表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

13(Side:四天王)

 一夜立った後のブレイン・フィールド。

 そこはある話題で盛り上がっていた。その世界で最強の男が、「ザ・リアル」というゲームで現実の格闘家すらものともしなかったということに。

 それはこの世界に建設されている闘技場でも同じだった。この闘技場は登録さえすればいつでも闘いたいときに闘えるようになっている。そこには闘う場所だけでなく観戦場並びに談話場ががある。いわゆるネットゲームにおけるチャットをする場所と考えていい。また闘技場には個人の強さによってランクづけされ、D、C、B、A、S級があり、S級には個人的な部屋が与えられる。その中の一部屋、サン・オブ・バトルマスターの個別の部屋。最強の称号が与えられる部屋なのでそこそこの広さはあるが特別に豪華という訳ではない。真っ白い壁の四角い部屋。天井には蛍光灯。廊下に面した扉があり、そこから右の壁には個人の戦利品、武器、防具、金など自分が持ち切れないモノをおいとけるようにロッカーや金庫がある。正面には壁一面に大きなモニター。今は何も映っていないが、見ようと思えば今している試合が見れる。右奥の床にはロッカーに隠れて見えにくいが何やら魔方陣のようなものが描かれている。中央から少し左に側に長方形の立派なテーブルとその回りに縦に三人掛け用の見るからにフカフカのソファーが二つ、横側には一人用のソファーが互いが体面に来るように置かれている。そこに四人の男女が座っている。今ここには本来の部屋の主はいないが、彼に勝手に使用してもいいと登録しておいた四人が集っている。


「で、今日は大将来るのか?」


 白銀色の中世西洋騎士のさながらの鎧を顔以外、ほぼ全身に纏った大男が訊ねる。左腕には凹凸のないまるで鏡のような盾がついている。顔つきもそれ相応に強面で言葉数の少なそうな感じを受ける。ランディという屈強の男である。「ジェネラル」の通り名をもつ彼は怪力の持ち主で、今は必要がないので装備していないが槍をつかわせて右に出るものはいない。初期パラメーターで力への配分をメインにし、武器、防具、アクセサリー等で最大限に強化した完全なパワーファイターである。


「さ~あ? 聞いてませんけどぉ」


 身体にピッチリとした布地の厚いウエットスーツのようなモノを着込んでいるかわいらしい人形の様な少女が応える。が妙に間延びした口調と顔の見かけとは正反対に身につけているものは物騒だ。ウエットスーツは機械で制御されているのか、ところどころに配線なりメーターなりが備えつけられ肩や腕に重火器が装備されている。モエという少女の通り名は「重戦車」。その通り名に恥じないように彼女の戦闘では爆音が耐えない。もっとも彼女の強さの最大の長所は防御力の高さだと分析されている。


「そういう連絡役はニーナだろう? 俺らの出席は伝えたんだろ」


 ランディとは趣が違う男、クロードが言う。彼は日本の侍風の恰好をしている。絵巻やテレビの時代劇なんかで出てくるようなリアルさを追求した古臭いのではなく、デザイナーが今風を意識して制作したかのような鎧である。刀ももちろん鎧に合わせて日本刀、しかし鎧と刀の鞘の色は漆黒で模様も何処か禍々しい、聖なるアイテムというより呪われているかのような印象を受ける。「剣王」という通り名が示すように刀を使った技巧派のプレイヤーだ。初期パラメーターは若干スピード重視だがほぼ平均的である。現実世界では剣術と言うモノをやっているらしく、単純に剣の腕前ではBよりも上という評価もある。


「今日はあたしたち全員は行くってメールしたんだけど、マスターは行けるかどうか分からないって返事があったわ。なるべくなら来てってレスしたんだけど返事なし」


 大きな白い翼があまりにも目を引く金髪でロングの女性が両手を軽く広げ応える。彼女の名はニーナ。この世界ではメモを取ることができても当然のことながら現実世界に持って出ることはできない。ヘルメットをかぶるだけのシステム上端末でのメールが組み込めなかったことと、運営側がコミュニケーションはリアルとは違った一昔前の対面のみにすべきだという方針からだ。

