表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【絶望から始まる英雄譚】呪われた右腕が輝く時、世界は彼を『王』と呼ぶ 〜半魔の少年、人間と魔族を繋ぐ英雄譚~  作者: 御影 零
第一章 呪われた右腕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/54

第16話 切り札の代償と、鋭い赤の視線

 

 突き出された水晶が、淡い青光を放ちながら僕の瞳を射抜く。


 師匠の顔色が、目に見えてサッと変わった。


(嘘だろ……!?)


 背中を一気に冷たい汗が流れ落ちていく。  


 聞いてない。こんな検査があるなんて。

 僕が「普通の人間」じゃないことは、疼くこの右腕が証明している。

 もしこの水晶が、僕の中に眠る『魔族』の反応を示してしまったら――その瞬間に、僕はここで「人類の敵」として処刑される。


「どうした? やましい事がないなら触れるはずだろ」


 僕が金縛りにあったように動けずにいると、兵士が怪しむように目を細め、腰の剣に手をかけた。


「おい、お前。そのフードをとれ。顔を見せろ」


「あ、いえ……その……」


「聞こえんのか。取れと言っているんだ」


 兵士が一歩踏み出し、水晶を持ったまま僕のフードに手を伸ばしてくる。  


 逃げ場はない。  

 隣でミレイユさんが何かを言いかけ、身構える気配がした。

 けれど、それよりも早く、兵士の無機質な指先が僕のフードへと迫る。


(――終わった)


 最悪の結末を覚悟し、僕が絶望してギュッと目を閉じた、その時だった。


「ええい、無礼者めがッ!!」


 鼓膜を震わせるほどの怒声。

 それと同時に、僕の視界を塞ごうとしていた兵士の腕が、力強い一撃によってバシィッ! と弾き飛ばされた。


「ああん!? なにしやがる爺さん! 衛兵に逆らって、タダで済むと思ってんのか!」


 怒鳴り散らす兵士。

 しかし、師匠は一歩も引かなかった。

 それどころか、相手を射殺さんばかりの鋭い眼光で、逆に兵士を気圧してみせる。


「やかましい、たわけ者が!」


 師匠は懐から、色褪せた紐のついた古びた黒鉄の認識票タグを取り出した。

 それを兵士の鼻先に、叩きつけるように突きつける。


「控えよ! わしはかつて王都の西門守備隊で分隊長を務めておった、ガルド・アイゼンじゃ! ……同業者なら、このタグが何を意味するか分からぬわけではあるまい?」


「っ!? 王都守備隊の……分隊長……!?」


 兵士の顔色が、見る間に土気色へと変わった。

 彼は突き出された認識票タグを、食い入るように凝視する。


 それは長年の戦いと年月で至る所が擦り切れていたが、その中央には確かに、王都正規兵のみに与えられる「偽造不能な獅子の刻印」が深く刻まれていた。


「この坊主は、わしの身内だ。……この老いぼれの身元保証では、不服か?」


「い、いえ……! 王都の守備隊におられた大先輩の言葉とあれば……! 非礼の数々、大変失礼いたしました!」


 兵士は慌てて姿勢を正すと、直立不動の敬礼を送り、道を開けた。 


 心臓の音がうるさい。

 僕たちはなんとか、首の皮一枚で……最悪の関門を突破することに成功したのだ。






「はぁぁ……死ぬかと思った……」


 巨大な城門を通り抜け、大通りの喧騒から外れた人気のない路地に入ったところで、僕はその場にヘナヘナとしゃがみ込んだ。

 全身から力が抜け、膝の震えが止まらない。


「……随分と手荒な真似をしたねぇ、爺さん」


 背後から、ミレイユさんがニヤニヤしながら歩いてきた。


「さっきの『王都守備隊』ってのはハッタリかい? それともマジ?」


「あっ!?」


 そこでようやく、僕は顔を上げた。


「そ、そうだよ師匠! 王都の守備隊って言ったら、国の心臓部を守る人たちのことじゃないか! 師匠、そんなすごい所にいたの!?」


「……大昔の話じゃ。今はただの老いぼれよ」


 師匠は自嘲気味に鼻を鳴らすと、認識票タグを懐にしまいながら小さく溜め息をついた。


 その横顔には、誇りよりもむしろ、過去を引っ張り出さざるを得なかった苦々しさが滲んでいる。


「……本当は、使うつもりはなかったんじゃがな」


 その言葉に、ミレイユさんが口元を歪めた。


「へぇ。……大事な『切り札』を使ってまで、あの検査を避けたかったってわけかい?」


「ッ……」


 僕の心臓が、今日何度目かの上限を超えて跳ね上がった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