19
『米田選手跳んだ! 跳び蹴りだ!』
一瞬に間合いを詰めるためか、素早く避けれないと判断したのか正面からの跳び蹴り。どちらにしても正解だろう。Bはとっさに腕をクロスさせて蹴りを受け止める。一応足を踏ん張ったつもりだが、少し後ろに跳ばされる。
『すかさず天を目指すかのように蹴り上げる。B、両腕のガードが弾かれる!』
そのまま顎を狙うかと思いきやすぐに足を戻す。刹那右肩が引くのが感じられたので、左足を軸に回転するように避けるようにローキックをだす。右の脇腹に少しかすった感覚があるが気にしなかった。しかし攻撃のモーションに入った瞬間、米田の左肩が引くのが視界に入ったが迷わずそのまま攻撃することにした。
『師匠の右の正拳突きをかわしながらのローキックは見事でしたが、拳は左右あることを忘れてましたね。左の正拳がモロに腹に入りましたね』
紫電の推測とは違いローキックのおかげで若干ダメージは分散できた。が痛むことには変わりがない。
『再び右の正拳突き! おっと、今度は肘を下げることでブロック! すかさず左! おおっとこれは! 拳をかいくぐるように自ら右肩から突進し、米田にぶつかる』
『しかし……、回避技術が高いとは思っていましたが、……これほどとは』
大した威力の突進では無かったが間合いを何とかとれるほど下げることができた。米田はそれほどダメージを受けてはいないのにこちらはまた痛む箇所が増えた。もうどこが痛いかは考えないことにした。痛みがあろうと無理をして動くなら問題ない。
(痛みがあろうと無理をして動く)
とりあえず自分を鼓舞するために口にした言葉だというのに何故かとてつもなく重要な気がした。しかし考えている余裕はない。
「確かに電童の言う通りだな。ワシの攻撃がここまで避けられるとは正直思わんかったわい。げに恐ろしきは才能なりか。ならこういうのはどうじゃ」
休む間も与えず米田は動く。
『米田、右のローキック!』
受けることはせず、左足を半歩下げることで対応する。すると左足を軸に右足を引く勢いを利用して一瞬背を向け、身を沈めながら回転を始める。攻撃しようにもその回転の速さに自分の今の動きでは対応できないと悟り、後ろ回し蹴りがくると想定して今度は右足を一歩引く。すると予想通り腹の辺りを狙った後ろ回し蹴りが空に舞う。
回転が終わった瞬間に顔面にカウンターしようと拳を握る。刹那、視野の下の方から何やら高速で近づいていることを感じ、それがとてつのなく危険な気がし上体をそらす。すると鼻先に何か固いものがかすったような感触があった。反射的に鼻を右手で押さえてしまった。
『後ろ回し蹴りから回し当てです。回転しながら裏拳を顔に当てる技です』
ローキックも後ろ回し蹴りも囮で最初から顔面に裏拳を狙っていたのだろう。どうにか鼻先をかするくらいですんだが上体をそらさなければまともに食らっていただろう。右手にヌルッとした感触がした、鼻血だろう。鼻を拭うようにつまむ。今日初めて出血を自覚したがこれが最初という訳ではない。自覚していないだけで何度も地に叩きつけられたり攻撃を食らっているのだ。腕や足など擦り傷、切り傷だらけではないだろうか。別に血を見るのが怖いわけではない、痛みが増すような気がして自覚しないように努めている。
『米田、なおも攻めたてる!』
回転が終わると同時に拳を構え直しながら一歩踏み込む。完全に米田の間合いだった。
(やばい)
そこから米田の正拳突きが放たれた時、正直そう思った。後ろに跳ぶのは間に合いそうになく、身をひるがえすには距離が足りない。
ガードするしかないと左手を動かそうとした時、それは身体が勝手に動いた。
Bは自分の左の手首を米田の手首に触れさせ絡ませるように下にさげ、自らは一歩後方に引く。――自分が想像したよりも力が入れる必要はなかった。
米田が前につんのめったところ、手首を触れさせたまま手を挙げる。――すると自分がそうだったように米田の右腕は上に弾かれ、それにつられ上半身も棒立ちになる。
そこにあの時と同じように一歩踏み込み、そのガラ空きになった腹に、左の手の甲を右の手の平で押しつけるようにぶつける。
――それはさながら、闘いの王が突き刺す勝利の槍。
「ガハッ!」
声と共に肺の空気を吐き出すほどの衝撃をまともに食らい、数歩後ろによろめき腹を押さえながら両膝を地につく。その光景に古田は思わず声を荒らげる。
