悪魔の計画③
真由の遺体は寝袋に詰めて、庭にテントと張り、そこに安置した。そして、夜中に周囲に知れないように、テントの中に穴を掘ると、真由の遺体を埋めた。
遺体を埋める作業は一晩で終わったが、手入れの良い庭で、芝が綺麗に張ってあったので、穴を掘った跡を隠す為に、芝を買って来て張り替えなければならなかった。
芝の張り替え作業が終わるまで、テントを張りっぱなしにするしかなかった。住宅街で庭にテントを張っておいた為、目立ってしまい、隣家の住人の記憶に残る結果となってしまった。
遺体の処理が一段落すると、真由の個人資産の横領を始めた。
進藤はその点、プロと言えた。夫婦間であっても年間、百十万円を超える金銭を贈与すると、贈与税がかかってしまう。進藤は真由名義の新規口座を開設し、資金を移動させ、真由が使っていると見せかけ、自由に金を使った。
進藤は巨万の富を手に入れた。だが、同時に、それは転落の始まりでもあった。
「感の良い増田君に、真由の資産を横領していることを気付かれてしまいました」と進藤が言う。
新規口座の開設や真由の旧講座の暗証番号の変更申請など、銀行内の手続きを部下の暁子に依頼したことが発端だった。
進藤が真由と結婚したことは知らされていたが、申請書類は全て見慣れた進藤の筆跡であったし、調べてみると真由の口座から頻繁に資金が移動されていた。新しく作った口座は勿論、小口に分けて進藤の口座へも資金が移動されていた。
確認を取ろうと、こっそり真由に電話をしてみると、電話に出なかった。進藤にそれとなく探りを入れて見ると、真由は旅行で不在だと言う。
――大金持ちの奥さんの留守を狙って、財産を横領しようとしているのではないか?
と暁子は疑った。
「仕事の後、増田さんからレストランに呼び出されました。そして、真由の留守を良いことに、資産を横領しているのではないかと問い詰められました。最初は、『そんなことはない』、『気のせいだ』と誤魔化しました」
鈴木に目撃されたのは、この時のことだろう。その後も何度か、暁子から呼び出しを受けた。
「小口に分けてありましたが、私名義への口座への振込だけで、一千万円以上に登っていることを突き止められてしまいました。『このことを直接、奥さんに確認して良いか?』と言われ、これ以上、嗅ぎ回られるのは危険だと思いました」
真由はともかく、上司や警察に垂れこまれたら一巻の終わりだ。だが、暁子の話は意外な方向へと進んだ。
――私をあなたの計画に加えて頂戴。
暁子は美しい顔を歪めて言った。真由の資産を横領する作業に一役買うので、分け前が欲しいと言うのだ。それだけでは無い。暁子は、微かにほほ笑みを浮かべながら、進藤の耳元に顔を寄せると、
「いっそのこそ、奥さんを殺してしまいましょう」と言った。
暁子は進藤に真由の殺害を説いた。真由が進藤の手に因り既に殺害されていることを知らないはずだったが、進藤は暁子が何か知っているのではと思わずにはいられなかった。
「丁度良い犯人役がいる」と暁子は言う。元彼が纏わりついていて、頭痛の種になっている。そこで彼に真由殺害の犯人になってもらえば、煩い鈴木を一掃出来て、一石二鳥だと暁子は言った。
進藤が真由を殺害する時刻に、暁子は鈴木のアリバイを無くしておくと言った。毛髪等の物的証拠を進藤に渡し、事前に真由殺害の凶器を渡してもらえば、凶器に鈴木の指紋を残しておくと約束した。
そして、真由の遺産を全て進藤が相続したら、
――私と結婚して頂戴。二人で一生、遊んで暮らしましょう。
と囁いた。
「正直、彼女の話は魅力的に聞こえました。ですが・・・」
進藤は既に真由を殺害してしまっており、今更、鈴木に犯人役を押し付けることは無理だった。真由の殺害を暁子に打ち明けて、二人で善後策を考えることも出来た。だが、それも止めておいた。
「僕は彼女が怖くなりました。彼女の言う通り、真由の財産を相続できても、いずれは彼女に全て奪われるのではないかと思ったのです」
よく考えてみると、暁子の計画を逆手に取れば、鬱陶しい恐喝者を葬り去ることが出来そうだった。
「計画を詰めたいので、ホテルで会いたい」
と暁子に言われた。そこで鈴木を引き合わせると言う。
「嫉妬深くて気の短い彼なら、私とあなたが一緒にいるところを見れば、きっとただでは済まないはず。大丈夫、心配しないで。直ぐにフロントに電話をして追い払ってもらうから。大事なのは、あなたと彼がトラブルになっていたと言うことを、誰かに証言してもらうことなの。ホテルの従業員なら申し分ない。嫉妬に狂った彼があなたの自宅に押し掛け、止めに入った奥さんを殺害してしまう。そういうシナリオよ」
進藤は暁子の提案に乗った振りをした。金券ショップで十枚、リバーシティ・ホテルの宿泊券を手に入れた。なるべく使用期限の短いものを選び、同じ日の同じ夜に銀行の同僚がホテルにいて、自分に対する嫌疑が薄れるように仕向けたかった。
十枚まとめて、「お得意先からもらったものなんだ。これを使ってくれ。残りは、適当に職場で配ってもらって構わない」と言って暁子に渡し、金曜日の夜にリバーシティ・ホテルで落ち合うことを約束した。
暁子は残りの宿泊券を職場で配った。進藤の目論見通り、暁子から宿泊券をもらった中村が同じ日に同じフロアに宿泊し、容疑の対象となった。
他にホテルに滞在した行員もいたが、何枚かは知人に配ってしまったようだ。
「後は増田さんを殺害し、その罪を元彼に着てもらうだけでした」
約束の時間より早めにホテルを訪れた進藤は、暁子の部屋に入ると、隙を見て暁子に襲い掛かった。
「あっと間の出来事でした。増田さんの元彼が何時、部屋を訪ねて来るのかと、それだけが心配でした。犯行後は、とにかく、後から部屋に来る彼の為に、部屋のドアを開けておくことだけを忘れないようにしました。思いの他、冷静でした」
進藤は淡々と供述を終えた。
長い沈黙の後で、「刑事さん」と進藤が再び口を開いた。
「真由を殺害して、大金を手に入れ、贅沢の限りを尽くしましたが、正直、楽しくはありませんでした。でもね、刑事さん。ひとつだけ、良いこともあったのです。それは、戸籍の上だけでも、真由と結婚できたことです。毎日、彼女と顔を合わせている内に、僕は本当に真由のことを好きになっていたのかもしれません。それで、彼女に拒絶された時に、猛烈に腹が立ってしまった。僕は彼女を愛していたのです」
進藤の供述が終わると、竹村は「ふん」と鼻を鳴らして、無言で席を立った。
取り調べを終え、吉田が言う。「しかし、増田曉子も悪いやつだったのですね」
「ふん。そうだな。悪いやつには朝なんて来なかったっていう訳だ」
「あららら~先輩も注意しないと。悪い顔してましたよ」
「心配ない。わたくし、心は純粋なのだ」
「はは」と吉田が大きな口を開けて笑った。
了
長編にはちょっと足りないアイデアを短編作品に詰め込んでいるのだが、本作はかなりひねった結末になっている――と思う。少々、無理、無理な展開な為、長編で使うのをあきらめたアイデアだった。




