## 第8話「記憶統制局の影」
真田先輩との決闘から3日後。
俺の学園生活は一変していた。
「朝倉先輩!」
「記憶の依頼、お願いできますか?」
「サインください!」
廊下を歩くたびに、生徒たちが集まってくる。
学園最強を倒した(正確には違うが)ことで、一躍有名人になってしまった。
「人気者だな」
隣を歩く真田先輩が笑う。
最近、なぜか一緒に行動することが多い。
「正直、困ってます」
「贅沢な悩みだ」
そんな話をしていると——
「朝倉蒼」
冷たい声が響いた。
振り返ると、黒いスーツの集団が立っていた。
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【記憶統制局特務部隊】
隊長:氷室冴子 Lv.50
隊員×4:Lv.35~40
WARNING:政府直属の精鋭部隊
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「記憶統制局の者です」
リーダーの女性——氷室が証明書を見せる。
「少し、お話を伺いたい」
「何の話ですか?」
「先日、我が局の執行官が記憶を改竄された件について」
やはり、バレていたか。
「証拠でも?」
「証拠なら、あなたの中にある」
氷室が一歩前に出る。
「記憶を調べさせていただきます」
「断る」
真田先輩が前に出た。
「こいつは俺の友人だ。勝手なことは許さん」
「真田剛…学園最強でしたね」
氷室が冷たく微笑む。
「でも、我々に逆らうことの意味、わかっていますか?」
「脅しか?」
「事実です」
空気が張り詰める。
このままじゃ、戦闘になる。
「待ってください」
意外な声が響いた。
美咲だった。
「暴力はいけません」
「部外者は下がっていなさい」
氷室が美咲を一瞥する。
その瞬間——
氷室の顔色が変わった。
「あなたは…まさか…」
「?」
美咲は首を傾げている。
何も知らない風を装っているが。
「…今日のところは引き上げます」
氷室が踵を返す。
「但し、朝倉蒼。あなたへの監視は続きます」
そして、特務部隊は去っていった。
「なんだったんだ?」
真田先輩が首を捻る。
俺も同じ気持ちだった。
なぜ、氷室は美咲を見て引き下がったのか。
「神楽さん」
「なに?」
「君は一体——」
「あ、次の授業始まるよ」
美咲は笑顔で話を逸らした。
「また後でね」
そして、小走りに去っていく。
『あの子、只者じゃないわね』
Systemも同じことを感じているようだ。
### ◆◇◆
放課後。
俺は一人で病院に向かった。
葵の様子を見に行くためだ。
「兄ちゃん!」
病室に入ると、葵が笑顔で迎えてくれた。
でも、その笑顔がいつもより弱い気がする。
「調子はどう?」
「うん、大丈夫」
嘘だ。
顔色が悪い。
「先生は何て?」
「えっと…」
葵が言いよどむ。
嫌な予感がした。
「葵?」
「…症状が、少し進行してるって」
やはり。
「でも、大丈夫だよ。まだ時間はあるって言ってたから」
葵が無理に笑う。
胸が締め付けられる。
時間がない。
もっと早く、1000万メモを——
「兄ちゃん」
「ん?」
「無理、しないでね」
葵が俺の手を握る。
「最近、兄ちゃん疲れてるみたいだから」
「大丈夫だよ」
「本当?」
「ああ」
嘘つきは俺の方だ。
でも、葵に心配をかけるわけにはいかない。
「あのね」
葵が何かを取り出した。
小さな、手作りのお守り。
「これ、兄ちゃんにあげる」
「これは?」
「お守り。私が作ったの」
不器用な縫い目。
でも、愛情がこもっている。
「兄ちゃんが、いつも元気でいられるように」
「…ありがとう」
大切に受け取る。
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【アイテム取得】
『葵の手作りお守り』
効果:HP自然回復量+10%
精神攻撃耐性+20%
説明:妹の愛情がこもったお守り
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『いいお守りね』
Systemの声が優しく響く。
『大切にしなさい』
ああ、もちろんだ。
### ◆◇◆
病院を出ると、日が暮れかけていた。
「待ってたよ」
病院の前に、美咲が立っていた。
「神楽さん?どうしてここに」
「話があって」
美咲が真剣な表情で俺を見つめる。
「私の正体について」
「!」
ついに、話してくれるのか。
「でも、ここじゃ…」
美咲が周囲を見回す。
確かに、人通りが多い。
「どこか、静かな場所に行こう」
### ◆◇◆
記憶屋街の外れ。
廃墟となった建物の屋上。
ここなら、誰もいない。
「私はね」
美咲が夜景を見つめながら話し始めた。
「記憶統制局に作られた、人工記憶体なの」
「人工…記憶体?」
「そう。人間の記憶を元に作られた、人工的な存在」
美咲が振り返る。
その瞳が、月光を受けて金色に輝いた。
「コードネームは『オリジン』。すべての人工記憶体の、原型」
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【神楽美咲の正体】
本名:オリジン
レベル:???(計測不能)
職業:原初の人工記憶体
能力:記憶創造、記憶消去、記憶転写
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「でも、なぜ学園に?」
「逃げてきたの」
美咲が寂しそうに微笑む。
「私、人間になりたかった」
「人間に…」
「記憶統制局は、私を兵器として使おうとした。人々の記憶を操る、最強の道具として」
美咲の体が、薄く光り始める。
「でも、私は嫌だった。誰かの記憶を奪うなんて」
「それで、逃げ出した?」
「うん」
美咲が俺に近づく。
「そして、あなたに出会った」
「俺に?」
「最初に会った時から、感じてた。あなたは特別だって」
美咲が俺の手に触れる。
瞬間、ビジョンが見えた。
破壊された東京。
記憶結晶塔の頂上に立つ、大人になった俺。
そして——
「これは…」
「未来の記憶」
美咲が悲しそうに言う。
「私には、少しだけ未来が見える。そして、その未来では——」
言葉が途切れる。
「どうなるんだ?」
「…あなたは、世界を救う。でも、その代償に——」
その時だった。
ドォン!
