第12話。『第1回クラス対抗洞窟山登り合戦』~(洞窟編)~ 3。
「フフフ……。待ちくたびれましたよ?」
キラキラと青色に光る洞窟の奥から──
洞窟の岩肌に座ったままシーンとしている僕ら生徒たちをかき分けるようにして、一人の男の人が現れた。
真っ白い肌に赤く光る目。
ツヤのある黒髪をオールバックにして、チョビ髭を生やしている。
川岸教頭先生みたいなスーツ姿だけど、カッターシャツの胸もとが、そんなに開けなくても良いのに、お臍の近くまで開いている。
なんだか、音も無く近づいて、知らない内に首もとから僕の血を吸いそうな化け物──
(──吸血鬼みたいだ……)
初めて見た。
(いや、本物の吸血鬼なわけがない……。だけど──)
「ククク……」と笑いながら口もとにあてている手は青白く、悪魔みたいな鋭い爪をしている。
ひょっとしたら、牙だって生えているのかも知れない──
「おぅっ! ピピ郎! 上で待ってたんじゃないのか?」
拍子抜けするくらい──
川岸教頭先生がスタスタと、その吸血鬼みたいな男の人に近づいて、肩をポンポン! と叩いた。
ン!? どう言うことだろ? それに、ピピ郎?
「ククク……。いえね? 上で、今か今かと皆さんを驚かす準備を入念に整えていたのですが、皆さん、ちーっともやって来ない! 頭が取れそうなくらい、首を長ーくして待ってたのですよ。こんな風に、ね?」
そう言うと、その吸血鬼みたいな男の人は、カポッと自分の頭を取り外して、クルクルと指先で回し始めた。
(──え?)
目を疑った。
辺りをキョロキョロ見渡すと、他の生徒の子たち皆の目が点になっている。
「いっ!? いぃ、やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫んだ轟さんが後ろにズッコケて、驚いたまま上を向いて固まっている。
虎みたいな大山君も、口を四角に開けたまま無言で絶叫して、驚きすぎて固まっている。
幽霊女の子の南さんは呆然とし過ぎていて、驚きすぎて幽霊だけど普段よりももっと姿が薄くなっているみたいに見えた。
い、いったい……。
僕が、そんな風に思っていると──
「クククク……。マジカルイリュージョン……──」
吸血鬼みたいなその男の人の声が聴こえた瞬間──
僕の目の前に、青白い顔をした赤い目玉の生首が、突然現れた。
「ギ!! ッシャアアアアアー!!」
生首が、真っ赤な口を開き、僕の首もとに噛みつこうとした。
「ひぇぇぇぇぇぇっっ!! ぐえぇぇぇぇぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」
驚きすぎて、絶叫した僕は、腰を抜かして、口から魂が、抜け出そうになった。いや、抜け出ていた。
けど、僕の頭の後ろで聞こえる悲鳴──
どうやら、生徒の子たち皆の顔の前に、赤い目玉の生首が現れてたみたいだ。
僕の朧気に見える視界の中で、轟さんにも大山君にも幽霊女子の南さんも、赤い目玉の生首に驚いてた姿が見える──
それから、僕は、気を失ったのか、倒れて目を閉じていた……。
「赤羽っ!!」
「赤羽君!?」
「赤羽……、君……」
虎みたいな大山君と、轟さん。それに、幽霊女の子の南さんの声が聞こえる。
一瞬本当に、僕は気を失って倒れていたみたいだ。
僕が、うっすら目を開けると──。僕の顔を覗き込むようにして、三人の顔が、うすボンヤリと見えた。
「ククク……。これはこれは、少々驚かせ過ぎましたかね? 挨拶代わりのマジカルショータイム! いかがでしたか?」
さっきの吸血鬼みたいな男の人の声が聞こえる。
「やり過ぎだ……。ピピ郎」
「そうよ。やり過ぎよ。ピピ郎」
「ウフフ……。私好みで良いけど?」
「やり過ぎだとは思うが、良いものが見れたと思うぞ?」
「相変わらず、ピピちゃんは、自己主張強すぎじゃない?」
「ほっほっほ! 元気が良いのっ! ピピ郎君! 楽しませてもらったぞぃっ!」
青く幻想的に光り輝く洞窟の天井に──
川岸教頭先生、叶先生、黒井戸先生、白銀先生、ヴィシュヌヴァ先生、お爺ちゃん校長先生の順番で声が響いた。
それに混じって、生徒の子たちのザワザワとした声や泣き声みたいなのも聞こえて来た。
(──……ん? ぼ、僕だけじゃない──?)
