それから3年後
ミランド伯爵とズルガト伯爵の同盟と争ってから、3年が過ぎた。色々とあったけれど、僕は今は……。
「ああ、なんて素晴らしい日だ。まさに前世では考えられない。忙しく動き回る日々よ、サヨナラ。スローライフよ、ヨロシクね!」
ジリジリと肌を焦がす太陽の光の中、『ムワッ』と香る土の匂い。そこに水を撒き、乾いた大地に染み込んでいく……命の息吹を感じる瞬間だ。
目の前のヘタを掴み、僕は丸々と太った、前世でいうところの『大根』を、ゴツゴツとした土から引き抜き、泥を払う。
(そう、スキル『育てる』で品種改良して、収穫高だけでなく大きさや味にまでこだわったんだよ)
「前世の妻に『枯れたオジサン』なんて言われて、この辺境の貧乏領地に生まれ変わった時はどうなるかと思ったけれど……」
(今の僕は絶対に『枯れてない』。そうだろう? 今の姿を元妻にも見せてやりたいよ)
フフフッ、味噌汁にしようか、そのままサラダにしようか、それとも大根おろしかな……。
「自分で『育てる』作物は愛おしいな…………と思っていた時期が、僕にもありました」
…………いや、巨大過ぎるだろう。大人でも抱えきれないぞ、これ。
味噌汁にすると何人分だろう? あっ、味噌が足りないかも……。
(そうなんだよね……発酵なんかにも手を出して、味噌や醤油の開発にも成功した。まあ、そこでも『育てる』を使ったんだけど……便利だよね)
僕はしゃがんだ姿勢を続けていたので……農作業で固まってしまった腰を伸ばす。
「う~ん……あはっ!」
気持ちいい~! 太陽に照らされ、その中で気楽に農作業。まさにスローライフだ。ビバ、異世界転生。
僕は太陽に向かって両拳を突き上げ、大きな伸びをする。
(あの戦争から特に争うこともなく、日常が過ぎていく。ミランド伯爵とズルガト伯爵からは賠償金をたんまりと取ったしね……やっぱり平和が一番だよね)
…………でもね、転生した時にスキル『育てる』をもらったけれど……やり過ぎたよね?
農作業を終えてダイコン畑を出ると、隣のとうもろこしやトマトなども出迎えてくれる。
まさに無農薬の有機野菜というヤツだね。
ここで作られた作物は、王都とかでも高値で取引されるまでに『育って』しまった。
ここは元々、辺境にある貧乏な領地だったんだよ?
それだけでなく、あっちに見える家畜も『育てる』。
植物だけでなく、様々なモノに使えたんだよ。
(人や鉱物資源とかにも使えたのは驚いたよ。何か植物にしか効かないとか勝手に思い込んでいたんだ。発酵させる時にも菌に『育てる』を使えるとはね……。そして、魔の森にいる魔物と動物を掛け合わせた品種改良で大人しい家畜にすることができた。そのフンを使って有機栽培を成功させたんだ)
◆◆◆◆
「いました! もう、どちらにいらしていたのですか? 今日は私と一緒に居てくれる約束じゃないですか……」
「ズルいです! 私とも約束しましたよ。みんなに優しくするのはダメです!」
「ちょっと、二人とも。僕は畑仕事で泥だらけだし、汗もかいているからね。キミたちのドレスが汚れてしまうし……」
「あらあら、お慕いしている殿方が働いて流した汗を嫌う女性などおりませんわ。見くびらないでくださいまし」
「そうです。とっても素敵です。むしろ私は、汗の匂いは……はうっ」
二人は……まあ、やはり『育てる』をしちゃいましたよ。どこをって? 聞くなよ。ふむふむ、しっかりと二人は『育った』ようだな。グフフ。
二人のしっかりと実る『メロン』と『スイカ』を感じる。どっちも僕は好きだぞ。実にけしからん。
(まさか3年でこのようなお胸様になるとは……年齢の割にだけどね。シエラもリーナもね。今は8歳だけどね。もう自己主張が凄いのなんの……)
そんな感じで両方から引っ張りだこになっていると──
一人の兵士が城から出てきて、僕の前まで来て敬礼をする。『ビシッ』と音がするのではと思うほどキマっていた。
(彼はバルドだ。あの新人兵士が、今は歩兵隊の隊長だし……この3年で魔法部隊のセリアと結婚したよ。セリアにも『育てる』でお胸様を……お礼を言ってほしいものだね……)
「ご歓談中失礼します! 若様、お父上様がお呼びでございます。至急、館の中央広場へいらしてください!」
用件を伝え、再度ビシッと敬礼した後に、彼は駆け足で引き返していく。
「ごめんね、二人とも。僕は行かなければならない。約束は次の機会にさせてくれ」
「……はい。残念ですがお邪魔はしたくありません。私達はご無事を祈っておりますので、お気をつけて」
「……はい、必ず私達の下にお帰りくださいませ!」
聞き分けの良い二人のおでこにキスをして、城へと走る。その後ろ姿を、二人は祈るように前で手を組み合わせて見送っていた。
(本当に二人とも可愛く育ったね……)
「すぐに中央広場へ行く、支度を頼む!」
「お任せください、若様。皆さん急ぎますよ!」
僕が自室に戻ると、メイドに指示してすぐに身支度をさせた。流石はプロだ、ほんの数分で僕を着替えさせて、髪の毛までセットする。そう、彼女たちも『育てる』の餌食だ。
(リーナの母親・ミーナは、今や筆頭メイドになっている)




