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異世界征服物語  作者: COCO
第一章 辺境編
3/23

#03 セーマの策略

ここは避難所内の一室、今、セーマと村の若手20名が明日の決闘に向けての作戦会議を行っていた。


「ジョルジュ、その隠し通路を通って、やつらの本陣(この場合、司令部幕舎)の裏山に出られるんだね?」


「はい、この隠れ家から直接繋がっています」


オーガ軍の司令部幕舎は、元村長宅である。

広大な土地と屋敷は、軍団の人員、装備を一箇所に置くには好都合だったからだ。

隠し通路は万一に備えて、避難所に直接逃げれるように造られていた。

村長宅側の入り口はその裏山にある廃教会だそうだ。

周りには昔の墓地があり、気味悪がって誰も近づかない。


「大きな火事を起こしたいんだが、できるか?」


そのセーマの問いにジョルジュは


「ならば、馬小屋がいいでしょう。村長宅の馬小屋は200頭は入る大型で、飼い葉の干草が大量に積んであります。そこなら我々も良く知っていますので、確実に火事を起こせます。」


干草に油をかけ、一気に大火事にしてみせると息巻くジョルジュ。


「それと、その魔法石というやつ、本当に、化けるのに使えるの?」


魔法石、それは魔力が封じ込められた鉱石である。それを使うことで、魔力キャパシティの小さな者でも、ある程度、魔法を使うことができる。

使い方は様々。魔力の素養がある者がその魔力の供給量を補うためにも使えるし、単独だと、爆弾としても、信号弾としても使える。


「私は、これを使えば、しばらくは他の人になりすませますね」


ニコニコしながら答えるジョルジュ。


「僕たちでも、魔法石を使えば、ある程度、魔法を使えます」


ヨシュアも、なぜかうれしそうに話し出した。


皆、この機会を待っていたのだ。


その雰囲気に、セーマはきっとうまくいくと確信した。



「では、作戦を説明する」



セーマは20名の村の若者たちに命運を託した。





ここはトウト盆地。

小さな盆地で周りを森で囲まれている。

そしてその中には、歩兵、騎兵合わせて、120名のオーガ軍兵士が、伏兵となっていた。

セーマひとりのために。

そして他に30名が、長い小路の警備、連絡係として配置されていた。


120名の伏兵、小路への万全の対策、セーマはその中で決闘をしなければならない。


絶体絶命といってよかった。





夕方、トウト盆地の中央でセーマとバル・バドーがにらみあっていた。

セーマにはアリシア1人が立会人として付いてきていた。

セーマは危険だからと止めたのだが、どうしてもと聞かなかった。

村長も、村人たちの手前、行くなともいえず、自分の代理として行かせることにしたのだった。


「ガキのくせに、女と2人だけでよく来たな。その度胸だけはめてやる」


バル・バドーが挑発する。


「そっちも、あんた含めて3人じゃないか、約束破って大量にお仲間連れてくるもんだとばかり思ってたんだがな。褒めてやるよ、りっぱ、りっぱ!」


セーマは挑発仕返した。


「ふん、貴様のようなガキ相手に3人は多すぎだわ。立会い人として連れて来ただけだが、我ら3人が、貴様のためにここに来ただけでも感謝するがいいわ」


バル・バドーが乗ってきた。


「誇り高きオーガの戦士バル・バドーとこうして対決できるこの機会に感謝する。決闘の間、立会人を含め、他のものが決闘に水を差すような行為を禁ず。古来よりのこの不文律ふぶんりつ、守ってくれましょうや?」


セーマは駆け引きの勝負となるセリフを吐いた。


「愚問だ!貴様など、俺一人であっという間にほふって見せるわ!」


バル・バドーは頭に血が上ってきたらしく興奮しながら



「いいか!俺がやつとやってる間は、絶対手を出すんじゃねえぞ!」



と大声で言い放った。


明らかに立会人以外にも、ひとがいるかのごとき発言である。


セーマはやつをうまく誘導できたことを内心喜んだ。

伏兵がいるのははじめから分かっていた。

もし自分が決闘中にアリシアに何かされたら、手も足も出ない。

だがこれで、少なくとも決闘中のアリシアの安全は確保されたことになる。

それと、もうひとつわかったことがある。

バル・バドーが、興奮すると、冷静な判断ができなくなるタイプであることが。


(これは好都合だ)


セーマは内心ほくそ笑んでいた。


(あとはジョルジュたちが手筈てはずどおり動いてくれるかだが・・・)


だが、もうそれ以上考えている余裕はなかった。


立会人の合図の下、セーマとバル・バドーの決闘が、始まったのだった。





夕方の空に1本の光の筋が伸びてゆく。


決闘開始を告げる信号弾であった。


「始まったか。これでやつも終わりだな」


ゲド・ゲドーは、そうつぶやいた。

彼は決闘など、どうでもよかった。

セーマさえ除ければそれでよかったのである。

そのことはバル・バドーもわかっている。

決闘開始早々に、伏兵で一気にセーマを潰しにかかる算段であった。

故に(今頃、セーマに120名の伏兵が襲い掛かっているだろう)と思っていた。

なので、まさか、バル・バドーがまともにセーマに決闘を挑んでいる、とは思いもよらなかった。


そんなことを考えていると、にわかに外が騒がしくなってきた。


(なにごとか?)


