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【絶望から始まる英雄譚】呪われた右腕が輝く時、世界は彼を『王』と呼ぶ 〜半魔の少年、人間と魔族を繋ぐ英雄譚~  作者: 御影 零
第二章 継がれし希望

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第54話 シオンの誓い、王の御心


「……そして、ちょうど一年が過ぎたころ、とうとうあの日を迎えました」


 シオンの銀色の瞳が、焚き火の揺らぎを撥ねのけるように夜の闇へと沈んだ。

 それに応じるかのように、語られる声の温度が一段と冷えていく。


「当時の騎士団には、もはや歯止めが利かぬほどの怒りが渦巻いていました。開戦からわずか一年。国境沿いの要塞は瓦解し、村々や街は蹂躙され、魔族の進軍はとどまることを知りませんでした。それなのに……聖教会は救軍を出すどころか、魔法の才を持つ者を『王都のため』という大義名分のもと、王都へ囲い込み続けていたのです」


 シオンは焚き火の爆ぜる火花を、くらい憎しみを宿した眼差しで見つめた。


「前線で仲間が、民が、なぶり殺しにされているというのに、聖教会にとっては『王都の守護』を名目に、魔導師を安全な壁の内側へ囲い込むことの方が重要だった。……戦場で血を流す騎士たちにとって、それはもはや裏切りに等しい暴挙でした。騎士団の不満は爆発寸前まで膨れ上がり、いつ内乱が起きてもおかしくない。そんな一触即発の空気が王都を支配していたのです」


 師匠が、低く、唸るような声を漏らした。  

 膝の上で、守り刀を握る拳が白く強張っている。


「……ライアンは、その嵐の真ん中にいたのだな。騎士たちの怒りと、独裁を強める聖教会。その間に立って、あいつは……」


「はい。父は、ガルド団長の後任として騎士団をまとめ、彼らの暴走を必死に抑え続けていました。ですが……その心は、他の団員と同じように激しい怒りに震えていたのです。そして、とうとう決断の時が来ました」


 シオンは師匠を見つめ、残酷な時系列を突きつけた。


「あなたがアレン様を連れて王都を脱出してから、ちょうど一年後のことです。……ライアン様率いる騎士団は、蹂躙される国境沿いの街を救うべく、王都を出撃しました。聖教会はそれを止めるどころか、厄介払いができるとばかりに彼らを送り出したのです。……魔法による援護も、癒し手も、一人として付けることなく」


「……何だと?」


 師匠の声が、低く地鳴りのように響いた。

 膝の上で固く握られた拳が、微かに震えている。


「教会は『王都の守護に魔導師は不可欠。一兵たりとも割く余裕はない』とのたまい、騎士団への協力を一切拒みました。……事実上の、死刑宣告です。ですがライアン様たちは、その理不尽を飲み込み、笑って受け入れました。このまま王都で腐っていくよりも、見捨てられる民のために剣を振るうこと。それが、彼らに残された最後にして唯一の――『騎士の誇り』だったからです」


「馬鹿な……! 聖教会の『癒し』と『援護魔法』なしで魔族と戦うなど……。そんなものは戦ですらない。ただの、自殺志願ではないか……! ライアン、貴様……何を考えていたのだ……!」


 師匠の叫びは、戦いを知る者ゆえの悲鳴だった。


 魔族という人知を超えた脅威に対し、肉体一つで挑むことがどれほど無謀か。

 かつて「最強」と謳われた彼には、その先に待つ地獄の光景がありありと見えてしまっていた。


「ええ。ライアン様も、団員たちも、それが生還を期さぬ戦いであることは百も承知でした。ですが……彼らは見殺しにできなかった。王都の壁の内側で、民が食い殺される悲鳴を聞き続けることに、彼らの誇りが耐えられなかったのです」


 シオンの瞳に、あの日見送った騎士たちの後ろ姿が過る。

 二度と戻らぬことを悟りながら、それでも前だけを向いていた背中。


「彼らは、教会に捨てられた民の盾になる道を選びました。……そして、誰一人として王都へ帰ることはありませんでした。公式記録にはただ一行、『行方不明』とだけ記され、彼らの勇姿も、その最期の場所も、教会の情報統制によって闇に葬られたのです。……まるで、最初から存在しなかったかのように」


