……。合宿の安全性とスムーズな運営のためだ」
「分かって頂けましたか、川岸教頭先生!!」
川岸教頭先生もピピ郎先生も、仲直り出来たみたいだし、やれやれと言った感じだ。
他の先生たちも、ようやく安心した様子だけど、黒井戸先生の川岸教頭先生を見つめる目だけは、ハート♡マークのまんまだった。




