荷物持ちのサポーター
「……重っ」
背負ったバックパックの重さに思わず声が漏れる。
剣淵ダンジョンの1階層、俺はバックパックを背負い直しながら顔をしかめていた。
バックパックの中には魔石。そして――外側に束ねて括り付けられた鉄の剣が6本。
「……流石にこれは無理だろ」
1本5000円。つまりこれだけで30000円だ。
旨い。確かに旨いんだが……。
「動きづらすぎる」
この二宮金次郎ばりの背負い方はデメリットしかない。
動くと身体のバランスが崩れるし、振り向くのもワンテンポ遅れる。
そして何より……。
「これ、戦闘中に引っ掛けたら終わりだな」
俺は小さくため息を吐く。
ここ1カ月、剣淵ダンジョンに通い続けて分かったことがある。
それは――
“稼げるけど、持てない”
という問題だった。
「……しゃーない、一回戻るか」
本当ならもう少し潜れる。
だがこの状態で無理をするのは危険だ。それにこれ以上ドロップアイテムを見つけても持てないしな。
俺は引き返すことを決め、ダンジョンの出口へと向かうのだった。
剣淵ダンジョンの管理棟に戻り、鉄の剣と魔石をまとめて売却する。
「本日もお疲れさまでした。合計で三万六千円になります」
「ありがとうございます」
金額は申し分ない。今日もいい稼ぎだったと思う。
だが、俺の頭を悩ませている問題はそこじゃない。
「……うーん」
管理棟の壁にもたれ掛かりながら腕を組む。
今の俺の実力ならもっと下まで潜れる。
でも、拾ったドロップ品を運べない。
「……どうしたもんかな」
解決策は一つ思いついている。
しかし……どう実現したものか。
「⋯⋯駄目だ。俺一人ではいい方法が思いつかん」
いくら考えても俺の頭ではいい案が思いつかなかった。
こういう時は詳しい人に聞くに限る。『餅のことは餅屋に』、『探索者のことはダンジョン職員に』だ。
そうして俺は壁を離れる。
向かう先は――サービスカウンターだ。
「すみません」
「はい、いかがされましたか?」
俺の声掛けにカウンターにいた女性職員が顔を上げる。
「その……パーティーって、どうやって組むんですか?」
俺の質問に、職員は少し驚いたような表情を見せた。
「パーティー、ですか?」
「はい。ちょっと一人だと……荷物の運搬がきつくて」
正直に言うと、職員は「あぁ」と納得したように頷いた。
「確かに、剣淵ダンジョンはドロップ品が嵩張りますからね」
「ですよね……」
やっぱりこの悩みを持っているのは俺だけじゃなかったか。
「一般的には、知り合いや友人同士で組む方が多いですね。最近だとネット掲示板や、探索者用のマッチングアプリを利用される方もいらっしゃいます」
「なるほど……」
……無理だな。
探索者の知り合いと言えば、士別ダンジョンで出会った同級生の三浦たちが頭に浮かぶが、カースト上位のアイツらと組むのは気が引ける。それにアイツらは四人で完成されたパーティーを組んでるから、今更俺が入る隙間なんてないだろう。
ネットで募集も正直ハードル高い。……変な奴来ても困るし。
「……うーん」
思わず唸る。やっぱりネットで募集するべきなのだろうか?
