第1話「太陽銀河歴0081年2月1日」
薄暗い密閉された空間の中心に、1人の青年が座っている。しかしその空間内には様々な機器が取り付けられており、空間を照らすのは機器の発する光のみだ。そして青年の両手には各5つのスイッチが取り付けられたハンドルが握られ、両足はペダルを踏む絶好の場所に置かれている。
頭部にはヘルメットを被っているが、正面は完全に特殊な機械に覆われており、その表情を伺うことは出来ない。ヘルメットからは左右後方から伸びた配線が結合されいる。
胸が上下する度に、ヘルメットの口元からはコーコーと掠れた、機械が空気を排出するような音だけが響いていた。
ピピッっという、電子音が響くと、タバコの箱のような大きさのモニターに女性の映像が映し出され、言葉を紡ぐ。
「こちらオペレーターのクリスです。No.21聞こえますか?」
No.21と呼ばれた青年は、ハンドルから左手を離し、モニターをコンコンと2回ほど指先で叩いた。
「…それでは確認になりません。応答してください。」
溜息を吐くような仕草をした後にNo.21は言葉を発した。
「聞こえてまっオエッ!」
彼は初陣の恐怖と緊張のあまり、喋ると吐きそうだったのであえて沈黙をしていただけだったのだ。
するとモニターが2つに分割され、顔を仮面で覆った男が映し出された。
「成功者の中で貴様だけが、何故かその心を強化することができなんだ。他の者は一切動揺も緊張もせずに、冷静だと言うのに……嘆かわしい。」
「へいへい。失敗寄りのギリギリ成功者で、オエッ。…すみませんね。その小言で、治るなら…ウッ……。もう切ります。」
通信を切ろうとスイッチに手を伸ばそうとすると、慌ててクリスが本題を伝えてきた。どうやら作戦開始5分前のため、発進カタパルトへ移動して欲しいとのことだった。
内心、余計な通信を割り込ませるなとツッコミを入れつつ、No.21が搭乗している新兵器“可変型強行偵察機『黒兎』”を起動させた。
すると、ヘルメットに取り付けられた配線や、視界を覆う機械の起動光が点り、兵器のカメラを通した映像がダイレクトに脳へと映し出される。
視界良好に、頭痛無し。あとはこの恐怖心さえ克服出来れだ最良なんだが、いつまで経ってもこの臆病者の小心者の心が強化されることはなかった。
ハンドルを操作し、黒兎の指を動かす。
問題無し。
軽くペダルを踏み込み、バーニアの空吹かしを行い、動作に支障無し。
あぁ、機械トラブルがあれば逃げ出せるのに。
本日、何度目かともわからない深い溜息を吐いて、俺はカタパルトへと移動を開始する。
訓練で何度も何度も行った基本動作の“歩行”を行ない、人がバービー人形の様な大きさに感じるサイズの、黒兎用の高速弾ライフルを手に取る。
「こちらNo.21。カタパルトセット完了。発進カウントダウン頼んだ。」
「こちらクリス。了解しました。残り3分20秒前。1分前、30秒前になったら通告。10秒よりカウントダウンを開始します。」
「了解。」
これから戦争が始まる。いや、宇宙規模ではもう何年もやってるんだけどね。
だから…言うなれば、今日から“俺達の戦争”が始まろうとしている。
「残り1分前。」
家族を戦争に殺され、家を戦争で失った。
「30秒前。」
全てを奪った戦争に対して、俺達は戦争を仕掛ける。
「10秒前、9、8、7、6」
戦争の為に俺達は“創られた者”。
「5、4、3、2、1」
戦争が俺達を生み出したんだ。
「0。」
「No.21。出る!」
カタパルトの発進装置が作動し、黒兎が宇宙へと向かって進んでいく。
カタパルトより射出された後に、バーニアを始動した。加速Gが俺の体をシートへと押し付ける。
俺は宇宙へと飛び立った。
黒兎は人型形態から飛行形態へと変形し、更なる加速をする。
MJAF循環偵察艦の戦力偵察を行う為に。
「俺は戦争でなんか…死にたくない。」
呟きを、バーニアの音が搔き消した。
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この作品は現在連載中の『自宅警備員から自宅艦艦長になったようだ』の執筆に行き詰まり、気持ちを切り替える為の気晴し作品になります。
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自宅警備員から自宅艦艦長になったようだ
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