第五十六話 旅立ち
第五十六話 旅立ち
その後も、僕は何度か脱走し、赤い水晶の合成を行おうとしたのだが、外に出るとクリスが流した『話』のせいか街の人がガンガンこちらを見てくるので、一人になる機会を作れず実験はあきらめた。
結局実験は人類未踏の地に入ってから行うことにし、僕は体の回復と準備に専念することにした。
人類未踏の地に向かうために必要なものは食料を始めとした物資と、現状の踏破状況だ。
物資面に関してはスポンサー契約を打ち切ったカーネリアがなぜか協力してくれたこともあり、ほとんど問題はなかった。
どうにも例の白銀の剣を『英雄ラルドの女神の剣』として売り始めてバカ売れしているらしく、今度あの剣を作った職人にこの街で工房を持たないかと掛け合ってみるらしい。
性能どうこうで勝負しないのかと尋ねてみたら「そういうのは売れて、名が広がってから」と実に商人らしい返答が返ってきた。
そういうわけで資金面でほくほくなカーネリアは物資の調達を喜んで引き受けてくれた。
次に情報だが、そこは領主であるクリスを頼ることにした。
具体的にはクリスを経由して冒険者ギルドで収集している情報すべての開示を依頼することにしたのだ。
壁の建設が始まって50年以上、いや、それより長く収集されている未踏の大地の情報。
それは専用の地下室に編纂され、膨大の量の情報が眠っていた。
川の位置、生息している魔物の種類、遺跡と同じ材質で出来た廃墟の街の存在などなど。
ダモンドの情報こそなかったものの、ラズワードの言葉と照らし合わせれば、いくつかアタリを付けることができた。
……ラズワードに頼めば道案内してくれる可能性は高いのだが、それをすると必要以上の情報も出てきそうなので、僕的にはほぼ絶対にしたくはないというのが心情だ。
あと、リスタルの件についてはクリスには伏せておくことにした。
せっかく娘が返ってきたのに、得体のしれない何かに体を乗っ取られてしまったという話はあまりにショックが大きいだろう。
リスタルがラズワードであった時のことを思い出すと今でもちくりと胸が痛む。それがもし自分の子供がそうだといわれてしまったときの感情は推し量ることもできない。
それにラズワード自身も、おそらくリスタルの抵抗もあるため、一人ではダモンドにたどり着けない判断をしたのだから僕に提案を持ち掛けてきたと思う。
さすがにそれを反故にして、ラズワード一人では動くことはないはずだ。
(それにしても魔王の復活か。)
おとぎ話で聞くような魔物の王。
それを復活させる。
……他者から見れば度し難い状況だろう。
それでも僕はダモンドにに目指す。
実を言うと、誰もたどり着いたといわれていない幻の遺跡を探索したいという子供心から始まった、夢を捨てきれていないだけの話だ。
でもそれは多くを巻き込み、大切な人を取り返す旅に形を変えていった。
もう、心を折ることはできない。この旅は僕だけのわがままではない――……。
かくして一か月が経過した。
僕の体は万全となり、休んだ分、前より少しだけ体が軽い感じがするぐらいには調子がいい。
「よし、行こうか」
「いざ、ダモンドへだナ」
腰に差したガネットが機嫌の良い声を上げ、僕らの先を促す。
僕は鞄を背負い、宿を出て、壁の前でリスタルの姿をしたラズワードと合流をする。
「リスタル、お待たせ」
「ええ、行きましょう」
近くにクリスがいるからか、ラズワードは小さく手を挙げてこちらに応え、リスタルを演じている。
僕はクリスに挨拶をし、改めて壁外への通行許可の手続きを行った。
ちなみにリスタルも同行するという話はラズワード自身が話を付けると言っていた。
どういう話をしたのかはわからないが、クリスの煮え切らない表情を見る限り、結構強引に話を進めているようだ。
何というか心変わりをしないうちに出ていった方がよさそうだと、僕は手続きを急ぐことにした。
「では、手続きと説明は以上になります。通行を許可いたします。ラルド様、リスタル様、どうか幸運を」
「ありがとう」
手続きを手伝ってくれた役員の人に書類を渡し、僕とリスタルは壁の内部で外への扉が開くのを待つ。
『開門っ!!」
ややって大きな声が響いた。
その声をきっかけに、ギリギリと重い音を上げながら扉がゆっくりと開いていく。
「ここが、人類未踏の大地――。ついに来たんだ」
見渡せば草すら生えず、地肌がひび割れた赤茶色い大地が続いている。
僕はその光景に息を飲んだ。
ここから始まるんだ。ようやくここまでやってこれた。
「そうだねぇ。ところでダモンドへ行く目星はつけているのかいぃ? ボクが案内してあげてもいぃんだけどぉ?」
ラズワードがリスタルの演技を止め、こちらにニタニタと笑いかけてくる。
彼女からの問いに答えつつも、僕は事前に立てていた計画を伝えることにした。
「絶対に断る。まずはここから10日かけてリドット川を目指す。川沿いを移動し、各地を調査。
ダモンドは魔王をよみがえらせる装置があるって言っていたけど、それだけの文明がある場所なら、痕跡を追い続けていけばたどり着けるはずだ」
僕は壁から先に外に出て、ラズワードよりも前を歩き始めた。
「なるほど、なるほどぉ。目の付け所はいいねぇ」
何か文句を言われるかと思ったが、ラズワードもそれで納得したようだ。
「うん。それじゃあ、行こう」
「行くゾ ラルド! ア、あとあの赤い水晶のことも忘れるナヨ!」
「分かってるよ」
「それじゃぁ、お手並み拝見と行こうかぁ」
乾いた大地を僕らは進む。
自分の夢を、自分の欲望を、自分の使命を、それぞれに抱いて。
ここまで読んでいただきありがとうございます。鏡読みです。
まことに勝手ながら伝説の剣に選ばれなかった(略)はここで「第一部完」とさせていただき、しばらく更新を控えようと思います。
第一部は『ラルド』編、彼が人類未踏の地に進むまでの決意と因縁の話。
第二部は『人類未踏の地』編、滅んでしまった文明の話を書きたいなとちょっぴりプロットを立てています。
……もっとも当初の筋書きよりだいぶライブ感での付けたしや変更が多いので、もう一度見直して書かないとですが(苦笑
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改めて、ここまで読んでいただきありがとうございます。
よろしくお願いします。




