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「壊すの?」レベッカが腰をかがめるエレノアに訊ねた。
「ここ、元々おかあさんのために一時期、貸してもらっていただけだから。」
エレノアはなでていた花をぷちんと採って、月光に花を照らしながらいとおしんでいた。レベッカは丁寧に周りの葉をちぎって、下に落としてゆく。一本の花を彼女のほうに向けた。レベッカは花を受け取って、指で弄びながら残念そうに言う。
「・・・もったいないなぁ。せっかくきれいな所にしたのに」
「まぁ、仕方ないよ。・・・それに、明日にはここからも離れちゃうんだ」
「そうなの?」
「うん、フローレリアにいるらしい、親戚のところに」
レベッカは曖昧にそれを聞いた。親交を深めようとした友人がいなくなってしまうと言う事に深く衝撃をうけた。ブランコに乗って揺られていたイリーナが聞いた。
「え、いなくなるの、エレノアさん?」
エレノアはイリーナのほうに顔を向けて答えた。
「うん。明日、陽が出る前ぐらいには。」
レベッカが言った。
「ずいぶんはやいね」
「急にきまったから・・・」
エレノアは父親とのやりとりを話した。
「そりゃひどいね」
レベッカは呆れた表情でそういった。
「いつも急なの。それでいて、長く続かないの」
もう少し集中力があれば、うまくいくのになと独り言を呟く父親を思い出しながら言った。ここにきたのも、前にいたところで仕事がいやになって逃げ出しきたのだ。
「昔は大きな貴族の家で庭師をやってたらしいんだけど、その家がつぶれてからはだめになっちゃったって、お母さんが言ってた」
「ふぅん。エレノアとは正反対だね。じっくりやって、立派な物を仕上げる」
しかしエレノアは首を振る。そしてまた繰り返した。
「これはお母さんのためにがんばって造ったものだから。自分のためには造れないよ」
エレノアは考えた。(工場でのしごとを必死にやったのも、薬になる野草を書物で探していたのも、綺麗な花を探したのも、みんな母のためだった。
だが母が死んでからその後は不思議と力が出なかった。
ぼろぼろの門を直す気が起こらなかったり、ハルトマンに怒鳴られた時、反論する気が起きなかったのも、その所為だと思っていた。
ここを出ると決められた時、実は内心ほっとしていた。
このままだと、なにもできなくなるのではないかと不安だったのだ。
別の場所に移ればきっと、また何かできるようになるだろう。)と。
「だから、ちょうどいいかなって」
「・・・もったいないなぁ」
またレベッカが呟く。イリーナが横から言った。
「それじゃあさ、私たちがこの庭をもらうよ。それでいいかな?」
レベッカがイリーナの名を言った。
「それなら、安心してそこにいけるでしょ」
エレノアはブランコを下りてそばに駆け寄っていたイリーナを見て
「いいの?」
と聞いた。イリーナは頷いた。エレノアはレベッカのほうも見た。
レベッカは手に持っていた花をいじりながら、
「・・・まぁ、いいけどさぁ」
と言って、イリーナの顔をじっと見つめていた。
イリーナは姉の表情を気にせず切り株につめて座った。。レベッカはため息をついて口をもごもごと動かして、それから言った。
「それじゃあさ・・・、お母さんのお墓に行ってもいいかな?一度挨拶したいからさ」
エレノアはすこし躊躇したあとに、いいよと答えた。
明日も投稿します。いい加減序幕を終わらせんとなぁ・・・