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店を開くのも家を借りるのも生半可にはいかなくて、全部美南さんに教えてもらいながら手続きをした。美南さんにとっちゃ俺たちなんてガキみたいなもんだから、放っておけなかったんだろう。
「あんたらは賢いね。うちの娘とは大違いだよ」
なんて、しみじみ言ってたくらいだし、やっぱり少し、寂しかったりするんだろうな。
まあ、そんなこんなで、無事に店舗を手に入れ、住処を破格の賃料で借りることができた。
事故物件と聞いて身構えちゃいたが、星空がいるからか、今のところそれらしい霊的現象は起こっていない。――それはそれは静かなもんだ。
占いの開業届も提出している。アウトな人が周りに住んじゃいるが、一応正規のお店なので安心してほしい。
これで、生活の基盤中の基盤は整えることができたわけだ。ここまでとんとん拍子に話が進むとは思わなかった。
澄み切った青空の下、今日も店先に看板を出す。散らばっているタバコの吸い殻やビールの空き缶なんかを袋に入れていった。
――まったく。治安の悪さってこういうところに出てくるよな。この時間はまだ人通りが少なくて静かなもんだけど。
店のとなりにある出入口から、ガタイのいい柄シャツの男たちが出てくる。掃除をする俺の目の前を横切った。
「おはようございまーす」
向こうも一応常識はあるのか、頭を下げてくる。怖い人たちと顔を合わせるのも、ずいぶんと慣れてきたもんだ。
実際、こういった人たちに変な嫌がらせや営業妨害を受けたことは一度もない。美南さんが後ろ盾になってくれているおかげだろう。
「今ごろ元気でやってんのかなぁ、二人とも」
ゴミ袋の口を締め、息をつく。
最初のほうは店に来ていろいろと相談していた美南さんも、客がちらほら来るようになると見かけなくなった。まるで、自分の役目はもう終わったと言わんばかりに。
「大丈夫だよ」
マンションの出入り口から、星空が出てきた。あくびをしながら歩いてくる。
重役出勤、ごくろうなこって。
「まがりなりにも極道の世界で長いあいだ生きてきた人だからね。僕たちに頼らなくてもそんな簡単には死なないさ」
「まあ、そうだよな」
今思えば、俺たちにいろいろしてくれてる美南さん。なんか、母ちゃんみたいだったな。俺に対してギャル娘みたいにぐいぐい来るわけでもなかったし……。
瞬間、これまでの記憶がぶわりとよみがえる。全身に鳥肌が立ち、膨れ上がる不快感で五臓六腑が押しつぶされそうだ。
――ああ、母親のこと思い出しちまった。
頭を抱えて舌を打つ。
――そういえば、俺と母さんの関係性は最悪だったけど、星空はどうだったんだろう。ってか星空を産んだ母親が存在すんのか?
普通なら、いくら特殊な能力を持つ息子だろうと野放しにはしない……よな?
「陽太のところと似たようなもんだよ」
「あ?」
顔を向けたそのときにはすでに、星空は戸を開けて店に入っていた。
ゴミ袋片手にあとを追う。続きを促すこともできたが、気がのらなかった。
星空は俺のことをなんでも知っているというのに、俺はこいつのことをなにも知らない。