『紫電さん、まさかこれは!』
観客が一気に湧く。この試合始まってから初めてBが優位に立った瞬間である。
『……師匠の先程の技だと、奥義「闘王」だと……思います』
眼前の光景はそうとしか見れない。しかしそんなことより自分がまともに攻撃を入れたことのない師匠に膝をつかせたこと、そちらの方が信じがたかった。
ここで追い打ちをかけるかどうか迷ったが結局止めた。数度、頼んでもないのに立ち上がるまで待ってくれたし、回復の為の時間稼ぎにものってくれた。ここで待つのもいいだろう。自分の回復にもなる。そんな思惑を表情に出さずに悠然と立ち振る舞う。
「……お前、化け物か」
咳き込みながらどうにか米田は声を出す。自分のされたことに驚きはするものの下から見上げる眼光は未だ鋭く、戦意を喪失したようには見えない。
「ワシが……30数年できなかった技を、アッサリ、と真似るとは」
それは屈辱的な衝撃。嫉妬と羨望が入り交じる。
「やはり奥義と呼ぶにはほど遠そうですね。僕も御隠居もまだ闘える。……返し技としては面白いですがね。少し改良するなり、もう一技加えるなりして破壊力を増したほうが良さそうですね。タイミングがシビアなわりにすぐに立たれたら意味がないですね」
「ぬかせ! ワシが昔食らった重ね当てはもっと威力があったわい。貴様が下手くそなだけだ」
「僕は御隠居の技をそのまま再現したんですよ。もしも先程の『闘王』に威力が無いというのなら、僕の受けたダメージもその程度と思ってください」
「いいおるわ!」
米田はさっと立ち上がる。それでも腹部へのダメージをまともに食らったのだから当然なのだが少しフラついた様子もあり内心ホッとする。自分は腹にその前にもダメージを食らっていたので『闘王』の単発の威力は判断しかねたのでハッタリを言っただけなのだから。
「しかし、やはりワシの目に狂いはなかったな」
他の誰かに言われていたら激昂していただろうが、自分の認めた人間が自分の想像以上の素材であるという事実はその感情を抑える。格闘家としては悔しいものだが、教える立場、師としてとなれば話は違う。
「お前こそ金の卵だ。もう一度言う、ワシについてこい! お前ならワシの全てを習得できる。ワシを越えることもできる。最強の格闘家にしてやる」
(懲りないじいさんだ)
もっともいま現在まだ米田の優勢には変わりない。勝てる方法が幾つあるだろうか? 武器でもあれば、魔法でも使えれば挽回策はいくらでも思いつくのだが、使えるのが身体のみというルールが厳しい。
「お主がまだ立てているのは、そしてワシの奥義を使えたのは類まれなる天賦の才のおかげだ。ワシの元でワシが今まで培ってきた経験と、実践経験をつめば絵空事ではない」
強い口調でいう。現実の世界での最強の格闘家の地位には興味はない。
(天賦の才なんか俺にない。俺がまだ立ててるのはそれこそ実戦経験の賜物だよ。……そうか!)
ようやく気づく。自分を見失っていたことに。
「ハッ、ハハハハー」
突如、Bは笑いだした。
おかしかった。米田の言葉は逆である。
「ほうけたか?」
米田が珍しく戸惑いをみせる。それは実況・解説をしている紫電や観客も同じである。特にブレイン・フィールドの利用者は常にクールな姿しか見せない最強の称号を持つ伝説の男の姿にざわめきが広がる。
「まさか」
Bは笑うのを止め、笑顔で応える。
「最強の格闘家の称号は僕にはいりません。御隠居が名乗ってください」
「ほう、遂に負けを認めるか」
「いいえ、僕は格闘家じゃないことを思い出したんですよ。そうしたらやっと冷静になれましたよ。……危なかったですよ。もう少し気づくのが遅かったら負けてましたよ」
「ほう、儂を最強の格闘家と認めてなおも勝てるというのか?」
「別に珍しいことじゃないんですよ、僕より優れた能力を持つってことは。この世界には、ゲームの世界には僕より防御の上手くて固い人がいます。力じゃかなわない人間がいます。刀を扱わせれば上手すぎる人間がいます。僕より速く、賢い人間がいます。そして御隠居といった具合にね。――でも勝つのは僕です」
「……矛盾しとるように聞こえるが」
「僕がこの世界、ヴァーチャル・リアル・フィールド最強ということです」
よく分からない。そんな米田に右手で銃を模した形を作り指さす。
――ウォォォォォォー!!
