#07 力と知恵と
「さて、ジョルジュの話が本当なら、俺はあれこれ理由を付けられて中央送りだな。いや、ひっそりと闇に葬られるかもしれん」
ヨシュアの祖母、グレーブス夫人が、暗殺してでも、セーマをこの村から除きたかったと聞いた以上、彼がこう考えるのは当然だ。
セーマは美羽との約束を果たすべく、世界征服を決心した。
だが、今の彼は、その力が災いして、不利な状況に置かれつつある。
飛鳥尽きて良弓蔵められ、狡兎死して走狗烹らる(鳥がいなくなれば良い弓も捨てられ、兎が死ねば猟犬も煮て食われる)
まさにこれだろう。
オーガ軍の脅威が去った今、為政者たちにとって、セーマは潜在的な敵なのだ。
今のセーマの立場の決定権が、その為政者側にある以上、どちらに転ぼうが、彼にいいことはない。
この現状の打破が、今のセーマがなすべきことなのだ。
そのためには、力が必要だ。
セーマのいう力とは、単なる腕力のことではない。
武力、財力、政治力、人望、そのほか諸々の、俺が世界征服のために必要とするもの全てを指している。
さしあたり、現状を打破するだけの、最低限の武力と戦略が必要なのだが、まずは武力だろう。
今のセーマの武力といえば、この身体とボロボロになった剣だけである。
これだけでは、いかに考えようとも、うまくいかない。
確かにセーマは強い、神様認定最強スペックだから。
だが、不死身というわけではない。
動けば腹も空くし、疲れれば眠くもなる。
戦えば傷つくし、病気にだってなる。
たとえ単身突っ込み、グレーブス夫人やあのエリックとかいう役人を除いても、その後が続かない。
他の者を全員敵にまわし、ジリ貧になるのは明白だ。
今の英雄的立場も一瞬で失われるだろう。
セーマひとりでは戦略が成り立たないのである。
そのため、とりあえずセーマは、彼の手足となる仲間(兵隊)が欲しかった。
他に、参謀役としてジョルジュ、ヨシュアがいればいいのだが、二人とも今の情勢ではこちらにつくことはない。
特にヨシュアは、彼の祖母、グレーブス夫人が俺に明確な敵意を持っていることから、仲間になることはないだろう。
セーマとしても、理由はどうあれ、アリシアに手を出した以上、奴は生かしてはおけなかった。
つまりセーマは、当面は、ひとりで管理できる数の兵隊までしか持てないという事になる。
まあ、現状、兵隊ゼロであるから、もし兵隊を持てたら、それでも大進歩なのだが・・・
特に何の考えもなく、セーマは魔族領方面に向かってブラブラ歩き出した。
(そういえば、美羽はこっちの方から飛んできてたな)
そんなことをセーマが考えていると、かなり前方に2人の人影を見つけた。
よく見ると、オーガ兵※のようである。(※先ほど美羽を追い掛け回した敗残兵の2人である。)
(ふふっ、俺はついている)
彼は、悪魔のような笑みを浮かべていた。
◇
「立て」
そういいながら、セーマは、オーガ軍敗残兵のお頭ドル・ドローを、軽く蹴り飛ばした。
そいつを含め、オーガ軍の代表6名は、血みどろになり地べたに転がっている。
セーマたちの周りを、オーガ軍の敗残兵たちが取り囲んでいる。
その全員が、重く沈黙していた。
セーマひとり対オーガ軍敗残兵代表6名の決闘の最中であった。
◇
時間を少し遡る。
セーマは、さっき見つけたオーガ兵2人を、すぐさま半殺しにして、やつらのアジトに乗り込んだ。
そこにはあの細長い小路での落石を逃れたオーガ兵たちが、集まっていた。
セーマはそこの警備兵たちを、さっそくボコり始めた。
アジトからは次々とオーガ兵が出てきたが、彼は即座に叩きのめした。
セーマの目的はただひとつ、こいつらを彼の兵隊にすること。
そのためにはこいつらに、自分を認めさせねばならない。
で、手っ取り早い方法が、こいつらのお頭を徹底的にボコることなのである。
だが、このままだと、お頭をボコる前に兵隊たち全員がセーマにボコられ使い物にならなくなってしまう。
(それは困る)
そこでセーマは、ここのお頭に、衆目の中で自分をお頭として認める発言をさせることにした。
そこで提案したのが、オーガ兵全員の前での決闘である。
ハンデとして、セーマは、1人かつ素手、で戦うことにした。
