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第三十五話 戦いの場へ

第三十五話 戦いの場へ


 ーーギルドまで全員避難したのち、僕が単身で北の草原に行く。

 そう基本方針をまとめた僕らはギルドまでの道のりを進んでいた。


「サイレントウォーカー、ほとんどいないわね」

「……ほぼ全て北の草原に行ったのかも」


 僕を先頭に、各々武装し、警戒しながらギルドへの道を進む。

 本来は15分程度の道のりなのだが、街中は死角にサイレントウォーカーが潜んでいる可能性もあるため、かなりゆっくり進むことになり、三十分ほどかけ僕らは無事にギルドの入り口のバリケードまでたどり着くことができた。


 幸いなことにサイレントウォーカーに出会うことはなかったが、道中かなりの緊張だったのかカーネリアをはじめとしたシディ、宿屋の従業員たちは安堵の息を吐いた。


「ひどいな……」


 バリケードから覗くギルドの状況は混沌としていた。

 大量のサイレントウォーカーと戦い続けた結果なのだろう、入り口のバリケードは崩れかけ、中では十数人の冒険者がぐったりと床に座り込んでいる。


「なんだよ、あの女の連れじゃねぇか」


 重そうな剣を杖替わりにのろのろと男がこっちに寄ってきた。

 以前、カーネリアに絡んできた冒険者だ。

 名前は確か……鬼殺しのルピンとかいったはず。


「すみませんが、彼女たちの保護をお願いしたいんです」

「分かった。中、入んな」


 カーネリア達はホッとした表情を浮かべ、ギルドの中に入っていく。

 サイレントウォーカーの数も減り、疲労しているが冒険者たちが多くいる。

 おそらくここがタイズの中で一番安全な場所だろう。


 ルピンはギルドに入ってく面々を見て、僕に尋ねてきた。


「ところで、おめぇ。あの女はどうしたんだ?」


 あの女とはリスタルのことだろう。

 僕は決意を言葉にした。


「――これから助けにいくんです」


 僕の言葉にリスタルの状況を察したルピンはこちらに手を伸ばし、迷うようにその手を戻す。

 彼は、戻した手で、らしくないと頭を掻きむしり、肩をすくめた。


「やめておけ。と、いってもいくんだろ」

「もう、絶対に失いたくないんです」

「そうかよ。じゃあ死んで来いよ馬鹿野郎」

「みんなをお願いします」

「保障はしねぇが、やるだけな」


 現状を確認するようにルピンは周りを見渡した。

 僕もつられるように見渡す。

 正直士気は低く感じられる。もしかすると何人かサイレントウォーカーにやられ、感染を防ぐために『処置』をしたのかもしれない。

 サイレントウォーカーの攻撃を受けていてもすぐには死なない、助かる可能性もある。

 だが、毒の対処ができるのはあくまで平時での話だ。

 敵に堕ちてしまった仲間はその場で殺さないと次の感染の原因になる。


 おそらく全滅を防ぐための判断を彼らは選んだのだ。


「さっき腕利きのやつが南のピネルに救援を願いに行った。救援が来れば時間こそかかるがあいつらを何とかできる算段が立つ。……まあ、てめえの骨は拾ってやるよ」

「ありがとうございます」


 憂いは消えた。

 ルピンはくたびれた表情のまま軽く笑顔を浮かべ、僕を見送った。


 僕は夜の街を走った。

 腰にはカーネリアから預かった剣が二本。

 共に合成を施し、現状できうる最大の力を持っている。

 だがそれでも僕の心には不安がよぎる。


 それは無謀への恐怖なのか、それとも仲間を失うことへの恐れなのか。


 だがその恐怖は確かに僕を突き動かしていた。


 人が消え、破壊された街の門を抜ける。


「これは――」


 月明りが静かに草原を照らしていた。

 サイレントウォーカーたちが、列をなし、よじ登り、それに張り付いている。 

 彼らは、一つになろうと己の体を押し付け合いまじりあおうとしていた。


 吐き返しそうなおぞましい光景が、僕の目の前にあった。


 うねりを持った肌。おそらくは何百、何千というサイレントウォーカーたちの集合体なのだろう。

 それはまるで赤ん坊のように膝と腕で体を支えていた。


 もし立ち上がるのなら、こいつは星にも手が届くのではないのか。そう思わせるほどの巨人だった。


「――っ! リスタル!!」


 僕は巨人の胸元で揺れる銀色を見逃さなかった。


 まるで胸に装飾品をのような透き通った銀糸の髪。

 見間違えるはずがなかった。

 リスタルは巨人の胸に埋め込まれていていた。


「返してもらうよ……!」

 

 返事は期待していないが、僕は剣を構えた。

 それがどれだけ無謀であるか、わかっている。

 だけども、僕にはそれが世界で一番価値があると信じて疑わなかった。

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