ゲド・ゲドーが、そう思った途端に部屋のドアが勢いよく叩かれた。


「団長、大変です。火事です。馬小屋がすごい勢いで燃えています。」


「なに!」


馬は大事な戦力である。

保有する馬の半数の100頭をセーマのために割いているとはいえ、馬小屋には残りの100頭がいる。


「すぐに消火しろ!」


「人手が足りません」


「まず、逃がせられる馬を逃がせ!わしも今行く!」


ゲド・ゲドーは、馬小屋に急いだ。





馬小屋は大きくまだ全てが火に包まれているわけではなかった。

しかし、飼い葉がほぼ全部火に包まれており、それを消すのが容易ではないのは、誰の目にも明らかだった。

すでに、ここに残った約50名の兵士たちが、消火や馬の救出に奔走ほんそうしていた。

バケツリレーで水を運んでいるが、それで間に合うはずもない。


「生き残りの村人も狩り出せ、手伝わせるんだ!それと馬の救出はどうなっている?」


「すでに、狩り出しに向かわせてます。馬は、火元から遠い区画の馬は全部外に出せたのですが、それ以外の馬には手が出せませんでした」


火勢がすごく、煙が立ち込めていたため、煙に巻かれて動けなくなるのを恐れて、救出はできなかったのだ。

馬のために命を危険にさらすことはできない。

ゲド・ゲドーもその点では、兵士たちをとがめることはできなかった。


「どのくらい救出できた?」


「あの区画は30頭でしたから、そのくらいかと」


約70頭は失われたことになる。

そして火は弱まる気配なく、さらに火勢を増していた。


もう無理だ、諦めるしかない。

ゲド・ゲドーは現場の指揮を取っている兵士に、諦めるよう、そして他の建物に延焼えんしょうしないようにと指示を出そうとした、その瞬間、司令本部周辺で、激しい光を伴った爆発がいたるところで始まったのだ。


「な、今度はなにごとか?」


ゲド・ゲドーは兵士たちに振り返った。


「はっきりとはわかりませんが、あの閃光せんこうはおそらくマジックアローかと」


「なに!魔導士が攻めてきたとでも言うのか?」


「そんなこと私にもわかりませんよ!」


逆切れする兵士。


この緊急時に、苛立いらだちを感じているのはゲド・ゲドーだけではない。

現場の兵士たちも不安や恐怖と戦い続けているのである。

だが、その緊張状態にさらに拍車をかける報が、彼らの前にもたらされる。


「団長、大変です。やつら、人間の、中央からの援軍がすぐ近くまで迫ってるとのことです。」


「泣きっ面に蜂」とは、まさにこのことである。


ことここに至ったら仕方ない。

ゲド・ゲドーは決断した。


「呼び戻せ」


「えっ?」


「バル・バドーたちを呼び戻せ!さっさと守りを固めるんだ!信号弾を打て!早馬で現状を知らせろ!」


ゲド・ゲドーは、早々に決断した。

団長として、被害を最小に食い止める判断としては間違ってはいない。

だが、それを見越みこしての敵の策略だったら、まんまとわなにはまったことになる。

だが、ゲド・ゲドーは、結局そのことには最期まで気づくことはなかった。





ジョルジュは敵の信号弾と早馬がトウト盆地方面に向かったことを、裏山の高台から確認した。

日もそろそろ落ちようとしており、タイミング的には丁度良い感じだった。


(我らのすべきことは全てやりました。後は頼みましたよ、セーマ殿)