爆発音が響いた。
「見つけたわよ、オリジン」
声の主は、氷室だった。
特務部隊を引き連れて、屋上に現れる。
「やはり、朝倉蒼と一緒だったか」
「氷室…」
美咲が身構える。
「おとなしく戻りなさい。そうすれば、朝倉蒼は見逃してあげる」
「嘘ね」
「あら、バレた?」
氷室が冷たく笑う。
「朝倉蒼も危険因子。ここで始末する」
特務部隊が包囲網を狭める。
「美咲、下がってろ」
俺は前に出た。
「私が戦う」
「でも——」
「大丈夫だ」
記憶武装化を発動。
両手に黒と白の刃を生成する。
「ほう、やる気ね」
氷室が指を鳴らす。
「全員、戦闘準備」
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【戦闘開始】
朝倉蒼 Lv.20 & 神楽美咲 Lv.???
VS
氷室冴子 Lv.50 & 特務部隊×4
WARNING:圧倒的戦力差
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「記憶凍結」
氷室の能力が発動する。
周囲の記憶が凍りつき、動きが鈍くなる。
「くっ…」
「隊長の能力は、記憶の動きを止めること」
美咲が説明する。
「気をつけて」
だが、もう遅い。
特務部隊が一斉に攻撃してくる。
なんとか防御するが、4対1では——
「がはっ!」
背中に衝撃。
吹き飛ばされる。
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【ダメージ】
HPが150減少
現在HP:170/320
危険域に到達
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「蒼!」
美咲が駆け寄ろうとするが、氷室が遮る。
「あなたの相手は私よ、オリジン」
「邪魔しないで」
美咲の瞳が金色に輝く。
凄まじい記憶エネルギーが溢れ出す。
「やはり、規格外ね」
氷室が後退する。
「でも、想定内よ」
氷室が何かのスイッチを押す。
すると、美咲の動きが止まった。
「なっ…」
「記憶抑制装置。あなた専用に開発したの」
美咲が膝をつく。
「卑怯な…」
「これが現実よ」
氷室が美咲に近づく。
「さあ、おとなしく——」
「させるか!」
俺は最後の力を振り絞って、氷室に斬りかかる。
だが——
「遅い」
氷室の蹴りが俺の腹部にめり込む。
「ぐっ…」
意識が遠のく。
ダメだ。
レベル差がありすぎる。
このままじゃ——
『蒼』
Systemの声。
『記憶増幅薬を使いなさい』
そうだ。
鈴音からもらった切り札。
震える手で、薬を取り出す。
「まだ動けるの?」
氷室が呆れたように言う。
「しぶといわね」
「まだ…終わってない」
薬を飲み込む。
瞬間、体中が熱くなった。
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【記憶増幅薬使用】
全能力200%上昇
持続時間:5分
現在レベル:20→40(一時的)
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「なに…!?」
氷室が驚愕する。
立ち上がる。
今なら、戦える。
「行くぞ」
地面を蹴る。
さっきとは比べ物にならない速度。
氷室の眼前に一瞬で到達。
「記憶喰らい・全開!」
氷室の記憶に手を伸ばす。
「しまっ——」
遅い。
氷室の『記憶凍結』の能力を、根こそぎ奪う。
「があああああ!」
氷室が絶叫して倒れる。
「隊長!」
特務部隊が動揺する。
その隙を逃さない。
「記憶武装・乱舞!」
増幅された力で、特務部隊を次々と倒していく。
1分も経たずに、全員が地面に伏した。
「はぁ…はぁ…」
でも、薬の効果時間が——
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【記憶増幅薬効果終了】
反動発生
全能力50%低下(24時間)
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膝をつく。
体が鉛のように重い。
「蒼!」
美咲が支えてくれる。
抑制装置は、戦闘の衝撃で壊れたらしい。
「大丈夫?」
「なんとか…」
「逃げよう」
美咲が俺を背負う。
人工記憶体の身体能力は、人間を超えている。
「待て…」
氷室が震え声で言う。
「これで…終わりと思うな…」
「…………」
「記憶統制局は…必ず…」
それ以上は聞かずに、俺たちはその場を離れた。
### ◆◇◆
安全な場所まで逃げて、ようやく一息ついた。
「ありがとう」
美咲が俺を見つめる。
「私を、守ってくれて」
「当然だろ」
「でも、これで記憶統制局に完全に目をつけられた」
「今更だ」
俺は苦笑する。
「それより、さっきの話の続き」
「続き?」
「未来で、俺はどうなるんだ?」
美咲が悲しそうに俯く。
「…すべてを失う」
「すべて?」
「記憶も、仲間も、存在も。世界を救う代わりに」
重い沈黙が流れる。
でも——
「それでも、俺は進む」
「え?」
「守りたいものがあるから」
葵の顔が浮かぶ。
鈴音、真田先輩、そして美咲。
大切な人たちを守れるなら。
「運命は、変えられる」
「蒼…」
「一緒に、変えていこう」
手を差し出す。
美咲は少し驚いた顔をして、そして微笑んだ。
「うん」
その手を取る。
「一緒に」
握手を交わす。
今日、また新しい仲間ができた。
そして、新しい敵も。
記憶統制局との戦いは、これから本格化する。
でも、怖くない。
仲間がいるから。
『感動的ね』
Systemの声は、今日も茶化している。
でも、どこか優しい響きがあった。
月が、俺たちを静かに照らしていた。
【更新予定】
毎日更新を目指します!
最低でも週5は更新したいと思ってます。
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