出逢い
ユリウス皇子初登場です!
初心者につき不慣れでなかなかうまく書けません。読みにくいかもしれないですが、大目に見ていただけると嬉しいです!
明日に迫る夜会の警護体制、シフトの変更などなど、会議は滞る事なく可及的速やかに終了した。トーリの力だけでは順調に進むなどあり得ないがフィオーネがいれば、皆一様に真剣に話を聞き真剣に対策を考え真剣に己が務めに向き合う。
ぶーぶー文句を言うトーリは放っておいて、皆武器の整備を始める。
近衛兵が所持する武器、ことにトーリを隊長とする王族警護専門部隊は、皆自分の使いやすい使い慣れたものを所持している。
近衛兵にもいくつか部隊があり、隊長はトーリだがその下に副隊長が何人かおり副隊長を軸に各部隊が編成されている。どちらも頭脳、戦闘能力のエリート達だ。
フィオーネはレイピアと呼ばれる細身の剣、トーリは拳銃だ。普通の拳銃よりも大きく威力もあるが扱いが難しく伝説と化している。最近では治安が維持されており戦など滅多に起きないことから、陽の目を見ない状態が続いている。
「フィオーネ隊長補佐の剣はいつも美しいですね。」
「そうですか?」
「あっ!隊長の持ってるやつってもしかして伝説の!?」
「うわっすげー!俺この部隊入ってから始めて見ました!」
トーリの愛銃を目当てにわらわらと部下が集まってくる。フィオーネはそそくさと関わらないように後ろに下がる。
「触らして下さい!」
「だめだ!」
「見して貸して触らして!!」
「だめだったらだめだ!!!」
全く騒がしい。
眉間に皺を寄せてレイピアを鞘に納刀する。常日頃整備を怠らないおかげで、状態は極めて良好。
「ふぅ、しばらく収まりそうにありませんわねぇ…。先に行ってましょう。」
会議が終わった後、トーリとフィオーネは各フロアを点検し警備に支障がないか確認する予定になっていた。もう日も暮れ始めている。さっさと終わらせてしまいたい。
フィオーネには今日の楽しみがあったのだ。それのために会議を早く終わらせたといっても過言ではない。
点検のためのファイルを片手に持ち部屋を出る。王族専属部隊には王宮内に執務室や会議室が設置されている。いつ何時緊急事態があっても直ぐに駆けつけられるようにだ。
さて、最初は夜会のメイン会場、大広間から確認しましょう。
大広間にはすでに夜会用の立食用テーブル、談話用のソファー、玉座、その他諸々準備が進められている。そのど真ん中を突っ切ってメイドなどに指示を出している執事に声をかける。
「準備は順調ですか?」
「フィオーネ隊長補佐様。はい、この上なく順調に進んでおります。城で開かれる夜会の中でも人数はかなりのものになると踏んでおります。ですので、普段よりもテーブルもソファも多めに配置させております。」
「そうですか、わかりました。何か不便があり次第、声をかけてください。対応させていただきますので。」
「心強いお言葉、感謝いたします。」
主にメインホールは近衛兵王族警護専門部隊、フィオーネ達が警備する。その他廊下や庭、車寄せなど各配置も確認しておく必要がある。
その前に、明日の食事と飲み物、足りているのかしら。
かなりの人数が集まると予想される以上、食事やワイン等の飲み物は用意する量も多くなければならない。フィオーネは点検項目大広間にチェックをつけながら、厨房へと足を運んだ。
厨房では本日の夕食の用意と並行して、明日の夜会用の下拵えも行われていた。
随分と忙しそうですね。さっと声をかけてお暇しましょう。
「準備は順調ですか?」
「これはフィオーネ隊長補佐様。はい、滞りなく進んでおります。先日かなり余分にワイン等も注文しておりますので、余裕があるかと。」
「そうですか。何か不便があり次第声をかけてください。」
「わかりました。ありがとうございます。」
厨房も問題はなさそうである。
各確認事項を点検して回っているとすっかり夜も更けてしまった。フィオーネの美しい銀髪が月の光に照らされてキラキラと輝いている。日の元よりも月の元にいるフィオーネはより美しい。
トーリは何処へ行ったのやら、これだけ時間をかけて(フィオーネ的には)確認していたというのにいっこうに現れる気配がなかった。
明日の朝覚えておけですわ。
近衛兵の宿舎に戻る途中、城内図書室に立ち寄る。城内にいるものでも極少数の人物しか入らないその場所に、もちろんフィオーネは入ることができる。探していた新刊が今日入荷すると司書から連絡が入ったのだ。
サングイネさんさまさまですねぇ。これは後で何かお礼の品を差し上げなくてはいけません。