「別動隊のヨシュアに連絡の信号弾を上げろ。我々は引き続きマジックアローを裏山を移動しながら撃ち続ける」


マジックアロー、魔法石を仕込んだ矢である。

魔法石により、飛距離が強化され、爆発力がある。

爆発のとき、大量の閃光を放つのが特徴である。


そしてジョルジュたちは、森の中に消えていった。


今回の火事やマジックアローによる襲撃、中央からの援軍襲来の報は、全て、オーガ軍をトウト盆地から撤退させるためのセーマの策略である。


ジョルジュは元々、村長宅の使用人である。

そのため、村長宅を熟知している。

魔法石を使い、オーガ兵に変装、馬小屋に火を付けるなど朝飯前であった。

その後、消火活動を手伝いつつ、「人間側の援軍迫る」の嘘のうわさを広めたのも彼である。


ジョルジュはほぼ完璧にセーマの策を実行した。

これは後に「セーマの片腕」と呼ばれたジョルジュの初仕事だった。




早馬は、細長い小路の入り口に到着していた。

そこで連絡員としてオーガ兵3人がたむろしていた。


「大変だ、司令部に敵が迫っている。すぐに撤退して守りを固めてくれ」

早馬の兵士が、火事やマジックアローによる襲撃の件も話し、連絡員の1人があわただしく次の連絡所へ早馬で向かった。

これで、早馬の兵士は役目を終えたことになる。


「ご苦労様、まあ、水でも飲んでくれ」


連絡員の1人が早馬の兵士に振り向いた瞬間、早馬の兵士はその連絡員を短剣で深く刺し殺した。


突然の凶行きょうこうに一瞬身動きできなくなるもう1人の連絡員。


我に返り


「き、貴様、裏切りか!」


激昂げきこうして、剣のつかを握ろうとした瞬間、後ろから2人の人間の兵士に切り殺された。



「うまくいきましたね、ヨシュアさま」


2人の兵士はしゃべりかけた。


「ご苦労。では早速、爆薬の設置にかかろうか」


そう答えたのは、早馬の兵士だった。


3人は小路に爆薬を仕掛けだした。


早馬のオーガ軍兵士、それはヨシュアが魔法石で変装したものだった。

早馬出発を告げる信号弾をみたヨシュアたちは、その早馬を道中で襲い、その兵に変装し、連絡所を襲撃したのだった。





決闘は一進一退の攻防であった。

バル・バドーが力任せの剣をセーマに浴びせれば、セーマはそれをスルリとかわす。

そして、そのまま、バル・バドーにカウンターの一撃を浴びせる。

それを盾でかろうじて防ぐバル・バドー。

その息をもつかせぬ攻防に、その場にいる全員が魅入っていた。


「ふっふっふっ、やるではないか小僧。わしの剣をこれほどかわしたやつはいままでいなかったぞ。うれしい、俺はうれしいぞ、久々に本気を出せる相手にこうしてめぐり合えたのだからな!」


ごちゃごちゃうるさいバル・バドー。


(遅い、遅いよこいつ。なんだよこの剣。これで最強とかぬかしてんのかよ・・・)


正直、セーマの敵ではなかった。

彼は一瞬でやつを肉塊にくかいにできるのだが、その後の伏兵がやっかいだった。

自分ひとりなら問題ないが、一斉に襲い掛かられた場合、アリシアを無傷で守れるかはさすがに自信がなかった。


セーマは、敵が撤退を始めるのを待っていた。

さっき、信号弾が2つ上がったのは気づいていた。

ならば、そろそろ撤退が始まる頃だ。


ちらっと敵の見届け人を見ると、どこかとアイコンタクトを取っているようで、いやにそわそわしている。


そして予想どおり、急に決闘に割って入ってきた。


「両名、しばし待たれよ!急な知らせが入った!見届け人2人の名においてこの勝負預からせてもらう!」


その突然の出来事に憤慨ふんがいしたのはバル・バドーである。


「な、なにをふざけたこと!ここまできて、戦士と戦士の尋常じんじょうなるこの好勝負を邪魔立てすると言うのか!」


(いや、全然勝負になってないし。勝手に好勝負とかぬかさないで)


すると、敵見届け人がバル・バドーに小さな声で耳打ちした。


「それどころではありません、本陣が危機に晒されています。すぐ撤退して本陣を固めよとの命令です」


それを聞いて、さすがのバル・バドーも青ざめた。


(どこから、そんな敵が現れたというのだ?)


バル・バドーは、急にセーマに向き直り、


「名前を聞いてなかったな、小僧。名は?」


「セーマ」


「そうか。セーマよ、やはりこの勝負預けさせてもらうぞ!次に会うときまで、その腕、もっと磨いておけ!さらばだ、我が好敵手ライバルよ!」



(勝手にライバルにしないでくれ。つーか、さっさと行けよ)



セーマは心の中で、つぶやきつつ、やつらが撤退するのを監視した。


バル・バドーは、森に隠してあった馬にまたがり、その後には100名の騎兵と20名の歩兵が続いた。

伏兵なんかないといったことを、気にもせず、オーガ兵たちは一斉に退却し始めた。


日が沈み、あたりはすでに暗く、信号弾が良く見えそうな空となっていた。


セーマはアリシアを守りつつ、やつら全員がこの場を離れるのを見届けた。

そして、全員いなくなったことを確認した後、アリシアにいった。


「じゃあ、バッグの中の魔法石(信号弾)を貸して」


「はい」


アリシアはいわれるがまま、魔法石をセーマに渡した。


信号弾の魔法石は、筒とセットになっている。

その筒を地面に立て、魔法石には導火線が取り付けてある。

それに火をつけると魔法石に引火して、その刺激で魔力爆発が起き、信号弾として魔法石が打ち上げられるという寸法だ。


セーマはすぐに打ち上げた。

今回の信号の意味は「敵軍撤退」

ヨシュアたちに向けてのものである。


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