すると、そんな俺の様子に。職員が少し考え込むような素振りを見せた。
「……もしよろしければ」
「はい?」
「一人、心当たりのある方がいらっしゃるのですが」
「え?」
思わず顔を上げる。
「その方も現在パーティーメンバーを探しておりまして……運搬系のスキルをお持ちです」
「運搬系……?」
「はい。戦闘は苦手ですが、サポートに関しては優秀な方です」
……正直、願ってもない条件だ。
それに、ダンジョン職員の紹介だ。変な人が来る確率も低いだろう。
「その人、紹介してもらえますか?」
「はい。ただ、お互いの相性もありますので、一度顔合わせという形でよろしいでしょうか?」
「全然大丈夫です」
俺は職員の言葉に即答した。
こんなに早く問題が解決するのなら、もっと早く職員に相談するべきだった。
まぁ、お互いの相性ってものがあるから、明日即パーティーが組めるって訳ではないが、一歩前進ってやつだ。
「では、明日の午前中に管理棟でお時間をいただけますか?」
「わかりました」
こうして、俺はパーティーメンバー候補と会うことになった。
翌日。
俺は指定された時間より少し早めに管理棟へと到着していた。
「……なんか緊張するな」
ダンジョン探索とは違う緊張感を感じる。
考えてみれば初対面の人間と何かをやるなんて、これが初めての経験だった。
「斎藤様」
そうしてソワソワと管理棟内のソファに座って待っていると、不意に名前を呼ばれた。
顔を上げると、昨日の職員が手を振っているのが見える。
「こちらへどうぞ」
案内され、管理棟の一角へと移動する。
そこには――
「……」
一人の女性が立っていた。
長い黒髪を肩のあたりで揃え、少し俯き気味。
年齢は俺より少し上に見える……大学生くらいだろうか。
「あ、あの……」
彼女の口から蚊の鳴くような小さな声が聞こえる。
「は、はじめまして……」
ゆっくりと顔を上げ、こちらを見る。
ガチガチに緊張しているのが伝わってくる。
「白石、です。大学2年生、です」
こちらが申し訳なくなるくらい丁寧な口調。
どこか自信なさげな雰囲気を感じる。
「斎藤です。よろしく」
軽く手を挙げて返す。
こういう時はなるべくフレンドリーに接した方がいいと思う。相手にこちらが害を与える存在ではないと認識してもらうのだ。
すると、白石さんは少しホッとしたように小さく頷いた。作戦成功だ!
「彼女は私の高校時代の後輩でして」
そんな心理戦を勝手にしていると、横から職員が説明を入れる。
正直二人きりだと話が弾みそうにないから、職員の橋渡しは非常に助かる。
「以前彼女は同じ大学の方とパーティーを組んでいたのですが……」
そこで職員は言葉を濁す。
「あ、あの……」
それまで静かだった白石さんが口を開く。
やはりその可愛らしい声は小さく取りにくい。
俺は全神経を耳に集中した。
「わ、私……その……あまり、人と話すのが得意じゃなくて……」
「……」
「パーティーでも、うまく馴染めなくて……その、抜けることになってしまって……」
俯きながら話すその姿に、少しだけ胸がチクッとした。
「でも……探索者は続けたくて……」
「……運搬系スキル、なんだっけ?」
「は、はい……収納系の、スキルで……」
「収納!?」
思わず声が大きくなる。
マジかよ。俺が一番欲しかったやつじゃん。
これは運命の出会いってやつではないだろうか!?
「は、はい……その……物を……ある程度、まとめて収納できて……」
「……それめちゃくちゃ便利じゃない?」
「えっ……?」
キョトンとした顔でこちらを見る白石さん。
物を収納できるスキルなんて探索者にとっては喉から手が出る程欲しいスキルだろう。こんなに良いスキルを持っているのに白石さんには自覚ないのか?
「いや、めちゃくちゃ助かる!ウルトラ助かる!今めっちゃ困ってた!」
あまりにも嬉し過ぎてテンションがおかしくなってる気がするが、そんなことはどうでもいい。
白石さんは俺の言葉に少し驚いたように目を瞬かせた。もしくは俺のこのテンションに驚いた可能性も考えられるが、そこは気にしないようにする。
「……本当、ですか?」
「本当。本気で助かる」
そう言うと、白石さんは少しだけ顔を明るくした。
「……あの、私で……大丈夫、でしょうか?戦闘は、あまり……できなくて……」
「そこは問題ない」
不安そうな白石さんに対し俺は即答する。
「戦うのは俺がやる。白石さんにはドロップ品とかの運搬をお願いしたい」
戦闘と運搬。
お互いの役割はハッキリしている。
だからこそ、俺たちは噛み合うパーティーになると思う。
「白石さん、俺とパーティー組んでくれる?」
白石さんは一瞬驚いたように目を見開き――
そして、小さく頷いた。
「……はい。よろしく、お願いします」
こうして俺は、新たなパーティーメンバー――
荷物持ちサポーターの白石さんとパーティーを組んだのだった。




