3話 騎士たるもの
久々に書けたので投稿。
今日もいつも通り、朝から訓練が始まった。
木剣を構え、師匠と向かい合う。
朝の空気は少し冷たく、振るたびに風を切る音が響いた。
「遅い」
「っ……!」
打ち込んだ剣は簡単に流され、そのまま額を軽く小突かれる。
痛い。
「考えながら振るな。迷いが乗る」
「簡単に言うなよ……」
額を押さえながら距離を取る。
いつも通りの訓練。
いつも通りの朝。
「こんにちはー! ゼクトさん!」
聞き慣れた明るい声が飛んできた。
村の入り口側から歩いてきたのは、この村に滞在している若い騎士だった。
爽やかな笑顔を浮かべた、いかにも“好青年”という感じの人だ。
彼は村周辺の警備や巡回を担当していて、定期的にここへ顔を出す。
師匠は木剣を肩に担ぎながらちらりと視線を向けた。
「暇そうだな」
「そうですね! まあ騎士の仕事は無いに越したことないですから!」
騎士さんはまったく気にした様子もなく笑う。
実際、その通りなのだろう。
騎士が忙しいということは、魔物が現れたり、何か厄介事が起きたりしているということだ。
今のフルール町は驚くほど平和で、最近は大きな事件もないらしい。
だからこそ、この人もこうして昼間からのんびりしていられる。
……まあ、師匠は会うたびに「暇人」だの「無職」だの言っているが。
「こんにちは騎士さん! 今日も仕事はなさそうだった?」
俺が声をかけると、騎士さんは大げさに胸を張った。
「おう坊主! 今日も俺は無職のお兄さんだ!」
「堂々と言うことじゃないだろ……」
思わず呆れると、騎士さんは豪快に笑う。
この人は、俺のことを変に怖がったりしない。
村の大人の中には、師匠と訓練している俺を見て距離を取る人もいるが、この人は最初から普通に接してくれた。
単純に肝が据わっているのか。
それとも、騎士として自信があるからなのか。
どちらにせよ、話しやすい人なのは確かだった。
その時だった。
「あっ!! 騎士様だ!!」
弾むような声と一緒に、ファムネスがこちらへ駆け寄ってくる。
「こんにちは! 今日もお勤めご苦労様です! 周囲に異常はありませんでしたか?」
すると騎士さんはぴしっと姿勢を正し、冗談っぽく敬礼した。
「はっ!! フルール町半径二キロメートル、異常なし! 本日も安全であります!」
「ふふっ、よかったです!」
ファムネスは嬉しそうに笑う。
その様子を見て、騎士さんは肩を落とした。
「ファムネスちゃんだけだよ〜。俺を無職だの暇人だの言わないのは〜……」
「それは日頃の行いじゃないか?」
「ゼクトさん辛辣!!」
「いや事実だろ」
師匠が即答する。
騎士さんは「うわーひどい!」と騒ぎながらも、どこか楽しそうだった。
平和な昼下がり。
木剣の音より、くだらない会話の方が長く続くような日。
◇◇◇
フルール町に滞在している三人の騎士は、王国でも屈指の実力者たちだった。
王都では定期的に騎士大会が開かれており、個人の技量を競う個人戦と、三人一組で連携を競うチーム戦が存在する。
フルール町に駐在するこの三人は、そのチーム戦で5年前に優勝を果たした騎士たちだ。
それ以降の大会でも常に優秀な成績を残している。
よほどの異常事態でも起きない限り、この町が簡単に落とされることはない――そう言われるほどには信頼されている。
それほどの戦力が配置されている理由は、フルール町の立地にあった。
この町は、グランセリア王国から西側諸国へ向かう重要な中継地点となっている。
特に、人類圏最西端に位置する「オクシド連邦」への支援において欠かせない場所だった。
オクシド連邦は魔物の領土と隣接する最前線国家であり、日夜魔物との戦いを続けている。
そのため各国から大量の支援物資が送られているのだが、他国を経由すれば検問や関税によって余計な時間と資金がかかってしまう。
しかし、フルール町を経由すれば他国を介さず直接オクシド連邦へ物資を届けることができる。
だからこそ、この町は王国にとって極めて重要な拠点となっていた。
もっとも、安全な土地というわけではない。
魔物の領土との距離は近く、オクシド連邦の戦線を抜けた魔物が流れ着くこともある。
ただ、地理的に端へ位置しているため、大規模な魔物の軍勢が押し寄せることは滅多にない。
――だからこそ王国は、この町へトップクラスの騎士チームを常駐させているのだった。
◇◇◇
私はランスロット。
どこにでもいる、茶髪をポニーテールにまとめた普通の女だ。
現在、グランセリア王国 王国騎士団・第5分隊の隊長を務めている。
第5分隊は特殊編成の分隊であり、このフルール町に駐在する三人のみで構成されている。
五年前の騎士大会チーム戦で圧勝した功績により、「三人で通常分隊に匹敵する戦力を持つ」と認められた結果だ。
この三人は幼馴染だ。
いや、腐れ縁と言った方が正しい。
昔から私の後ろをついて回っているだけの金魚の糞どもである。
本当に厄介極まりない。
まさか私が騎士になると言い出した途端、本当に騎士になり、同じ分隊にまで所属するとは思わなかった。
特に厄介なのが、あの童顔野郎だ。
やつは顔だけは無駄に整っているうえ、愛想までいい。