 だが記憶までは制限できない。リアルのメールアドレスなどは記憶し口頭にて他人に伝聞した場合はそれを妨げることはできない。

 記憶力がこの中で一番いい彼女が全員の分を覚えて、回したことから何とはなしに彼女が連絡役になってしまった。

「エンジェル」という通り名を持つニーナはいわゆる魔法使いであり、魔法を使うためには呪文を詠唱する必要があり、そのためには呪文を記憶する必要がある。この世界一と言われる呪文の数を覚えている彼女の記憶力はその役に適任だった。もちろんに覚えているだけでなく魔法も的確に使える。また彼女の翼は飾りではなく、実際に空を飛ぶとことができ初期パラメーターにスピードが加わる。魔力重視の彼女は判断力にも優れており、その実力は一概に計り知れない。非公式だが一度サン・オブ・バトルマスターに勝ったという噂さえ流れている。

 この四人は誰しも自分の部屋を持っているほどの実力者だが、何となしに取り敢えずここにサン・オブ・バトルマスターの部屋に集うのがいつもの習慣である。

「四天王」彼ら彼女たちはそう呼ばれている。サン・オブ・バトルマスターとパーティーを組んでその強さについていける者の尊称。ちなみにこの四人はもう一つづつ通り名を持っている。モエが四天王〔爆〕、ランディが四天王〔滅〕、クロードが四天王〔巧〕、ニーナが四天王〔空〕である。それぞれの闘い方からつけられたと言われている。


「昨日の今日だから精神的に疲れてるのかもしれないな」

「あいつがそんなタマかぁ、アッサリ倒してたじゃねぇーか」


 ランディの言葉をクロードは否定する。


「だから精神的にと言ってる。ハンディ戦で名だたる格闘家との四連戦だったんだ」

「……まあ、そういわれりゃあそうだがよぉ」

「でもぉ~、昨日の試合、凄かったですぅねぇ」


 二人の話にモエが加わる。地なのか、この世界でだけ作っているのか判断はつかないが場面によっては緊張感がなく、気が削がれることもある。


「確かになぁ。パラメーターがどれだけいじくられたのかにもよるけどな」

「重力もぉ、痛みもぉ現実と同じって言ってましたよねぇ」

「もっとも痛かったのは紫電達のほうだろうがな」


 この四人はBが負けるかもということを全く思っていなかった。少々のハンディくらいで倒せるのなら自分たちが倒していると。彼は仲間ではあるがライバルでもある。


「しかし、かなり下げられたんだろうなぁ。いつもの動きじゃ無かった。何か旦那を倒す参考にでもなるかと思ってたんだが」

「そう?」


 クロードの言葉に今までほとんど会話に参加していなかったニーナが口を開く。


「あれだけ動きが制限されていた状態で、1対1の狭い空間、真正面から戦うことのプロを相手にほとんどダメージを受けていない。スピードのあるパンチもキレのある投げ技もパワーある攻撃も」

「そうだな、――それで?」

「かなりのハンディがあろうとも真正面からの近接戦闘では彼に攻撃をぶつけることは難しいってことよ。まあこっちじゃあ設定が違うから一概に言えないけどね」

「……なるほどねぇ」


 ニーナの言葉にクロードはつまらなそうに応じる。


「確かに正面から奴を斬るのはメンドーだな。上下左右、前後へと揺さぶらないとな」

「私はぁ~、肉弾戦なんか、することないですけどぉ、カウンターもあんなに上手だなんてぇ知りませんでしたぁ~」

「でも紙一重で避けることは神業的に上手いからな。できても不思議じゃないだろう」


 モエの疑問にこの中では最も正面からの格闘戦をしているランディが応える。


「まあ、どちらかというと紙一重でよけたあと、紫電倒したときのような攻撃ラッシュが一番イメージ強いな」

「そうね。……でもあたしはカウンターも上手いとは思うわよ。だって肉を切らせて骨を断つ男だもの。みんなも知らないわけないでしょ。あの男は平気で自分の腕や足を斬り落とせるんだから」


