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18(Side:ギャラリー)

(勝った!)


 1プレイヤーとして闘技場で見ている榎本は確信した。Bと闘いたいという希望者の中で異種格闘戦を開く際、一番期待していなかったのがあの老人だった。しかもパラメーターはいじらなくてもいいというから尚更だった。しかしいざフタを開けてみるとの圧勝。それもBと何ら劣らぬ勝ち方だった。代表としては一抹の不安はあったが実力とルールは認めざるを得ずこの闘いに望んだ。が、その不安を一蹴するかのような優勢。勝利は目前ときていた。

 自分の目的が叶う。それはひどくささやかな願いであるが一度も満たされなかった願い。 叶うときがきた。彼はこの会場で紫電を除くと唯一米田を応援しているプレイヤーだった。


「大丈夫でしょうかぁ~、痛そうですぅ」


 最も良く見えるVIP席で見ているモエが心配そうに言う。いつもの口調こそ変わらないが顔は曇っている。どこか祈るような感じで両手を胸の前で組んでいる。彼の負ける姿など今まで想像したことはないし、これからもないと思っていた。


「あれが年取っても達人と呼ばれる人間の強さか。おそろしいな」


 とクロード。自分の家で教えている剣術道場で老いてなお仙人のように強い人間がいるという話は祖父から幾度となく聞いていた。生涯現役を誓うものは常に鍛練を重ね、技を練るという。しかし実際に存在するとは信じられなかった。今格闘界で強いと呼ばれる人間に老人はいない。むしろ歳をとったから引退するというのが当たり前である。確かにスタミナや筋力低下の問題も有るのだから表舞台にでれないのも分からなくはないがスタミナという制約が無い世界でパワーではなく技で――自分が刀を使ってなお歯が立たないBに一方的に攻めている。これは衝撃的だった。


「せめていつのもパラメーターならこうもいかないだろうに」


 ランディが低くつぶやく。いつも物静かな男だが重圧感がいつも以上にある。自分の闘いでもないのに緊張感を漂わせている。自分がBに追い込まれたようなそんな緊張感。

 Bがあそこまで追い込まれている姿は記憶にない。


「それでもあたしがあのおじいさんなら倒れた時点で、立ち上がる時間を与えずに止めさすわよ。マスター相手に余裕みせるなんて愚の骨頂よ」


 一人ニーナは他のメンバーと違う感想を述べる。三人は一斉に眼前の光景からニーナのほうに振り向く。その通り名に恥じない天使に見間違うような女性の顔に浮かんでいたのはBに対してしての信頼でも、勝利の確信でもなかった。強いて言うなら自信だろうか。


「そうでしょう? だってマスター、まだ手の内隠してるもの」


 Bを倒せるのは自分だけという自信。

 それがこのBが敗北するかもと揺れる闘技場の中で彼女を凛と立たせている。


「信二くんはまだいけるのか? もうボロボロじゃないか」


 モニター越しに見ている榊原はKO寸前に見える少年の姿に焦り、慌てる。本来ならゲーム内に入らないと見れない闘いなのだが例外的な場所がある。久遠社地下二階、世紀のスーパーコンピューターとまでよばれる「ブレイン」のメインシステムからならリアルタイムで今現在行われていることがモニターに映すことができる。

 ここは久遠社でも限られた人間しか入れないトップシークレットの場所である。有能なプログラマー、エンジニアが「ブレイン」と「ブレイン・フィールド」を交代で管理しているのだが今日はここに入れる権利をもつ者すべてが集まっている。これはゲーム立ち上げを除くと初めてのことだ。今日の勝敗は特に社運がかかっていないもののおそらく名勝負になるという期待からか皆集まったのだ。ちなみに地下二階のほとんどが「ブレイン」の核となる機械類で占められているのだが、トイレ、食堂兼休憩室、仮眠室が申し訳程度の広さで有り、今仮眠室では信二が、サン・オブ・バトルマスターと呼ばれる少年がブレイン内にアクセスして、苦戦を強いられている。本人も闘う前から相手は強いと言っていたがこうもワンサイドになるとは予想だにしていなかった。


「やはり、パラメーターを少し上げとくべきだった」


 いわばこの試合はエキシビションであり、この間の色々制限をつけられたアウェーと違いホームなのである。少々有利に事を進めても別に関係なかったはずだ。どうせ勝ったところで何の益にもならないのだから。もっとも負けたところでいくらシルバー側が一勝一敗を主張したところでハンディ戦ということでこちらの完全な負けにはならないと言えばそうかもしれないが……。榎本は喜ぶかもしれないがあの人がどれほどこちらを意識しようとも自分も総一郎もさほど気にかけていないというのが本音である。


(ああ、そうか)


 ようやく本心に気がつく。自分は信二のサン・オブ・バトルマスターが負ける所を見たくないのだ。普通の戦闘ならともかくこのような理不尽な状況下での。


「総!」


 思わず声を荒らげ特等席に座っている社長を見る。頬づえをつき眼を細め、どことなく休日に家でボーとテレビで格闘技を見ているそんな印象を受けた。


「何?」


 画面から眼を離さず口で横にいる親友の言葉に応える。


「何、じゃないだろう。今からでもパラメーターを上げてやるとか、体力を回復してやるとかしてやったほうがいいんじゃないか」

「止めとけ、止めとけ。急に動けるようになったら一番戸惑うのは信二だよ」


 真剣にいう榊原に軽く開いた左手を振りながら制す。


「しかし、こんな不利なルールにいつまでもしがみつくことはないだろう」

「相手が卑怯な手を使ってもこっちは正々堂々と正面から叩きつぶす。それが粋な生きかただろう」

「でも、現に信二君は叩きつぶすどころか、もうフラフラじゃないか」

「そうだな、それでもまだ立ってるし、考えてる、勝てる方法を。フラフラで見せかけて、誘っているのかも知れない。そんな時に体力回復でもさせたら逆に戸惑うよ」


 そこまでは考えもしなかったのか榊原は言葉に詰まる。確かに戦闘のレベルの高い信二なら何か考えがあるのかもしれない。今までも思いも寄らぬ方法でいくどとなく不利をはね返してきた。

 しかし今回もそうであると言えるのだろうか? 

 確信なのだろうか? 総一郎が動じてないのは。

 信頼なのだろうか? 平静を装えるだけの。


「勝てるのか?」

「立ってる以上闘えるんだろう。闘える以上可能性はゼロではない。どんなに少なくても可能性があるのなら、アイツは――負けんだろう」


 いつものようにどこまで本気かわからない、わかりにくい口調。それでも榊原は思い悩むのを止め、静かに観戦することにした。

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