第十一話 『金緑石の集い』の事情
第十一話 『金緑石の集い』の事情
その後、僕はジェードが暴れた店の片づけを手伝いうことにした。
ジェードとは同じパーティでもなんでもないのだが、さすがに因縁をつけられたせいで店が迷惑をこうむってしまったのに、何もしないのは心苦しく思ったからだ。
僕は『青紫の水晶』のメジストとともに、倒れていたテーブルやいすをもとの位置に戻していった。
「なんというかすみません……」
「いや、お前が謝ることじゃないだろ。――おー、ヤモンとブルームは壊れたテーブルを外に出して、アクアは割れた食器が転がってないかチェックを頼む」
「おう」「分かった」「オッケー」
自分の作業をしながらも、メジストは自分のパーティに指示を出していく。
メンバーたちも慣れたもののようで、てきぱきと指示された役割をこなし、店の復旧に貢献していった。
「ほい、これで大体オッケーだな」
ほかの冒険者たちの手伝いもあり、店が元に戻るまで、あまり時間はかからなかった。
メジストいわく「案外ああいうことは多い」らしいので、みんな慣れているのだそうだ。
決闘となるまでのもめごとが多いのはちょっと嫌だなと僕は苦笑いしながらその話を聞いていた。
メジストの冒険者によくある話が一区切りしたあと、僕はリスタルを探した。
彼女も店の復旧の手伝いをしていて、終わった後は昼食をとっていた。
僕も適当な軽食を注文し、リスタルに声をかけた。
「リスタル、ちょっといい? パーティで何があったのさ」
「ラルド……ちょうどいいわ。座って、私からも話がしたかったの」
促されるまま彼女の向かいの席に僕は座った。
リスタルはまっすぐ僕を見つめ、口を開いた。
「……あなたには黙っていたけど、『金緑石の集い』は今二つの派閥に分かれてしまっているのよ。若手を育成する派としない派」
「育成しないって、さっき言ってたブラッドみたいな話?」
「ええ……恥ずかしいことだけど、彼らは伝説の剣のスキルが強ければ新人冒険者たちは勝手に強くなっていくと思っているわ」
実際に戦闘をした僕は不思議に思った。
リスタルとの訓練がなければ下手をすれば僕は死んでいたかもしれない。
若手を育てる意味は全然あるし、それができる土壌も『金緑石の集い』にはあるはずだ。
僕は、彼らの考え方は理解することができなかった。
「それはちょっと違うと思うけど……」
「ええ、私もそう思う。だから私が担当する見習いは徹底的に戦闘技術をたたき込んだわ――」
やはり、以前感じた通りリスタルは『金緑石の集い』の中では少し特殊な立ち位置だったようだ。
思い出される厳しい訓練、実践を想定した魔術の応報、剣技における仕組みの理解と体の動かし方、魔物の知識などなど。
リスタルは悔しそうに目を伏せた。
「――でも、彼らはそんな私の行動を時間の無駄だと思ったみたい。それに私が教えるとなぜか正式に冒険者になってからパーティ離脱率が高いから……」
それはおそらくこの『金緑石の集い』以外のパーティを知ったからだろうと思う。
冒険者として大成しようとする。それゆえに強力なスキルを求め伝説の剣を手に入れるのは間違いではない。
だが、もし、生きていくために必要な技術が身についているとしたら、必要以上の力を求めない人もいるのではないだろうか。
リスタルが教えてくれた戦闘技術は、スキルなしでも近隣の弱い魔物程度なら十分に通用するものだ。
それでいて、大規模パーティにいるときより、一人のほうが報酬が多い。
弱い魔物だけを相手にするのならば『金緑石の集い』を出ていくのも選択肢としてはありだと思う。
だた、これはあくまで僕の立場から考察したものなので、憶測の域を出ないものなので、僕はその考えを飲み込んでおくことにした。
うまく説明できなければ、いたずらにリスタルを追い込んでしまうかもしれない。
「それでもリスタルが責められるのはおかしいって」
「ありがとう。でも実際、今の主力メンバーのブラッドは、リーダーのディアンが好きにさせてうまくいってるの、技術系のスキルのおかげで」
技術系スキルは、剣を振るなどの特定の動作を補強してくれるスキルだ。
【強化自然治癒】と同じ、全身に作用するスキルで、剣技のコントロールが良くなる【剣技極意】、魔術の発動が早くなる【魔術極意】などが存在する。
そういう技術系のスキルが入っている伝説の剣の使い手なら、訓練はそこそこでもかなり強くなれるだろう。
実際にブラッドに関しては、僕が知っている限りだと戦闘が上手く、たまに見るリスタルとの模擬戦闘はいつも拮抗していて、とても訓練を積んでいないなどとは思えなかった。
「それで、そのブラッドもまたスキルがあればいいといって、ジェードに何も教えていなかった」
「ええ……有名パーティが呆れるわ。このままじゃ、先代に顔向けできない」
リスタルは拳を強く握っていた。
彼女は追い詰められていた。けれども僕の結果次第では何とかできるはずだ。
助けよう。リスタルは間違っていない。
「だったら、この決闘で僕がジェードに勝つ。どちらが間違えだったのかそれで分かるはずだ」
「ありがとう、ラルド」
僕の言葉にリスタルは柔らかく笑った。
「それじゃさっそく特訓!」
「へい?」
嫌な予感がした。
その予感に促されるまま逃げようとした僕の腕をつかみ、リスタルは僕の逃走を阻止した。
「反応はいいけど、まだまだ。細かいところまで気が回っていない。大丈夫任せて、ラルドを一日で最高の攻撃者にしてあげる」
「いや、僕は探索者志望なので自分の身を守れればそれで――」
にこやかな彼女にそれ以上の言葉が出てこなかった。
僕は椅子に座り直し、大げさに天井を見つめた。
ああ、どうしてこうなるのか――
「鷹に狙わレた獲物だナ」
ぽつりと僕にだけ聞こえるようにガネットがつぶやいた。
意味は分からないが、何となく意味が分かった。