 サン・オブ・バトルマスターの特徴の最たるものはそれであり、みんなそれに痛い目を合わされたことがある。もっとも頻繁に使えるわけでは無いので、使われたならある程度認めてもらったと解釈することもできる。


「それにカウンターっていったら『風神』『雷神』はマスターオリジナルのカウンターでしょう」

「……確かに、あの『風神』は絶妙だったな」


 昨日の試合を思い出すようにランディはうめくようにつぶやく。


「そうですねぇ~、現実のぉ世界でもぉ、使えるなんて思いませんでしたぁ~」

「あらあたしは『風神』は驚かなかったよ。『雷神』使ったときには鳥肌立ったけど」

「『雷神』? いつ? あれは使えんだろう」


 クロードが問い返す。もっともな意見だった。ニーナは自分でも疑った。


「紫電を最後倒した技。あれはかなり変形してたけど『雷神』じゃない」


 クロードは額を指でつつきながら繰り返し見た映像の最後のシーンを思い出し、自分の食らったこともある『雷神』と比べてみる。


「でもよぉ『雷神』てったら、魔力を込めた拳でアッパー、相手を空中に飛ばして自由のきかない相手の後を自分も追うように飛んで、相手の顎にヒザをのせて自分と相手の体重に重力を加えて頭からモロ落とす技だろう? ちょっと違うんじゃねぇーか?」


 クロードの分析はもっともだった。Bが使う『雷神』の分析としては間違っていない。


「力がない分、掌底で軽く浮かせて足を刈って相手の全身を宙に浮かす。そのまま顔を持って自らの体重を預けるように頭から落とした。変形だけど技のポイントはそのままだと思うけど」

「言われてみれば……」


 ニーナの意見にランディは腕を組みながら納得したかのように頷く。それでもクロードが何か言おうとした瞬間、モエが目敏く気がつく。


「まあ~、それは本人にぃ、聞いてみましょう~」


 部屋の片隅に描かれてある、魔法陣のような文様が書かれた部分が光りだしている。これは個人用の転送ゲート。登録さえしておけばゲーム開始時にここに自動的に来るようになっている。このゲートに登録されているの人間は5人でそのうち4人はすでにここにいる。誰が来たかは考えるまでもない。


「おや、皆さんおそろいで」


 昨日と同じ、というよりいつも通りの服装でにこやかに現れる。


「そりゃあいるわよ。ちょんとメールしたでしょ、今日はみんな来るって。来る気になったなら返事くらいしてよ」

「…あ、ええ。今急に来る気に、というか行かなければならない気になったんですよ」


 少し怒り気味のニーナに言う。結構几帳面な性格なのだろう。しかし彼はメールの存在を知らなかった。ソファーに座りながらいつものように適当にごまかす。


「よくよく考えたら今日の最大の話題が僕ですからね。来ないわけにはいかないでしょう? ……それにもしかしたら珍客が来そうな気がして」

「……珍客? 誰かここに来るの?」


 ニーナが不信そうに聞き返す。ここは闘技場最上階最奥にある上に、最強の人物の部屋である。そしてその強さについてこれるパーティーが集う部屋。いわばもっとも敷居の高い部屋である。ここに来るのにはよほどの勇気が要る。


「さあ、来なければそれはそれで助かるんですけどね」


 ニッコリと笑い頬杖をつく。そしてはぐらかすかの様に誰かが話しだすより先に


「それより昨日の感想聞かせてくださいよ」

「サンちゃん、すっごくゥ~カッコよかったですぅ。負けるなんてぇ思ってもいませんでしたがぁ、あそこまでぇ圧勝なんてすごいですぅ」

「ああ、あれだけ目に見えるくらいのハンディがあったというのに圧勝だ。正直おそれいった」


 ニーナは質問をはぐらかされたことに対して文句言おうとする前にモエとランディに矢継ぎ早に言われ、なんとなく言いそびれた挙げ句、ほっとかれた様な感じになりちょっと寂しく、かつ腹立たしくもある。そんなことなど気にも止めず


