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ブラッドカーストファンタジア  作者: 十三番目
第四章 記憶の真髄

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第九十一滴 会議


 夏休みが終わり、日差しが幾分か和らいできた。

 登校したクラスメイトの顔ぶれは、休み前とほとんど変わっていない。旅先で一人だけ逃げ出した獲物はいたものの、行動を読んでいた百目鬼(どうめき)によって難なく捕えられていた。


 休みの間は獲物の補充ができないため、狩りも一度しか行われなかったらしい。ちょうど旅行中だった一組は狩りに参加していないため、他のクラスと異なり生徒の補充は行われないようだった。


「そういや、寮の催しなんにするか決まったん?」


「まだ決まってないよ。ただ、考えてることはあるかな」


「手伝いが必要な時は声かけてや。天璃(あめり)がおるだけで、えらいもんが見れそうな気するわ」


 にんまりと笑った霊藻(たまも)の隣で、兎々(とと)がコクコクと首を縦に振っている。買い被りすぎだと苦笑した天璃は、時計を見上げおもむろに席を立った。


「会議、今日やったんか」


「どうせ形だけだけどね〜」


 天璃に続き席を立った珠羅(しゅら)が、笑顔のまま皮肉を口にする。

 霊藻たちに見送られ、天璃と珠羅は会議室へと向かった。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 夏論(かろん)の雷によってボロボロになっていた室内は、綺麗に修繕されていた。

 太陽、月、星。寮の象徴が描かれた椅子には、それぞれの寮長が腰掛けている。


 珠羅の隣に座っていた天璃は、斜め前から突き刺さる視線を感じ、涼やかなアイスブルーを見返した。


「ねえ、ちょっと見すぎじゃない?」


「お前に関係ないだろ。減るもんでもないのに、心の狭いやつだな」


 鼻で笑う氷雨(ひさめ)に、珠羅もにっこりと笑みを返す。腕を組んだ夏論が、不愉快だと言わんばかりに眉を寄せた。


舞宵(まよい)さんはいないんだね」


「……(ゆずりは)には、今回から来なくていいって言ったからな」


 天璃には棘のない口調で話す氷雨に、夏論の視線が一瞬だけ向けられる。


「気に入ってるなら、あの子を飼い主したらいいのに」


「お前、吐き気がするほど性格悪いな。天璃もなんでこんなのをペットにしたんだよ」


「可愛いからかな」


「かわ……いや、いい。昔からそうだったな。天璃の基準は、いつもどこか変わってるんだ」


 懐かしむような、それでいて柔らかな響きだった。天璃を見つめ微笑む氷雨に、珠羅の瞳が暗さを増す。


「飼い主にするつもりはないのに、どうして一緒にいるの?」


「近くに置いといた方が、色々と都合が良いだろ」


 天璃の問いかけに、氷雨がなんてことないように答えた。舞宵自身も使いっ走りだと話していたのを考えるに、今後も契約を結ぶつもりはないのだろう。


「天璃のとこは、何をするか決まったのか?」


「いくつか候補はあったんだけど、今の時間でほとんど決まったかな」


「その顔……絶対まともなもんじゃないだろ」


 表情に出にくい天璃だが、氷雨には問題なく読み取れるようだ。呆れの滲んだ声には、どこか諦めも混じっている。


「氷雨さんのところは?」


「氷雨でいい。さん付けとか、違和感しかないからな」


 感情を押し込めるように、氷雨が片肘をつく。


「去年までは楪がやってたから、出し物とか言われてもパッとしないんだよな。ま、適当になんかやるさ」


「去年、か。珠羅ちゃんは、どんなことしたの?」


「んー? あっちの世界に興味があるって猛獣がいたから、その場にいた全員を招待しようとしたら、なぜか中止になっちゃったんだよね〜」


 あちらの世界とは、珠羅に狩られた獲物──(あずま)くくりが送られた場所のことだろう。

 正気を保つことさえ困難な世界。もし中止になっていなければ、とんでもない事態になっていたはずだ。


「フン。どいつもこいつも、軟弱なやつばかりだ」


 これだから弱者はと嘲りを浮かべた夏論は、どうやらあちらの世界に興味があるようだった。


司空(しくう)さんは、どんなのにするつもりなの?」


「準備はあいつに一任している。知りたければ、あいつにでも聞け」


「あいつって、獅子内(ししない)さんのことだよね」


 対抗戦で面白半分に脇腹を裂いてきた未来留(みくる)は、未だに天璃への執着を抱えているようだった。

 天璃としては、出来ることならあまり会いたくない相手でもある。


 室内に、授業の終わりを知らせる鐘の音が響いた。

 時間が来るやいなや颯爽と去っていった夏論を横目に、天璃たちも席を立つ。

 

「天璃」


 氷雨に呼び止められ、天璃はその場で足を止めた。


「なにか……思い出したりしたか?」


「まだなにも」


 苦しげな氷雨の姿を前にして、少しだけ胸が痛む。

 そうかと呟いた氷雨に背を向け、天璃は珠羅と共に会議室を後にした。




 ◆ ◆ ◆ ◇




 日が落ち始め、寮への帰路に影が伸びていく。

 いつものように腕を組み、珠羅と寄り添いながら歩いていた天璃は、随分と静かになった蝉の鳴き声に辺りを見回した。


「夜ご飯、このまま食堂で食べていく?」


「ううん。今日は、部屋で食べたいかな」


 言葉の裏に含まれた意図に気づき、珠羅がゆるりと目を細める。


 赤く染まった夕焼けが、まるで血のように鮮やかで。

 じわじわと湧き上がる食欲に蓋をするように、天璃は瞼をそっと閉じた。


 

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