第20話 犬人族、ミルル
「「い、犬人族!?」」
「わふ?」
両手にスライムを持ち、口いっぱいにスライムを頬張る、犬耳と尻尾を生やした、可愛らしい獣人の女の子がしゃがみ込んでいた。
ハイル達の声に気がついたようで、可愛らしく小首を傾げながらハイル達の方を向いた。
「に、人間ワンっ!?」
ハイル達に気がついた犬人族と呼ばれる獣人の少女は、慌てふためき、立ち上がりながら素早く後退した。
そして、上半身を地面に下げ、歯をむき出しにして警戒をあらわにした。
「グルルル………!!!」
獣人の少女のその動きを見た三人は、同じことを思っていた。それは──。
(((動きに無駄がなかった……!?)))
立ち上がりながら素早く後退すると言う、洗練された動きに、三人は驚きを隠せなかった。
この動きは、簡単にできるものではなく、それなりの年数訓練を積まないと習得できないもの。
それを、獣人の少女はいとも容易くやってみせた。
(どうしましょう……ここまで警戒心を剥き出しにされてしまっては、話し合いは到底……)
(犬人族って確か、一度警戒した相手には死ぬまで食らいつく……んじゃなかったっけ……)
セシリア、クロハは目の前にいる犬人族について考えていた。
噂や憶測、それらを知っている為、どうすればいいのか分からずにいた。
そんな中、たった一人。ハイルだけは違った。
(なんだ、犬人族か。それなら全然怖くないな。それに、この少女がここまで警戒するのは当然だ)
ハイルは、獣人の少女の姿を見て予想を立てていた。
(おそらく、何日もここを彷徨っていたのだろう。着ている服もボロボロで、足も泥や埃で汚れている。それにスライムの食べ方を見て、ようやくありつけた食事だと言う事も理解できる)
そんな中で天敵である人間が目の前に現れれば、警戒心をあらわにするのは当然だろう、とハイルは思っていた。
だからだろう。落ち着いた心で、獣人の少女の方に歩き出せたのは。
「は、ハル君!?」「ハルさん!?」
獣人の少女の元に歩き出したハイルに、クロハとセシリアが声を揃えて名前を呼ぶ。
しかし、二人の声には反応せず、ハイルは獣人の少女に近づいていく。
「グルルルル……!」
「大丈夫ですよ。怖くないです。僕達は、あなたの敵ではありません」
優しく声をかけるハイル。
両手を軽く広げ、攻撃する意思はないと言うことを相手に示している。
「大丈夫です。だから、そんなに怖がらないで」
ハイルの優しい言葉。しかし、警戒心剥き出しの獣人の少女にはそんなのは通用せず──、
「ガブッ!!!」
「っ!」
「「ハル君!?」「ハルさん!?」
獣人の少女は、ハイルの右腕に噛みついてしまった。
突然噛みつかれたので、一瞬ハイルは顔を顰めたが、それもほんの一瞬の事で、攻撃をしようとする後ろのクロハ達に向かって──、
「僕は大丈夫です! なのでお二人はそこを動かないでください!」
と、言い放った。
「ハル君……」
ハイルにそう言われてしまった二人は、その言葉を無視する事もできず、その場に立ち止まる。
腕を噛まれながらも大丈夫と言うハイルを心配する二人は、不安そうにハイルを見つめていた。
「ウゥゥゥ……うぅ?」
「ね? 大丈夫でしょう? 僕達は、あなたに攻撃を加えたり、怖いことをする人間じゃありません。だから、安心してください」
「ウゥゥゥ……くぅ〜ん……」
獣人の少女は、ハイルの言っている事が本当であると思ったのか、ゆっくりとハイルの腕から口を離す。
すると、ハイルの腕には二個穴が開いており、そこから出血が。
そこまで量は多くはないが、少なくもない。
それを見た獣人の少女は、申し訳なさそうに鳴き、腕の血を舐め始めた。
「あはは。くすぐったいですよ〜。でも、ありがとうございます。このくらいの傷、どうってことないんで大丈夫ですよ。全然気にしないでください」
腕を舐める獣人の少女の頭を、ハイルは優しく撫で、獣人の少女の罪悪感を少しでも拭おうとした。