指さされるという行為にムッとし言い返そうとした瞬間、言葉をかき消すかのように歓声が場内を包む。今日一番の大歓声は否が応でもボルテージが高潮する。
それはここではお馴染みの光景。
――Bの勝利宣言のポーズ。
ジッと米田を見つめ、
「僕をここまで追い詰めたことを誇りに思ってください。御隠居はまだ長生きしそうですが残る余生、今日の負けを過去の栄光として語ってください。僕に一瞬でも負けを意識させた貴方の格闘技術は賞賛に値します」
「何が言いたい」
先程から眼前の少年の言葉は理解しがたい。今も褒められているのかけなされているのか、遠回しに自分の強さを主張しているのかハッキリしない。
「御隠居の敗因は僕を格闘家だと勘違いしたことです。そしてここが現実世界と同じだと思っていることです。ここにはここでしかできない闘いがあります。僕には天賦の才などない。格闘技の経験もない。貴方に僕が勝っているものはこの世界での実践経験の豊富さ、そこで知ったこの世界の特性だけです」
「格闘家でないなら貴様は一体何だというのだ?」
「……考えたことも無かったですがゲーマーというところでしょうかね」
「ゲーマー? なんじゃ、遊び人とでもいうのか」
「いえ、ゲームを愛している人間ですよ」
何にしろBの言ってることがほとんど理解できなかった。分かったことと言えば
「……とにかくお主はまだワシに勝つ可能性があるというのだな」
「勝つ確信があります」
強くハッキリと言う。その眼には何の曇りもなかった。
「面白い! なら見せてみろ!」
それだけわかれば米田には十分だった。強者が自分に向かってくる。それもとびきり強い勝利の意思を持って。なら迎え撃てばいい。
『B、間合いを詰めながら大きく両手を開く』
――勝つ方法は最初からこれしか無かったのではと今にして思う。
「たあぁぁぁぁぁぁ!!」
米田にはBがどんな攻撃がくるのか全く読めなかった。両手を広げての突進する事になにか真意はあるのだろうか?
両手で頭部への同時攻撃、手と見せかけて足や、頭突きということもある。リーチの関係で米田には間合いのギリギリ外を見極めて強く左足を踏み込む。自ら前に出て仕掛けようかとも思ったがひとまず受け流そうと両腕と右足に注意を払いながら一歩後ろに下がる。
興味があったのだ、どんな攻撃を仕掛けてくるのかが。とはいえこれが特に幸いしたわけではない。Bは攻撃されてもきっと強引に仕掛けていた。自分の筋肉の性能を全て使うように強くイメージし、その結果に覚悟を決める。
『B、凄まじい速さで両手を弧を描くように前にだす!』
しかし目測したところ当たる事はないと判断した。つまりこれは囮で本命は足だと。刹那、右手のほうが動きが早かったのか左頬から風を感じ、勢いよく顔を通りすぎる。右足での攻撃に対応しようとしたその時、何とも形容しがたい音が衝撃の如く強制的に右耳から入ってきた。至近距離で何かが爆発したかのような感じ。
実際攻撃を受けたわけではないが、非常に危険な感じがした。
「――何?」
米田がとりあえず間合いをとろうと後ろに跳ぼうとしたが足が言うことをきかなかった。それどころか身体が麻痺し前のめりに倒れる感覚さえした。そんな米田の顎をここぞとばかり爪先で蹴り上げる。
『ああっと、米田ダウン。Bの猫だましからの蹴り上げをまともに食らったぁ!』
場内の全ての人間にも聞こえた破裂音が何事かと確かめようとする。
『いや猫だましではないかもしれません』
紫電がBを注意深く観察しながら呟く。Bは両手を下にブラーンと力なく伸ばしている。そしてその手は
『Bの両手を見てください! 真っ赤です。血まみれになるような攻撃をしたのでは』
(まだか、クソッ、なら止めを)
消えて無いということはまだ生きているということ。両手の痛みで気を失いそうになりながらユックリというよりフラフラと倒れた米田に歩いていく。すると指先が動いたのを感じ歩みを止める。