やつらは何人であろうと、どんな武器を使おうと、一切構わないという、決闘ではありえない大盤振る舞いの条件を与えた。
おそらく、これでもセーマはやつらを瞬殺できるのだが、やつらはプライドを傷つけられたのか、代表6名で素手で相手する、という返答をしてきた。
実際には、隠し武器の1つや2つは用意するだろうが、素手の自分に対して素手で相手をすると言ってきた事を、セーマは褒めてやることにした。
(ここまで馬鹿にしてやれば、さすがにムキになってかかってくるはず)
セーマはそれを期待していた。
で、決闘開始前、セーマとお頭ドル・ドローを含めたオーガの代表兵6名は、周囲をオーガ兵たちに囲まれて、対峙していた。
どいつもこいつもセーマへの敵意むき出しである。
(そう、それでいい、その方がショックが大きくなる・・・)
やつらは決闘が開始されれば早々にセーマを囲み、袋叩きにしようとするだろう。
戦法として間違ってはいない。
普通に考えればそれで勝負はつく。
そう普通なら・・・
だが、相手はセーマなのだ。
彼らは自分たちの見込みの甘さを身をもって知ることになる。
そして、決闘開始のゴングが鳴った。
◇
セーマの目の前には、やつらのお頭がいる。
やつら全員が、興奮しながら、ゴングが鳴るのを今か今かと待っていた。
そして、ゴングが鳴った。
その瞬間、彼らの目の前からセーマは消えた。
代わりに後方へ吹っ飛ぶお頭ドル・ドロー。
血飛沫を上げ、セーマにボコボコにされる。
なにが起こったか、わからぬという様子の代表オーガ兵たち。
だが、次の瞬間、全員が本能的に理解した。
自分たちは、相手にしてはいけない奴を相手にしてしまったということを。
さっきまでのすさまじい敵意がそのまま恐怖へと変わる。
このギャップこそがセーマの狙いであった。
一気に恐怖のどん底に突き落とす。
これがやりたかったのだ。
あとは簡単だった。
他の代表兵にもはや戦意はなく、ただ、逃げ惑うだけ。
一応、決闘である以上、ボコらないわけにはいかない。
再起不能にならない程度に、他の5名もボコって、決闘は終了した。
その後は、セーマのパフォーマンス劇場となる。
◇
「他に俺の相手をしたい奴はいるか?」
周囲に問うセーマ。
沈黙のオーガ兵たち。
「お前たちの頭はだれだ?」
セーマは大声で叫んだ。
沈黙は続く。
「おい、お前、お前のお頭はだれだ?」
セーマは、やつらのお頭ドル・ドローの首根っこをつかみ上げ、聞いた。
「あなたです、セーマさま」
「ああ?きこえねーな」
すると、大声で
「我々のお頭はあなたです。セーマさま」
そう答えさせた。
「もう一度聞く、お前たちのお頭はだれだ?」
さらに大声で周囲に問うセーマ。
すると、小さな声で「セーマ」と叫ぶ声が聞こえた。
「ああ?なんていった?」
セーマは白々しく聞き返す。
「セーマさまです!」
今度は大きな声で返って来る。
その声がきっかけとなり、他の兵たちも「セーマ」と叫びだした。
そしてその声は次第に大きくなり、オーガ軍全体が「セーマ」を連呼しだした。
「お前たちのお頭はだれだ!」
このセーマの問いに
「セーマ」と、シュプレヒコールで応えるオーガ軍。
セーマはこのオーガ軍の敗残兵たちを手中に収めることに成功した。
◇
パーティーが夕方から夜9時頃までで、その後、野原で妹と会い、さらにその後、オーガの敗残兵アジトに乗り込んで、やつらの掌握に成功。
もうその頃には、空は白み始めていた。
セーマはひとり、部屋に戻ろうとしていた。
今、彼は村長宅の離れに一室をあてがわれ、そこで寝起きしていた。
そして、村長宅の敷地の入り口に、なぜか村長の姿を見つけた。
「村長?」
「おお、セーマさま、お帰りなさい!あまり帰りが遅いので心配しておりましたぞ」
(おかしい。なにかあるな)
セーマの直感がそう言っている。
「オーガの残党らしき連中を見かけました、追跡したのですが、連中は騎乗していましたので、それ以上は無理でした。方向は確認してきたので、一寝したら探しにいきます」
即座に嘘をつくセーマ。
「そうでしたか。さすがはセーマさま。お疲れでしょう、ささ、中へ」
(待ち伏せか?だがいつ帰るかわからん俺を待ち伏せできるほど、村にひとはいないはず?)