 焚き火が大きく爆ぜた。  


 それは、十五年前に散っていった名もなき騎士たちの怒号のようでもあった。


「……あいつららしい、と言えば……あいつららしいな。全く……どこまでも不器用な連中だ」


 師匠は顔を覆い、絞り出すような声で笑った。  

 指の間から漏れる笑い声は、嗚咽に限りなく近い。


 もし自分がその場にいたら、自分もまた、彼らと共に地獄へ向かっただろう。  

 だが、自分には『アレン様を守る』という、死ぬことさえ許されない使命があった。

 仲間たちが誇りを抱いて散っていく中、自分だけがこうして、のうのうと生き残ってしまった。


 かつて得た栄光の称号は、今や己を苛む鋭い刃と化し、その心をえぐり続けていた。


「出陣の朝、銀木犀の家へ現れた父は、私たちを壊れ物を扱うように抱きしめて言いました。

『お前たちを見捨てることになってしまって、すまない。……俺がいなくなれば、聖教会の奴らはすぐにここにくるだろう。だが、耐えるんだ。十五年……。十五年の間、死に物狂いで牙を隠し、時を待て。いつかガルド団長が連れて帰る『希望』が、自らの足で立ち、己の意志を宿すその日まで』」


 シオンの声が、あの日ライアンが残した熱量を帯びていく。


「それは我ら三人が等しく受け取った、父との最後の約束でした。……ですが、『すべて』を託されていた私には、父の言葉の真意が痛いほど分かりました」


 シオンは僕を見つめ、静かに、重い言葉を繋いだ。


「父は確信していたのです。ガルド団長なら、アレン様が自らの道を選べる齢――十六歳を迎えられるまでは、決してあなたを日の下に晒しはしないだろう、と。

『勝負は、あの方が十六歳になった時だ。……あとのことは、頼んだぞ、シオン』。

 ……それが、私たちが聞いた父の最後の言葉でした」


 シオンは焚き火の爆ぜる音に、あの日の軍靴の音を重ねるように目を閉じた。


「正門まで見送りに行ったあの日。出陣する騎士の方々の顔は、驚くほど誇りに満ち溢れていました。彼らは門を潜り抜ける際、一人、また一人と……見送る私の頭に、静かに手を置いていきました。……その温もりは、言葉にならずとも、まるで『ガルド団長を、よろしく頼んだぞ』と、そう言っているようで……」


 その言葉に、師匠の肩が大きく震えた。


 かつての部下たちは、姿を消した団長を恨むどころか、その背負った重すぎる『希望アレン』の行く末を、シオンたちに託し、笑って死地へ向かったのだ。


 パチッ、と焚き火が爆ぜる。


 師匠は何も言わなかった。いや、もはや言葉を紡ぐ余裕などなかったのだろう。

 顔を覆う指の隙間から、堪えきれない嗚咽が漏れた。


 十五年という永い時を経て、ようやく届いた戦友たちの「許し」と「信頼」。

 かつて最強と呼ばれた男は、今、一人の人間として、そのあまりに重く温かい想いに身を震わせていた。


 シオンは静かに立ち上がり、迷いのない足取りで僕の前まで歩み寄ると、その場に深く跪いた。

 肩にいたシルヴァリウスも、主の意志に呼応するように翼を窄め、神聖な儀式に臨むかのように静かに首を垂れる。


「アレン様。父ライアン・ハルフォードが、孤独な戦いの中でさえ決して曇らせることを許さなかった『銀翼』の輝きは、今ここにあります」


 シオンは顔を上げ、射貫くような、けれど慈しみを含んだ瞳で僕を見つめた。


「あなたが、ディオス様やエレナ様、そしてライアン様が夢見た平和を、再びこの国に取り戻すと決意されるなら……。私は、そして私の命に従う全ての竜騎士は、あなたの盾となり、矛となりましょう。……あなたの御心は、どこにありますか?」


 突きつけられたのは、あまりに重い問いだった。  


 ただ守られるだけの子供でいるか。

 それとも、これほどまでに重く、尊い想いすべてを背負って、【王】としての道を歩み出すか。


 パチッ、と焚き火が爆ぜた。


 その乾いた音は、今の僕には、遠い戦場から届いた騎士たちの呼び声のように聞こえた。


 忌み嫌われ、隠し続けてきた僕の右腕が――。

 彼らの魂を宿したかのように、かつてない熱を帯びて、激しく疼いていた。



 ————――――――――――――――————―――――――――――――――


 ☆世界観の補足:軍事体制の規模感☆


 ■一般兵(正規軍):数万規模

 王都の門番、物資運搬などの『土台』。魔法適性のない平民が大半で、日々の治安維持を担う。


 ■王都騎士団(精鋭):約1,200名(16年前当時)

 ・正騎士:500名(戦闘の核となる練達の士)

 ・従騎士:700名(見習いや補佐、若手騎士)


 ■国境へ向かった400名の騎士

 騎士団の約3分の1。その多くは、ガルドと共に戦場を駆け抜けた「古参のベテラン」たち。

 教会にとってこの出撃は、ライアンを含む「不都合な古参」を一掃する『毒抜き』の好機でもあった。




とうとうストックが切れました。

書き終わっている話はここまでになります。

遅くとも一週間に一話は上げたいと思っていますが、ブックマークや評価、感想なんか頂けたらテンション爆上がりで、執筆スピードも爆上がりします( *´艸`)

応援よろしくお願いします(*´ω`*)

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