夢を視ました。現実はいきなりでした。
気づいたら、お気に入り80件越え! ありがとうございます。
一気に登場人物が増えます。作者、キャラクター性格把握が間に合ってません。性格がそのうち変わってるかも……
夢を見ているとき、その中で「コレは夢なんだ」っと自覚してその光景を見ている自分がいる。
きっと今、私が見ているのは夢なんだ。
身体を襲う浮遊感。そして、お酒を飲んだ後のような思考の定まらないふわふわとした感覚が、身体を支配している。
自分が何処にいるのか理解できていない。
ココは何処なんだろう?
見えているのは、暗雲と雷鳴が轟く空。地上は薄暗くなっていて、建物の影は見えない。まるで黒い霧に覆われているようだ。そしてその中に走る幾つかの光の筋。
『--全部、揃った』
誰?
知らない声が、耳に届いた。それは、遠くにいるはずなのに鮮明に私の元まで聞こえてくる。
透き通った鈴の音が響き渡る。
ダレ? 誰なの?
姿が見えない誰かに問い掛けるように何度も呼び掛ける。夢の中で、相手に聞こえるか分からないのに、私は何度も呼ぶ。鈴の音は、一層強く高らかに響く。
「――……すみ」
知っているはずなのに分からない。そんなもどかしさに、鈴の音が遠退いていってしまう。
「――蓮見……蓮見!」
「……はぅ?」
何度も私の名前を呼ぶ声に、眠りの淵に落ちていた意識がゆっくりと浮上していく。鈴の音はもう聞こえてこない。
ゆるゆると目蓋を上げると、薄ぼける視界に飛びこんできたのは、灰色。そして、藍色の瞳。それが心配そうに揺らいで見えた。
甲斐君……?
「……? おはよう?」
寝ぼけてしっかり見えないけど、声からして私を起こしたのは甲斐君のようだ。まだ閉じそうになる瞼をこすりながら、私は答える。
「……大丈夫か?」
「えーっと? うん? 大丈夫だよ?」
というか、何がだろう?
「病室にいないから、心配した」
あ、そういうことか。
「暇だったから外出を。したら、眠くなっちゃってさ~……」
まだ上手く頭が回らず、ボケボケしたまま答えると、少しだけ安心したような声色が甲斐君から返って来た。
「そうか。それだけなら良かった」
「うん? 何だか知らないけど、心配かけたようで」
へらっと、気の抜けたような笑みを浮かべてると、一瞬言葉を詰まらせた甲斐君は、困ったように視線を外した。
え? なんかした?
座り込んでる私からだと、彼の表情は良く見えない。
逆光で影を落とす彼の顔。傍で屈んでるとはいえ、甲斐君との身長差は20cm以上ある。近いようで、少し遠い。
どうしたんだろう?
黙り込んでしまった甲斐君に、私は小首を傾げてしまう。
「随分お転婆なお姫様みたいだね」
はい?
なんて声を掛けようか悩んでいる私に甲斐君の後ろから、聞いたことのある、“この世界”では初になる声が聞こえた。
思わず目をぱちくりと瞬いてしまう。そして、視線を向けた先にいた人物達を見て、口から心臓が飛び出しそうになった。比喩であって本当にはでないけど。けど、本当に出てくるかと思った。
代わりに、けほって間抜けな息を吐く音が出でしまった。
ナゼココニ、コノ方々ガ?!
甲斐君の肩越しに見える3人の少年と1人の少女--少女は言わずも知れた、和泉 千歌嬢だ。そして、他の3人は、甲斐君と同じ戦人。千歌嬢の守り手だ。もう一つおまけに言ってしまえば、甲斐君含む彼ら4人は、乙女ゲーム『クロノクロック~刻の砂時計~』の攻略対象キャラである。
目の保養だけど、寝起きに見るもんじゃないわ。
「お転婆ってより、じゃじゃ馬だろ」
いやまて、私の気質は激しくないぞ。そこは、訂正させろ!
って、お転婆とじゃじゃ馬の違いを説明してる場合じゃないか。
外ハネのツンツンした青の髪。釣り目でどこか怖い印象を与えてしまうこの人は、日向 拓海。私や甲斐君、千歌嬢の一個上の高2。
「初対面の女の子にそんな風に言うもんじゃないよ、拓海」
柔和な笑みを浮かべながら、話し掛けてきたのは、相模 涼。私達の二つ上の3年生。で、茶道部部長。
去年の文化祭では、その和服見たさに作法室前に列が出来ていた。
「そうだよ、拓海君! そういう言い方良くないよ! 蓮見さんは格好良いもん!」
本当になんで、貴女がここに居るんですか? 千歌嬢。
格好良いとか言っていただけるのは、光栄ですけど。その前になんで貴女が力説できるの!?
「何にせよ、回復したようで良かった。晴明も千歌も随分心配していたからな」
そう最後をしめたのは、眼鏡好きの友人が発狂しそうなほど眼鏡が似合っている、山城 侑耶。相模先輩と同じ高3で、こちらは書道部所属。
たしか、全国大会に出展できるくらい達筆らしいけど、なぜか部長ではない。
はて、何でだっけ?
「……そこまで、心配していない」
ぼそりと、小さく山城先輩の台詞を否定したのは、甲斐君だった。多分山城先輩に聞こえてないだろうけど、近くにいた私にはばっちり聞こえてしまった。
う~ん、重々承知してますって。
「あぁ、うん。分かってますって」
「……」
「自分で言って凹まないの!」
千歌嬢が甲斐君に何か言ってるけど、小さくて聞き取れないんだけど。
しかし、攻略キャラが4人揃っちゃったよ。
本来関わる必要なんてなかった彼らと関わってしまった。ゲームは終わってるはずだから何の意味もないはずだけど。
それでも、言葉に出来ない不安が胸を過ぎった。
「なんだろう……」
小さく呟いた私の言葉は、他の誰にも聞かれることなく消えていった。
交わった縁は、宿命か運命か。それとも誰かの思惑か。
ゲームは終わったけど、現実は終わってない。
どうでもいいけど、私の平穏安穏な日常を返して!!
とりあえず、これにて導入編終了。
本編主人公は、何かを感じ取ったようです。
さて、主人公が感じた不安は何でしょう?