「見た目ほど圧勝じゃあ無かったですよ。動きが鈍い分、先読みしてカバーしなくちゃならなかったですし、パワーがない分カウンター狙いで攻めなくちゃならなかったですからね。精神的にすごい疲れましたよ。あの後もう死んだように眠りましたよ」


 実際、本人は朝起きれず、今日は月曜で学校があったというのにサボった。


「カウンターで思い出した、さっきニーナと話してたんだが紫電倒したとき最後に使った技、『雷神』か?」


 せっかく目の前に本人が現れたのだ。モエの言う通り聞くのが一番早い。クロードの問いにBは少し考えて


「紫電に最初に放った技、あれをダブルフックと認めてくれるんなら『雷神』になりますね。まあ本人はダブルフックを真似し、『雷神』をしたつもりですけどね」


 『雷神』今のところサン・オブ・バトルマスターにしかできない技、その唯一使える本人がそれのつもりということは、そういうことになる。ニーナは「ほらね」という顔でクロードを見、逆にクロードは面白くなさそうに視線をそらす。


「結局はその技の本質を理解することですね。何が要かさえ分かれば基本の型通りにしなくとも応用して、その時に必要な形で効果的に使えますから。まあもっとも基本と言っても『雷神』は僕が作った我流の技ですがね」


 いとも簡単にいうが技の基礎となる部分を熟知し応用するのは簡単ではない。ダブルフックを一度食らっただけでその技の要を見つけるのは至難の技である。また『雷神』に至っては、応用できるようにキチンと基礎理念を持った技を作っているということになる。

 クロードは唇を少し噛む。どちらにせよ実力の一端を垣間見たような気がした。


「……もしかして紫電にしたほうが基本でこっちで使ってるほうが応用だったりして」


 ニーナは何の確信もないただの勘だったが、正しいような気がした。Bは興味深そうにニーナの顔を見て、自分の顎を撫でながら訊ねる。


「どうしてそう思います?」 

「女の勘、でそう思っただけよ。まあ強いて言うならあの体勢からだしたとは思えないほどスムーズに技が入っていったような気がしたから……かな」


 さすがはサン・オブ・バトルマスター本人が自分に匹敵すると認めるだけの人物だ、内心舌をまく。本当のことは言うのをさけ、それでいてもっともらしくうそぶく。


「正解です。ああいう感じの技を考えて、アレンジしたのが今皆さんが『雷神』と呼んでるモノですよ。『風神』はハデなアレンジが思いつかなかったからそのまま何ですが」


『風神』の場合、威力がある程度確保されている上、すかさずダウン攻撃も仕掛けられるから必要ないとも考えられる。もっとも『雷神』も本来の形に持っていけるのであれば通常空間でも『風神』並みの威力はある。


 今回の対戦は自分の最強のライバルの強さを再確認できた。欲を言えば弱点らしきものがでるまで粘ってほしかった。そんなことをニーナが思っている時に「トントントン」と扉をノックする音が部屋に響いた。


「どちらさまでしょう?」


 Bはいつものとおり穏やかな口調で応じる。 


「あ、Bさんはいらっしゃるのですね。良かった。この間お会いしたシルバー社の企画課の者です」


 扉の外から聞こえてきた意外な一言にBを除く全員が驚愕する。ライバル社の人間がゲームをプレイしているなんて、しかも昨日の今日に会いに来るなんて。


「なるほど、確かに珍客だわ」


 ニーナは小声で言う。他の三人もその言葉に呼応したかのようにただ頷く。自分たちでさえメールアドレスしか知らないのだから、他の人から見ると素性の知れない人間と言っても過言ではない。そんな人間とコンタクトとれる場所がここしかないのであるから来ても不思議ではない。昨日の戦いのアポイントや、雑誌に載っていたインタビューは結局ここでするしかない。


「はい、いま鍵を開けます。少々お待ちください」


 Bは顎を撫でながら心底嬉しそうな顔をした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