どうやら吸血鬼みたいな男の人は、先生たちのよく知る人みたいだけど、生徒の子たち皆を驚かせていたみたいだ。
けど、流石に初対面で? これはやり過ぎだと僕は思った。
「ククク……。マジカルアートイリュージョン! みなさんに本物のマジック!を味わって頂けて光栄です──。……では、自分で自分を自己紹介致しましょう!!」
僕が目を擦りながら、上半身を起こすと──
先生たちに『ピピ郎』と呼ばれた吸血鬼みたいな姿の男の人は、赤い小さなお立ち台の上から、ひょいっ!と、お爺ちゃん校長を降ろすと、スタスタとその赤いお立ち台の上にそのまま立った。
「我が名は、アルフォンソ=ピッピ=ストレィロォ!! 通称ピピちゃん! もしくはピピ郎!! 華麗にして流麗!! 闇夜に浮かぶ月のごとし!! みんなのアイドル!『ピピ郎先生』!!」
(──バサ……)
どこから持ってきたのか、さっきまでは無かった黒いマントが突如として現れた。ほんとにマジックみたいだ。
『ピピ郎先生』が黒マントを赤く翻すと──そこから、赤いリボンやら青や黄色にカラフルにメイクしたガイコツたちが、一二三──……。全部で六体。ワラワラと踊りながら出て来た。
流石に生徒たちみんなは、幽霊やら妖魔やら浄霊師の卵でもあるので、ちょっとびっくりはしたみたいだけど、何より『ピピ郎先生』の明るい演出に洞窟内のシーンとした空気が和んだ。
「さぁっ! ボーンシスターズ!! みなさんをトリコにするのです!! レッツダンシング!!」
白と黒のスーツっぽい姿の『ピピ郎先生』がそう叫んで、黒いマントから軽く指先を出して「パチン!」と鳴らす。
ピピ郎先生の赤い目が光ったかと思うと、さらに金管楽器やバイオリン……太鼓を持ったガイコツたちが、正装服姿のフォーマルドレスやスーツに身を包んで、コンサート会場に現れるようにして、颯爽と出て来た。
「ボーンパラダイスオーケストラのみなさん!! 今宵は!……いえ、まだお昼でしたね? 祝宴!パーティーです!! ミュージカルカーニバルスタートぉっ!!」
またまた『ピピ郎先生』の赤い目が光り、指先が「パチン!」と鳴った。
すると、ド派手な音楽が一斉に──青く光り輝く洞窟内に響き渡った。
いつの間にか赤い小さなお立ち台の上で、『ピピ郎先生』は、オーケストラの指揮者みたいな指揮棒を振って、白と黒の燕尾服に着替えていた。
「さぁさぁ! 霊気初歩スキル【『間』】!! 身に付けようじゃありませんか!! 学生諸君っ!! レッツスタディ!!」
六体は確認出来た『ピピ郎先生』のマントから現れたオシャレカラフルガイコツたちが、幾重にも分身して──
生徒たちの子だけじゃなく、先生たちの手も取り踊り出した。
「ちょっ! ちょっとぉっ!? な、何コレ!?」
「お、俺も踊るのかっ!?」
叶先生も川岸教頭先生も……。オシャレガイコツたちにピンクの腕輪をつけられて──ズンチャッチャ♪と、慌ただしく踊り出した。
クルクルと叶先生が、カラフルガイコツシスターズに回され、叶先生の黒髪のツインテールも同時に回る。
叶先生が、ステップを踏む度に、洞窟の岩肌の地面が稲光で光った。雷みたいだ。
川岸教頭先生も、固いステップで、ぎこちないながらも、ネクタイを締め直す動作は忘れない。
川岸教頭先生の妙に腰を意識して踊る姿が、何とも言えない──トシを感じさせる……。
「ククク……。その腕輪は、強制的に霊気と妖気を【『間』】の状態にするものです……。フフフ……。感じるでしょ? あなた方に漲る身体中に秘められた『霊気』の原初を……」
尚も指揮棒を赤い小さなお立ち台の上で振るう『ピピ郎先生』が、「ククク……」と不敵に笑う。
「ふふ……。面白い。フォークダンスとは何時ぶりのことか。青春に相応しい……」
「ちょっ! ぼ、僕も踊るのかなっ!? が、ガイコツと踊るなんて、ぼ、僕の趣味じゃないんだけど……?」
背中に銀色の大きな剣を背負ったまま──腰まで届く金色の髪の毛を揺らして踊る白銀先生。
まんざらでもない様子で華麗にステップを踏む白銀先生の隣で、ぎこちなくステップを踏むヴィシュヌヴァ先生の姿が印象的だ。
時々、顔のサイズに合わない黒い丸眼鏡を指先でクィッ!と上げて、なんだか焦った様子でガイコツシスターズの動きに合わせてステップを踏むヴィシュヌヴァ先生。
ヴィシュヌヴァ先生の身の丈に合わない長いサイズの白衣が揺れている。
「さぁ? 踊りましょうか? ガイコツさん? 私は楓くんと踊りたいんだけど?」
そう言った黒井戸先生が、視線を川岸教頭先生の方へとやりながらも、華麗にステップを踏む。
月光の下で、黒い薔薇とかが舞うかのような大人のダンス。
(う、上手い──……)
流石だ。先生たちの中じゃ、黒井戸先生が一番ダンスが上手い。
生徒の子たち、みんなからも……「おぉっ!!」と、拍手と歓声が上がる。
すると、黒井戸先生の隣で──
「ひょっひょっひょっ!!」
あぁ……。
お爺ちゃん校長先生は、もう完全に楽しんでいる。
もう、僕らが合宿に来た目的を忘れてるくらい。
だって、両手にガイコツシスターズ。クルクルと骨を回す踊り。
とっかえひっかえ、ガイコツシスターズの頭蓋骨を回しては、入れ代わり立ち替わり……お爺ちゃん校長先生が激しくダンスステップを決める。
アクロバティックな袴姿のお爺ちゃん校長先生の動きが、踊りでガイコツシスターズを翻弄している……。
(──す、凄いな……)
僕が、感心していると──
轟さん、大山君、幽霊女子な南さん──生徒の子たちみんなの目の前に、ボーンシスターズが現れた。
(──ボン……。ボン……! ボーン……!!)
「ひぇっ!?」
「うぉっ!?」
「う……ぁ……」
轟さんも大山君も──、幽霊女子の南さんさえ驚いた。
(──ガシャ……)
僕の目の前にも現れた──オシャレガイコツシスターズ。
「ふ、ふぐっ──!?」
強制的に霊気を【『間』】にさせるピンクの腕輪が、いつの間にか僕の左手首に取り付けられていた。
「ククク……。まさに、トレビアーン……ですね? 赤羽君?」
なに言ってんだ……。この人……。