「……小僧、何をした」
上体を起こしながら呻くように言葉を絞る米田にどっちが化け物だと思いつつもしたことを教えてやる。痛みを我慢しつつ言葉を絞り出す。
「……両手を耳元で合わせたんです。人間ってのは耳元で大きな音が鳴ると聴覚神経を麻痺、します。爆竹並の音になると三半器官まで、麻痺して平衡感覚まで無くなります」
どうにか立ち上がろうとすると、目が回っているのか、足がフラついているのかまでは判断しかねたが確かに平衡感覚が無くなったように目の前が安定しない。
『ということはまさかBは自分の手から血が出るほど叩き合わせたのでしょうか?』
『それで聴覚神経はおかしくなるかもしれませんが、三半規管を麻痺させるまでに至るでしょうか? 確かにこちらまで聞こえる音でしたが』
米田は音を思い出してみる。今にして思えは手を叩き合わせた衝撃音に、皮膚がさける音、肉がつぶれる音……そして、
「まさか、骨まで砕いたのか!」
できるはずがない。信じることはできない。しかし骨が砕ける音も聞こえたような気がした。しかしそれができるのであれば耳元で爆竹並の音を作ることも可能かもしれない。冷汗まみれのBの顔に作り笑いが消えている。
「……ご名答。だから痛くてしょうがないんです。サッサと決めさせてもらいますよ」
▼
「なるほど……な、これがニーナの言ってた奥の手か」
「ええ」
クロードの言葉にニーナは頷く。
言われてみればBという男は勝つためなら平気で腕を切り捨てるなどの「肉を切らせて骨を断つ」といった戦法を使う。今したことは米田や、紫電にとっては理解不能なことでもBをよく知る者には不思議なことではない。
「流石ですぅ。ムチャクチャですぅ。でもこれで形勢逆転ですねぇ~」
上機嫌のモエ。ランディとクロードの顔は未だ暗い。
「ダメージではそうかもしれない。でもここからが厳しい」
「ああ、もうあれで手は使えない。足技しか無いとなるといくらヤツでも読まれやすい」
「……ああそうか、勘違いしていた」
二人の言葉に自分の中で考えがまとまる。
「マスターがあそこまで追い詰められたの初めて見たから逆を考えなかったんだ」
「ニーナ、一体何言ってんだ?」
クロードだけでなく全員の視線がニーナに注がれる。
「あたし、マスターの闘いって対戦相手の視点から自分ならどう攻撃する、その攻撃はどう防御するって見方しかしたことなかった。今日、今初めてマスターの視線から闘い見て気がついたの」
彼女の言ってることが分からずクロードは思わず聞き返す。
「それがどうしたっていうんだ」
勝つか負けるかの瀬戸際にはっきり教えてもらえないのがかなり苛立ちをよんでいる。ニーナはBを指さしながら、
「相手がその程度のことを考えてることくらいマスターだって気がついてるってこと」
▼
指が痛い、掌が痛い、手首も痛い、燃えるように熱い気もする。血が流れているのは脈打ちで感じるが感覚は無い。ついでに腕までズキズキと痛む。こめかみの辺りが激しく脈打つ音が聞こえるくらいに血管に血が流れているような気がした。
いつものゲームの痛さではなく本物に近い痛みだと分かっていたからこそ最後までこの手が浮かばなかったのだろう。この痛みは痛烈だ。歯をきつく食いしばらないと気絶しそうだった。長引かすとヤバイ。
(しかし、人間の身体は上手くできてる)
改めて思う。人は自分の力を100%発揮することができないという。発揮すればその衝撃に身体が耐えきれず肉なり骨、関節が壊れてしまうからだ。またそれが出来ないように痛みがある。もしも痛覚を取り除けば非力な女性や子供でも十円玉を指だけで曲げることができるという。もっとも指の筋肉や骨は只ではすまないだろうが。
今それを実際に感じている。
では何故Bにはそれが出来たのか?