それが効いたのか、獣人の少女はゆっくりと腕から離れ、地面に正座をした。
「ご、ごめんなさい……私……私……」
「大丈夫ですよ。このくらい、なんともありません。それより、あなたは大丈夫ですか?」
「え……?」
「スライムを食べてしまうほど、逼迫していたんですよね……? 大丈夫ですか……? 何があったのか、どうしてここにいるのか、よければ教えてくれませんか?」
「うっ……」
獣人の少女は目元に涙を浮かべた。
ハイルの優しさが心に染みたのだろう。
そして、ハイルの優しい微笑みを見た瞬間──、
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「「「っ!?」」」
獣人の少女は大声で泣き出した。
☆ ♡ ☆
「落ち着きました?」
「は、はい……ごめんなさいワン……取り乱してしまって……」
「いえ。気にしないでください。今までずっと気を張っていたでしょうから、それが解けてよかったです」
ハイルは、右腕をクロハに治療されながら優しく言葉を返す。
出血してしまっているので、そこを布で拭い、その後包帯を巻く。
クロハの手際がいいのは、パーティーメンバーがよくやってくれていたからだった。
「君は、優しいワンね……自分の腕を噛んだ獣人に怒らないなんて……」
「怒る理由がどこにもありませんからね。一人で訳の分からないダンジョンを彷徨っていたら、誰だって極限状態になってしまう。そんなの当然ですから」
「ハルさんは、寛大なお心をお持ちなんですね」
「ハル君はすごいんだよ♪」
「なんでエルフが自慢げワン?」
まるで自分の事のように誇らしげに胸を張るクロハに、獣人の少女は小さくツッコミを入れた。
そのツッコミを聞き、クロハは獣人の少女を見る。
「あ、ご、ごめんなさいワン……!? ちょ、調子に乗ってしまって……!?」
「ううん! すごくいいツッコミだった!」
「わふ……?」
「私、よく人にツッコまれるんだけど、あなたのツッコミすごく好き! ねぇ! 私達仲良くなりましょう! ね!」
ハイルの治療を終えたクロハは、獣人の少女にどんどん詰め寄っていく。
それを、手を前に出すことでなんとか制止しようとする獣人の少女。
「ち、近いワン近いワン……!!! そんなに寄ってこなくても仲良くはできるワン〜〜!!!」
「クロハさん。その方が困っていますから、離れてください」
「あ、ご、ごめんね……」
「だ、大丈夫ワン……(いい香りだったワン……)」
状況がとりあえず落ち着いた所で──、
「それでは、まず自己紹介をしますね。僕はハルです」
「クロハだよ!」
「セシリアと申します」
各々が自己紹介を始めた。
丁寧に自己紹介をされたので、獣人の少女も姿勢を正し、自己紹介を行った。
「わ、私はミルルですワン。見ての通り、犬人族ワン」
獣人の少女──ミルル。
茶髪のボブヘアで、おでこが出ている。
とても可愛らしい顔で、幼さがあり、守ってあげたくなるような雰囲気を持っている。
しかし、その幼気な雰囲気の反面、体つきは大人っぽく、クロハよりは小さいがセシリアよりは大きい、二つの双丘を保持している。
先程から、ハイルはその部分を見ないようにするのに必死だった。
ちなみに、ミルルはOカップある。
お尻もそこそこの大きさがあり、犬らしくお座りや伏せなどをすると、どうしてもお尻が強調されるのでハイルは常に視線のやり場に困る事となる。
「ミルルさん。いいお名前ですね」
「あ、ありがとうワン……///」
「「ん……?」」
ハイルに名前を褒められた際のミルルの反応を見て、クロハとセシリアは顔を見合わせた。
このミルルの表情が、恋する乙女の表情だと気づいたからだ。
「それで、どうしてこのダンジョンにいたのか、聞いてもいいですか?」
「うん」
ハイルの尋ねに頷くミルル。
そしてミルルは、このダンジョンにやって来た理由を話し始めた。




