透明人間刑事 数寄屋橋透1
警視庁特捜部には、誰も使って無い机がある
新人の田中刑事が、その机に物を置こうとすると佐藤係長に注意される
「そこは数寄屋橋刑事の席だ!勝手に物を置くな!」
数寄屋橋刑事は出勤していた
数寄屋橋透は、警視庁特捜部公認で極秘の透明人間刑事である
「おい、新人!その机は数寄屋橋が使うんだぞ」
佐藤係長が田中刑事を制止するように言った
新人の田中は首を傾げる
「でも……誰もいないじゃないですか?」
その時、田中の背後から声がした
「おはようございます」
冷たい風のような気配と共に、空気が歪む
まるで窓ガラスの向こう側から話しかけられているような感じだ
「うわっ!」田中が飛び退いた
「落ち着け」佐藤が苦笑いする
「透は、『透明』になってるだけだよ」
「つまり?」
「見えてないってこと」
透明人間の声がした
「ほら、ここに触れてくれ」
田中が恐る恐る手を伸ばすと、確かに何か柔らかいものが触れた
だが目に見えるのは何も無い空間だけ……
佐藤係長
「気にするな!」
田中刑事
「もの凄く気になります」
数寄屋橋刑事
「三日で慣れるよ」
田中刑事
「……………」
〜パトロール
数寄屋橋透が銀座をパトロールしていると、男がハンドバッグを持って走って来る
男の背後から、「泥棒!」と叫びながら、若い女性が追いかけて来る
男が透の真横に来た時、透明な足払いを決める
倒れ込んだ男の手首とガードレールのパイプを手錠で繋ぐ
男は何が起きたのかも分からずに、茫然自失だ
ここからは手間が掛かるが、特捜部に電話して犯人確保に来て貰う
透明人間だとバレたら、パニックになる
暫くして、新人の田中刑事がやって来た
キョロキョロと、見えない透を探すので、ポンっと肩を叩いてやった
田中刑事は驚いて、「了解です」と言って犯人逮捕に至る
見えない勇者が守る透明な正義—それは人々の知らないところで日々繰り広げられているのであった
〜小料理屋
その日の夜、透の叔父の小料理屋「数寄屋」では、新人田中の歓迎会が開催された
透明人間の存在は国家機密あったので、奥に個室があるので重宝している
佐藤係長
「田中、初手柄おめでとう」
田中
「捕まえたのは、数寄屋橋さんですよ」
透
「すぐ来てくれて助かったよ!俺は確保は出来ても、連行する事は出来ないんだよ」
佐藤係長
「あくまでも、透明人間の存在を一般に知られてはならない!国家機密さ!」
「毎度!」
ここで、叔父さんが酒と食事を山程持って来る
「こんなに沢山!いつもすみません!」
叔父さん
「沢山食べて、日本の治安を守って下さい」
透がツマミを食べて喉に入った辺りで、ツマミが透明になっていく
一同拍手喝采!!
小一時間程で酔いが回った田中が透に尋ねる
「数寄屋橋さんは、どうして透明になったんですか?」
佐藤係長
「今はセンシティブな事柄は、充分な配慮が必要な時代だよ」
田中
「すいません!まずい事を聞いた様で…」
透
「いや、いいんだ!確かに犯人確保は、やり易いんだが…」
田中
「何か困る事でも?」
透
「人混みは歩けないんだ…」
田中
「どうして?」
透
「透明だと空いた空間に見えるから、通行人がぶつかって来るんだよ…それに自転車にも衝突されるんだ…自転車や車の運転も出来ないし、運転免許も取りに行けない!タクシーも利用出来ない!」
田中「夜中だったら、自転車は乗れるんじゃないですか?」
透
「今は防犯カメラが多いだろ!あとで、幽霊騒ぎになるんだ!」
田中
「そう言えば去年ネットで、幽霊自転車騒ぎが有りましたね」
透
「あれは俺だよ!夜中の事件の時には終電が過ぎていて、つい自転車に乗ってしまったんだよ」
田中
「そうだったんですか?」
透
「日中も問題があって、透明で乗り込める電車やバスの座席も、透明な膝の上に座られるから、立ちっぱなしなんだ!バスは狭くてバレないか神経使うから、あまり使いたくないんだ…それにスーパーやコンビニに買物に行けないし、レストランにも行けない!出来るのは自動販売機と宅配box…あとは叔父さんが小料理屋をやっているから助かっているよ」
佐藤係長
「それなんだがな!同期の若嶋津が小型ドローンを貸してくれると言うんだよ!なんでもミツバチ型ドローンで、数寄屋橋の周りに何機か飛ばしておけば、人はハチに近づかないから歩き易くなると言う話だ」
透
「試してみたいですね」
田中
「警察もハイテクなんですね」
佐藤係長
「はははっ」