それはヴァーチャル・リアル・フィールドという特性を上手く利用した。彼は無意識にかかるリミッターを強固な意思やイメージの力で強制的に排除して瞬間的にフルパワーを発揮できるように訓練しているのだ。故に高校生並の体力しか持っていなくともプロボクサー大橋のパンチを片手で受け止めることや、力でおとる紫電を力技で倒すことができた。
『B、仕掛けた。一気に間合いを詰める』
(手技はない)
平衡感覚が朦朧とした頭で米田はそう判断した。壊れた腕で攻撃をするのはあり得ない。手を壊してまで攻撃するのは愚の骨頂。
(そんな人間は……)
そう思いつつ足に注目した。刹那衝撃が頭上から来る。
『B、モノでも投げるように右手を頭に叩き下ろす』
「がぁぁぁぁぁああう」
Bは痛みを堪えきれず叫ぶ。血が空に舞い散る。
(格闘家じゃない)
今日の勝利が一番大事と言う人間が、負けず嫌いが格闘家の条件かもしれない。引くに引けない勝負もある。しかし、先のことを考えていない人間は身体を大事にしない人間は格闘家としては失格である。色々な人間と闘ってきたがBのような人間は初めてである。傷めた手をさらに傷つけるとは常識の範囲外である。拳が二度と使えなくなってしまうようなことをするということは。
米田の頭が下がってきてところをBは突き上げるように顔面に頭突きを行う。少し身体を浮いたところを素早く米田の横に移動し、両足の裏を自分の足で思い切り蹴り上げる。するとまるでマネキンのようにクルッと半回転し足と頭の位置が正常と逆になる。
米田は何が起きたのか分かっていない。平衡感覚が麻痺しているのだから視界が回転したことについていけていないのだ。その倒立状態になったところで重力に逆らわず落ちていく米田の顎めがけギロチンでも落とすかのように全体重をかけた膝を落とす。
――それはさながら雷の神が下す裁きの鎚。
――グギッ!
首の骨が折れる音と感触が足から伝わる。いつも思うのだが慣れない、いや慣れてはいけない嫌な感じ。殺人を犯したという事実の感触、そして罪の意識。
『雷神』――そう呼ばれるものの原型。
元々は手が使えない可能性を考慮に入れて作った技。相手を浮かせて頭から地面に叩きつける。ただ手が使えるのであれば同じ原理と理屈のことがもっと簡単にできるので使ったことはほとんど無い技。ただし完全に決まるのであれば殺傷能力はどの方法をとっても十分にある。
ほどなく米田が光の粒子となって消えていく。
『B! サン・オブ・バトルマスターの逆転! 大逆転勝利です!!』
アナウンサーが絶叫するとほぼ同時に会場がBの勝利に沸く。
手を挙げて応えるのがいつもの習慣だが今日は両腕とも完全に壊れている。ついでにいうなら痛みで余力もない。両膝をついた体勢でジッとしているのがやっとだ。
米田の誤算。
彼はここでしかできない闘い方を知らなかったのだ。ここではどんな大怪我をしようが、もっというなら死んだところで終わりではない。
次の試合までには身体は完全回復している。故に「肉を切らせて骨を断つ」は必ずしも捨て身の一か八かの大技ではないのだ。
ここはゲームの世界なのだ。基本的に再起不能になるようなことはない。誰でもハンディなく自由に楽しめる世界なのだ。自由な発想、緻密な計算、創意工夫、そして努力が必ず身を結ぶ世界。現実とは似て非なる世界。
米田自身、ゲームのおかげでスタミナというハンディを無くなったという事実を忘れ、怪我をした腕での攻撃はないという現実の世界の固定観念に縛られていた。故にゲームをしているということを思い出したBの自由な発想の前に敗れた。
もう両腕が痛いどころの感覚ではないうえに鉛になったかのように重たい。軽いとはいえ米田を宙に浮かすように全力で蹴り上げたのだから足も大分痛んでいるだろうと思われる。
他にも胸や腹などダメージを受けた箇所が多々あるので見た目以上に満身創痍だろうが今は腕の痛みしか感じない。
ギィッと歯を食いしばらないと声にならない絶叫をし倒れてしまいそうだった。奥歯が軋むまで噛みしめ、倒れてしまいそうな自分を踏ん張る。
米田が消えてから自分の勝利が正式にコールされるまでのほんの数秒がまるで永遠とも思われるほど長い。
多分この後も色々あるだろう。
「ブレイン・フィールド」では最強の称号目当てに、又はただ強さを実感したいという気持ちのプレイヤーでいっそう挑戦者が増えるだろう。今日の闘いで四天王もそろそろ闘いたいと思うかもしれない。またシルバー社が何か仕掛けてくるかもしれない。そしてもっとも怖いのは自分の兄が何かくだらない、自分に迷惑しかかからないことを思いつくかもしれない。
でもそんなことよりも今はただ勝利のコールがまちどおしかった。その後のことなどとりあえずどうでもよかった。
『サン・オブ・バトルマスター ウィン!』
朦朧とした頭のなかにそのいつも聞き慣れた合成音が聞こえた。
これにてブレイン・フィールド Q2は完結となります。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
第3部としてニーナかイリナをメインでの構想中です。




