1話 日常
ギリ2日連続更新できた!
良きかな。
今日は説明多めだけど良かったら見てってね。
「……きて……おーきーてってばー!」
まるで朝の光をそのまま音にしたような、澄み渡った元気な声が耳元で響く。
眠気に沈んでいた意識を、その声が無理やり現実へと引き戻していった。
「んぅ……」
ぼやけた視界のまま身じろぎすると、身体に柔らかな重みが乗っていることに気づく。
「重いよ~、ファムネス」
俺の上に乗りかかっていたのは、幼馴染のファムネスだった。
なぜか俺の日課に毎回ついてくる、少し不思議なやつだ。
触れれば汚してしまいそうなほど綺麗な白金の髪を揺らしながら、白さとは対照的な深紅の瞳でこちらを覗き込んでいる。
「だってーシリエスが起きてくれないからでしょ?」
不満げに頬を膨らませる。
可愛いやつめ。
ちなみに、シリエスというのが俺の名前だ。
そして俺の方が年上である。
たった二カ月だけど。
俺が年度末、ファムネスが年度初め生まれ。
その二カ月差を俺は一生擦り続けている。
現在六歳。ファムネスは五歳。
つまり俺の方がちゃんと年上だ。間違いない。
「ゼクト師匠が呼んでるよ?今日も稽古するんでしょ?」
ゼクト師匠は、俺を育ててくれた人だ。
血は繋がっていない。
昔、俺の住んでいた村が魔物の群れに襲われた時、生き残った俺を拾ってくれたのが師匠だった。
小さな村だった。
騎士も駐屯していなくて、群れを成した魔物に抗える力なんてなかった。
両親も、その時に死んだらしい。
……らしい、というのは、俺が幼すぎて何も覚えていないからだ。
顔も、声も、思い出せない。
だから俺にとってゼクト師匠は、親同然だ。
だから俺にとってゼクト師匠は、親みたいなものだった。
元冒険者だったらしく、今はフルール町で隠居生活を送っている。
もっとも、隠居と言っても毎朝の稽古だけはやたら厳しいのだけれど。
ファムネスは、その稽古にもよくついてくる。
なんなら戦闘のセンスは俺より上だ。
……本当に納得いかない。
フルール町は、グランセリア王国の地方町の一つだ。
王都ほどではないにせよかなり栄えていて、近隣では大きな町として知られている。
騎士が三人も駐屯しているおかげで、安全性も高い。
騎士というのは、この国の特別な試験を突破し、力を認められた者だけがなれる存在だ。
一人で魔物の群れと渡り合い、人々を守る力を持つ。
だからこそ、騎士が三人もいるこの町は、辺境としてはかなり平和な場所だった。
顔を洗って眠気を払った俺は、家の裏の空き地へ向かう。
そこではすでに、ゼクト師匠が腕を組んで待っていた。
「「よろしくお願いします!」」
俺とファムネスが声を揃えて頭を下げる。
今日の稽古は剣術だった。
ゼクト師匠は、冒険者時代に様々な武器を使い分けて戦っていたらしい。
剣、槍、斧、弓――相手や状況に応じて最適な武器を選ぶ戦い方だ。
「その場で一番安全に勝てる方法を選べ」
——というのが師匠の口癖だ。
師匠は慎重すぎる。
石橋を叩いて壊してから、別の橋を探し始めるタイプだ。
そのせいで、基礎訓練はやたら厳しい。
構え、素振り、足運び。
毎日同じことを繰り返させられる。
酷い時には、一日中基礎訓練だけで終わることもあった。
もっとも、そのおかげで剣だけでなく色々な武器の扱いを少しずつ覚えられているのだけれど。
稽古では、ファムネスとの模擬戦をやることも多い。
対人戦での動きや、単純な行動を取る魔物への対処を、師匠は何度も叩き込んでくる。
正直、六歳児にやらせる内容じゃないと思う。
だが、この世界では強さがなければ生き残れない。
少なくとも師匠は、そう考えている。
俺たちの住む世界には、一つの巨大な大陸が存在している。
その南側に位置するのが、俺たちの暮らすグランセリア王国。
広い領土を持つ大国で、他にも六つの国が存在している。
今のところ国家同士の大きな戦争は起きていない。
理由は単純で、西側の広大な土地を魔物たちが支配しているからだ。
魔物には様々な種類がいる。
知性の低い魔物でも、一般の大人くらいの力は持っているし、元が狼や熊のような獰猛な生き物なら被害はさらに大きくなる。
だが、グランセリア王国の騎士たちは強い。
狼や熊の魔物程度なら、一人で討伐できるほどの実力を持っている。
だからこそ、この町は安全なのだ。
……もっとも、本当に恐ろしいのは、そういう魔物たちだけではない。
知性を持ち、人の言葉を理解し、集団を率いる人型の魔物。
通称――魔族。
西側の領土を支配しているのは、彼らだ。
そして、その頂点に立つ存在を人々は「魔王」と呼ぶ。
魔王は古くから、人類に災いをもたらす存在として討伐され続けてきた。
だが、魔王を倒しても魔族や魔物が消えることはなかった。
気づけば、西側一帯は完全に魔族の領土となっていた。
魔王は古くから、人類に災いをもたらす存在として討伐され続けてきた。
だが、魔王を倒したところで、魔族や魔物が消えることはない。
人類と魔族の争いは終わらず、気づけば西側一帯は完全に魔族の領土となっていた。
そして、魔王が討たれれば、やがて新たな魔王が現れる。
現代の魔王は、歴史上七代目。
しかも今代の魔王は、二百年もの間、誰にも討伐されていない。
過去の魔王は長くても数十年で討たれてきたという話だから、今代の魔王は別格なのだろう。
もっとも、人類側も黙ってやられているわけではない。
七つの国は協力し合い、定期的に冒険者や騎士たちを魔族領へ派遣している。
そのおかげで、辛うじて均衡が保たれている状態だった。
そんな話を聞いて育った俺が、冒険者に憧れないわけがない。
いつか魔王を倒す。
そんな子供らしい夢を抱きながら、俺は毎日剣を振っていた。
「シリエスッ! 気が散っているぞ!」
「へ?」
考え事をしていた次の瞬間、とんでもない勢いで木剣が飛んできた。
反射的に目を閉じる。
だが直撃の寸前、師匠は木剣をくるりと持ち替え、刃ではなく平らな部分を俺の後頭部へ叩き込んだ。
「ッッッ!! 痛っ!!」
ゼクト師匠。
さっきは親代わりとか思っていたけど訂正する。
やつは魔族かもしれない。いや間違いない魔族だ。
「あははは! シリエスまた怒られてる!」
ファムネスは腹を抱えて笑っている。
くそ。
絶対あとで仕返ししてやる。
……そんなふうに、今日も平和な一日が過ぎていった。
◇◇◇
ここまで読んでくれてありがとうございます!
次回もいったん日常パートかな。
まあ、どうするかは考え中~。
良ければまた見てくださいね!