そのせいで、いつも私の方が年上に見られてしまうのだ。
私の方が一つ年下だというのに。
以前、町のおばあさんに「親子みたいだねぇ」などと言われた際には、本当に――
……いや。
民を守る騎士である私だからこそ我慢したが、もしそうでなかったらどうなっていたことか。
……ふん。命拾いしたな。
そしてもう一人は、とにかく図体だけがでかいやつだ。
だがその体格に反して、度胸は小動物以下。
あれはもう小心者そのものだ。
この前など、転んで泣いている子供を慰めることすらできず、隣で二時間ほど一緒に固まっていたこともある。
本当に手のかかる二人だ。
だから今日も、朝から鍛え上げてやっている。
私たちがフルール町へ配属されてから、早五年。
町は平和そのものだった。
魔物が現れることはあっても、被害が出る前にすべて対処できている。
日々の訓練の成果と言っていいだろう。
もちろん、油断はしていない。
大規模な魔物の群れ。
強力な魔族。
最悪の事態を想定した作戦も、いくつも用意している。
万が一など、来ない方がいい。
……だが。
私は二度と、失いたくなかった。
◆◆◆
十二年前。
私が六歳だった頃。
私の住んでいた村は、どこにでもある平和な村だった。
だが、その日すべてが崩れた。
魔物の群れが、村を襲撃したのだ。
通常、魔物の群れ程度であれば、村に駐在する騎士一人でも十分追い払うことができる。
魔物の群れとは、五体以上の同種族の魔物が集団行動を取っている状態を指す。
だが、その日に現れた群れは異常だった。
十二匹。
歴史的に見ても、異例と呼べる規模だった。
群れを形成する魔物は、獲物を分け合う関係上、通常は五〜七匹程度で構成されると言われている。
私の村には、一人の騎士が駐在していた。
その騎士は、たった一人で十二匹すべてを撃退した。
この偉業を成し遂げた騎士は、歴史上ただ一人だった。
国はその功績を称え、勲章を贈った。
だが、その授与式に騎士の姿はなかった。
勲章など必要ない。
そんなものに、何の意味もなかった。
私の父は、その戦いで唯一命を落としたのだから。
そう。
その騎士こそ、私の父だった。
父は「家族を守る」と言って、一人で魔物の群れへ突っ込んでいった。
私にとって騎士は憧れだった。
父はいつも、騎士という仕事を誇っていた。
だから私も自然と興味を持った。
「騎士になりたい。」
そう言っていた。
けれど、本当は違った。
私はただ、父と同じ場所にいたかっただけなのだ。
父は最後まで騎士だった。
そして最後まで、父だった。
致命傷を負いながらも、笑顔で私の隠れていた場所まで来て、「大丈夫だ」と言ってくれた。
最後まで私を安心させようとしていた。
そして安全な場所へ逃げるよう言い聞かせ――
それを見届けた後、父は息を引き取った。
誇らしい父だった。
誰よりも立派な騎士だった。
きっと私は幸せ者なのだろう。
……だが、私は喜べなかった。
私はただ、父と一緒にいたかった。
それだけだったのだ。
約束と呼べるほど立派なものではない。
それでも私は、父に何度も言っていた言葉を叶えようと思った。
「私も騎士になる」と。
◇◇◇
それから私は、騎士になるために訓練を始めた。
私が騎士になると言った日、幼馴染の二人は笑いながら言った。
「めっちゃいいじゃん! ランスロットって感じする!」
その頃の二人は、本来なら冒険者を目指していたはずだった。
だが、それ以降は毎日のように私の訓練へ付き合うようになった。
気を遣っていたのかもしれない。
それでも私は、その優しさに甘えていた。
ずっと隣にいてくれる二人の存在が、どうしようもなく心地よかったからだ。
だから私は、たくさんの困難を乗り越えられた。
厳しい騎士の試験も突破できた。
私は昔から、照れ隠しばかりしていた。
素直になれず、強く当たって、乱暴な言葉ばかり吐いていた。
それなのに二人は、まるで自分のことのように喜んでくれたのだ。
――そして私は、願ってしまった。
一緒に騎士になりたい、と。
思わず零れ落ちたその言葉に、二人は一瞬だけ驚いた顔をした。
だが。
「いいね!それ」
そう言って、笑いながらついてきてくれた。
翌年、二人も騎士となった。
この三人なら、何だってできる。
本気でそう思っている。
三人で挑んだ騎士大会チーム戦では、見事優勝を果たした。
この二人は、私にとって家族だ。
だから私は、何があっても守りたい。
私は幸せだった。
騎士になった理由は、空いた心の穴を埋めるためだったはずなのに。
気づけば騎士という生き方そのものが、私にたくさんのものを与えてくれていた。
昔は嫌いだった。
父を奪った“騎士の誇り”なんて、理解できるはずがないと思っていた。
けれど今なら分かる。
父は、本当に守りたいもののために戦っていたのだと。
命を懸けるほど大切なものが、そこにあったのだと。
「父さん――」
私は小さく空を見上げる。
「私にも、守りたいものができたよ……」
◆◆◆
見てくれた方ありがとうございます。
今回は新たなキャラが3人も登場したね。
次回は程よくストーリー進めるので良かったら見てください!
次回はなるべく早めに投稿する予定。