もともとフィオーネとサングイネ・ターソンは学友だった。共に城で働くことを目標に(その目標はあまりにかけ離れていたが)勉学に励んできた。そして見事2人とも王城勤務となったわけだ。
王城図書室は基本的に国に関する資料や、他国に関する資料だらけなことが多いが、ここラムネス国においては多岐にわたる書物が取り揃えてある。資料だけでなく、娯楽的読む物語や図鑑、子供向けの本まで置いてある。一部を王都図書館に貸し出し、一般に公開もしている。
フィオーネはヘビーユーザーだ。もともと本を読むのが好きで、暇さえ見つけては読み漁っている程だが、最近はトーリが執務をこなさない事もあって暇など無かった。今も暇はないのだが、探し求めていた本があるのであれば時間など気にはしない。
「サングイネさん?」
図書室に着いて声をかける。いつもは直ぐに返ってくる返事が返ってこない。
この時間すでに図書室は消灯しており、人の気配はない。奥まで進みサングイネの定位置である司書机を見やると、何やら手紙が置いてある。
『ごめーん!急用を思い出したから、例の物はここに置いておくね!!袋の中身がそうです!久しぶりにフィオーネとゆっくり話したかったんだけど…。まったねーーー!!!』
「…ふふっ、サングイネさんは相変わらずね。」
司書など似合わない賑やかさが取り柄のサングイネが変わらない様子でフィオーネは少しだけ笑みをこぼす。手紙の隣に置いてあった袋を開けるとお目当ての物をとりだす。
明日は朝から忙しくなりそうですし…今日は読むのはやめておきましょう。
大人しく眠る。それがフィオーネの最善の選択だった。
宿舎に戻ろうと振り返ると、そこには見慣れぬ男性が立っていた。
「お前は誰だ?」
険しい顔をした鋭い眼で睨んでくる男性。身長はすらりと高く、ブルーがかった髪、整った容姿、高そうな服。暗がりでもはっきりとわかる整った出で立ちをしている。城内で見たことのない人物はほとんどいない。
こんな目立ちそうな方、私が忘れるわけがない。だとするとこの人が…?
黙り込んだままのフィオーネを再度警戒するように声がかかる。
「お前は誰だと言っている。場合によってはこの場で斬り捨てるぞ。」
随分と物騒なことをおっしゃいます。
「その必要はございません。正式に許可は出ております。」
一礼をしてから己の身分を告げる。
「お初にお目にかかります。近衛隊隊長補佐フィオーネ・イザナ・ティエリアスと申します。」
「隊長補佐?」
「はい。」
「…そうか。随分と若いな。お前、歳は。」
貴方とそう変わりませんわ。
内心悪態をつきつつ、聞かれたことに素直に答える。目の前にいるこの人こそ、ユリウス第一皇子だからだ。
「16でございます。」
「女…だよな?」
「はい、ユリウス第一皇子殿下。」
「っ、何故俺のことを知っている?」
何故?馬鹿げたことをお聞きになるのね。
「トーリ隊長より、ユリウス第一皇子殿下ご帰還のお話は伺っておりました。城内で私が顔を知らないのは貴方様だけですので。」
「…そうか。」
まるで興味が失せたようにユリウスは顔を背けた。興味が失せた、というより自分の用事を思い出した、という方が正しいかもしれない。
本棚を物色するように、しかし明確な目的のもとに動いている。そんな雰囲気をだしている。
フィオーネは無視して帰ってしまおうかと考えたが、第一皇子に背を向け尻を向け退室することは許されない。仕方なしと、ユリウスの探し物が終わるまで待つことにした。
すぐに終わるものと思っていたフィオーネは、心の中でユリウスを殴り倒していた。本棚の間をうろうろうろうろ。一向に終わらない。
「ユリウス殿下。」
「何だ。」
「何かお探しですか?」
「あぁ。ずっと新刊が出ていなかった本の新刊が出たと聞いてな。ここならあるかと思って来たんだが…。」
とてつもなく嫌な予感がします。この時期出た新刊なんて数冊しかありません。しかもずっと出ていなかった本の…とおっしゃいました。
はぁ、とため息をついてフィオーネは手に持っている本を差し出した。
「もしかして、こちらではありませんか?」
「…何でお前が持っている?」
「借りようと思いまして。どうぞお受け取りください。私は後日借りに来ます。」
一刻も早く帰りたいフィオーネはむりやりユリウスの手に本を持たせた。
驚くユリウスを尻目に言葉を紡ぐ。
「明日は夜会がございます。長旅でお疲れでしょう、よくお休みくださいませ。」
「あ、あぁ…。」
はぁ、まったく今日はうまく進みません。さっさと部屋に戻って寝てしまいましょう。
フィオーネの呟きは誰も居なくなった図書室に少しだけ響いていた。