セーマを待ち伏せするなら、相当な人数か、なにか仕掛けを用意しなければならないはず。
このタイミングでそれをするのは難しい。
彼は探りを入れてみた。
「村長、何か俺に用でもあるんですか?」
「あ、そ、そのう、エリック殿がセーマさまに折り入って話したいことがあるとのことで、そのことを伝えようと、こうして待っておりました。セーマさま、今日のご予定は?」
(なるほど、大体の話は読めた。なら、今、待ち伏せはないな)
セーマの予定を聞いてきたということは、それに合わせて何かしようということだ。
エリック、グレーブス夫人の意向がセーマの排除なら、彼を拘束するための待ち伏せをするためと考えるべきだろう。
つまり、今、待ち伏せはないということだ。
「お、おそらく、セーマさまの中央への招聘の件かと思われます」
「ああ、そう。俺、今日は昼から警備で、その後、夜のパトロールで村の外に出るよ。夜10時ぐらいには帰るけど。用があるなら、それ以降で」
「わかりました。では夜10時にお帰りになると、エリック殿にお伝えいたします」
村長は、それを言うとすぐに屋敷に引き上げて行った。
(ふん、俺をどうにかしたいなら、さっさと寝込みを襲えばいいのに)
おそらく彼らには彼らなりの事情があるのだろう。
何かするにしても、大義名分のような、対外的に筋を通したやり方しかできないのだ。
そのための手順を踏まねば何もできず、よって、筋の通らない暗殺のようなマネはできないのだろう。
役人らしい発想である。
セーマから言わせれば、そこが甘いのだ。
だが、そのおかげで彼は昼まで寝ることができる。
部屋に戻り、風呂を済ませると、セーマはすぐにベッドに身体を放り投げた。
そしてセーマは、今後の方針を考えた。
(世界征服をするなら、魔族領、人間領、アークと全てを手中に収めなければならない。なら、人間軍を率いて魔族領遠征、凱旋後その人気と力を背景に何らかの形で王位継承、そしてレムリアを統一、その後に、アークも併呑、なんてのが、あまり人に嫌われず効率よく世界征服する手順か?)
そんなことを考えていると、ふと疑問が浮かぶ。
(あれ?そういえば、アークってだれが統治してるんだっけ?)
まあ、そんなことは今のセーマにはどうでもいいことだ。
どのみち、この後、彼は中央へ進出しなければならない。
そして、それがどんな形でなされるかは、この後の結果次第なのだ。
(タイミングさえあえば、運が良ければ、最高の形でここを去ることができる)
セーマはいくつもの行動シミュレーションを頭の中で行いつつ、眠りについていた。
こうして、セーマとグレーブス夫人との知恵比べが始まる。
登場人物紹介
ドル・ドロー
オーガ軍敗残兵のお頭。
単細胞、下衆、外道。
セーマにいいように利用される。




