東雲慧の場合
東雲慧の場合 ――愛してるなんていえない。
双子なんて嘘だ。
絶対に桜子には知らせられない秘密。
血の繋がりも思い出も、全部嘘の上に積み上げた積み木細工。
家族で作り上げたデタラメだ。
俺と玲の関係を簡潔に言ってしまうなら、本体と偽者の関係。
元々、俺という存在は、玲の前に現れたただのドッペルゲンガーだった。
異世界との交流が進むこの世界。数多の文化が混ざり重なり合う世の中。それでも本体とドッペルゲンガーとの共存なんて嘘みたいな話を、一体どこの誰が信じてくれるだろう。
でも、俺はちゃんとここにいる。そして玲は生きている。
それは事実だ。
五歳の頃、俺は玲のドッペルゲンガーとして世界に現れた。生まれた……のとは、何かが違う気がしているから『現れた』とする。だけど何事もなく共存して、そろそろ十三年か。
そっくりなのでそのまま双子という事にした。
桜子は、それをそのまま信じている。
いろんな機関で調べたけれど、分析すればするほどわからなくなっていく。
――本当に玲の『双子の弟』だったら。
何度そう思っただろう。
本当に弟だったら、俺は玲に死をもたらす元凶にはならないのに。
このまま穏やかに日々が過ぎ去っていくだけなのに。
明日、俺は玲を『殺す』かもしれない。そう思いながらの生活は辛い。昼になると眠くなる体質なんてものも嘘だ。毎日あまり眠れないから、慢性的に睡眠不足なだけだ。
俺はいつ楽になれるんだろう。
そんな事を思いながら、今日もベランダで星を見る。
「慧にいさま」
後ろから声をかけられる。桜子だ。風呂上りで髪がまだぬれていて、それを乾いたバスタオルで丁寧にふき取っているところだった。たぶん、風呂に入れといわれるんだろう。
桜子は俺をみて、少し首をかしげて笑った。
「星を見てるの? 晴れてる?」
「いや……ちょっと雲が出てるな」
「そっか。今日はすぐお隣の世界に大流星群がくるんだって。こっちでも見えるらしいの」
残念だなぁ、と桜子は笑う。
「お願いしたかったのに。みんな幸せですごせますように、って」
「三回言えるのか?」
「言えるもん。たくさんくるなら、絶対一回は成功するよ」
唇を尖らせてぷいっと顔を背けてしまう。
つい怒らせてしまうのは、悪い癖だ。
怒った顔もかわいいとか言ったら、きっと余計怒らせてしまうんだろう。
それなら別にいいけど、玲を呼ばれたら煩いし面倒くさい。
この辺りでご機嫌をとっておいた方がよさそうだ。
「俺も幸せを祈ろうかな」
「え?」
「兄妹として、お前の幸せを祈るよ。……玲は、オマケに」
玲はわざわざ星に祈らずとも、勝手に幸せを掴みそうだしな。不幸が想像できない。
オマケじゃかわいそうだよ、と笑いながら桜子はドライヤーを手に去っていく。お風呂早く入ってね、といつものように言い残して。それを見送って、耐えていた胸の痛みに呻いた。
兄妹なんて嘘だ。手を伸ばせばすぐ届くところにいるのに、取り繕うために吐いた嘘のせいで身動きが取れなくなっている。いやな感じだ。抱きしめたいのにそれができない。
いっそ、兄妹じゃないといってみようか。
愛していると、囁いてみようか。
そんな勇気もないから、また眠れないんだ。