第2話「初陣」
順調に進路を進み、そろそろMJAF循環偵察艦のルート範囲に近付いてきた。
先ずは土星産最高品質のジャミング装置を起動させる。すると頭部の両サイドが開きそこから大きな耳の様な形をしたアンテナが出現する。
余談ではあるが、これが兎の耳に似ていることと、機体色の黒と相まって黒兎と呼ばれている。まぁ今は飛行形態なので頭部は船首部分に当たる。
次はペダルから足を離し、バーニアの噴出を停止させ、慣性で飛行を継続する。
ジャミング装置のお陰でレーダーに引っかかることは極端に低くても、バーニア独特の発光で見付かったら洒落にもならない。
「慣れた操作でも、実戦となるとプレッシャーがハンパねぇな。」
胃がムカムカして、今にも胃液が口からマーライオンしそうだ。
気持ちとカメラを切り替え、最望遠モードにする。黒兎のメインカメラは全機体の中で最も性能が良く、視認範囲は艦に取り付けられているレーダーを超える。
諜報部隊の仕入れた情報によるとそろそろ循環偵察艦が見えてきても良い頃合いなんだが……。
「げっ!」
間違いではなかったが、内容物が違っているじゃないか。循環偵察艦だけじゃなくて警護艦も一隻いるなんて、聞いてないぞ。
帰りたい。このまま180度旋回して母艦に帰還したい。
「クソッたれ。これで帰って良いのは偵察機。だけど俺のは強行偵察機。つまりは…蜂の巣叩いて蜂の戦闘力知るのが任務。やるっきゃねぇだろ!」
深呼吸を1つして、俺はハンドルを強く握り直す。
「やっぱり帰っちゃダメだよね?」
誰も答えてくれないのに、口に出さずにはいられない質問。例え誰かが答えてくれてもきっと「ダメ。」と言うんだろうけど。
勇敢な他のネクスト達なら突貫かますんだろうが、俺はそんなこと出来る訳もない。自信を持って言える。そんなの無理。
そんな訳でデブリ密集地帯に進路を変更し、機体が隠せる大きさのデブリの陰に忍び込み、人型へと変形してからデブリに密着する。
循環偵察艦のルートはデブリ密集地帯近郊を進んで行くはずだ。それまでここで息を殺し待てば…背後をつける。
ただ、相手から俺が見えないのと同様に俺からも相手が見えない。下手に動くと返って目視発見されるリスクを伴う。
ならば、俺の思いつく方法は1つ。
先ずはジャミング装置を停止させる。デブリの中に隠れたのに、デブリ密集地帯がジャミングのせいでレーダーに映らなかったら怪しいからな。
そしてレーダーのみを残して生命維持装置も含めた全ての機器を休止させる。これで機体はどんどん冷え、宇宙空間と同じ温度まで下がっていく。これで熱センサーから逃れらる。
欠点として酸素供給が止まり、体もどんどん冷えていき、下手したら死だ。
「時間にしてあと30分。……のはず。」
保てよ俺の体と心。
理論上では死に片足突っ込む程度のリスクしかないはずだ。
突貫してたら死の海にダイブするのと同じくらいのリスクだと思うから、軽い軽い。
目を閉じ、脳内にダイレクトで情報が流れ込んでくるレーダーに意識を集中させる。
心臓が五月蝿いな。
ゆっくり着実に決められたルートに従いレーダーの光点は動いていく。
先頭を行くのは索敵機…MJAFで初期生産された飛行機型プロトタイプのFS-00を索敵仕様にカスタムしたものが2機、その後を循環偵察艦が1隻、そして背後を守るように警護艦1隻。良い位置取りしてやがる。
しかも厭らしい事に、旧主力戦闘兵器“足無し”4機で周囲を警戒してるときたもんだ。
脅威となるのは当然、警護艦だ。継続稼働時間や索敵性能は圧倒的に偵察艦だが、それ以外の装甲、速度、火力、搭載数は全てにおいて上だ。
あとは足無しの四ッ手から撃ち出されるガトリング弾幕だな。機動力もそこまで高く無いから完全に迎撃向けの機体だ。遠巻きからあまり接近しなければ問題無いはずだ。マイナーチェンジしてなければ。
強行偵察マニュアルの通りにやるか。
先ずは基本に忠実に…ってね!!
黒兎の各種機器を起動させ、ペダルを一気に踏み込むと、バーニアが勢いよく噴出し、機体は弾かれたようにデブリの陰から飛び出す。
当然、ジャミングを発動させる。これによりレーダーでは俺を捕捉できないし、遠距離ロックもできない。目視で頑張って攻撃してくれ。
先ずは追い足を潰す。
高速弾ライフルの引き金を引くと、貫通力の高い弾丸は警護艦の左舷大形バーニアに着弾する。
1発じゃ止まらないとわかってるよ!
立て続けにもう1発。更にもう1発。
左舷のバーニアが停止したのとほぼ同じタイミングで足無しがワラワラと俺に向かって来たが、まだどうという事はない。機動力が違うんだよ。
囲まれないように注意を払いつつ、今度は右舷のバーニアを潰しにかかる。
警護艦からは弾幕がはられ、カタパルトからは足無しが湧いて出てくる。
足無しはこれで12機になった。警護艦の搭載数は多分これで全部だろう。武器も特別な変わっていない4ッ手ガトリングだけみたいだ。
ボォンッ!
「当たり所が良かったみたいだね!」
右舷は爆発を起こし、1発で停止させる事に成功した。これにより警護艦の足はほぼ死んだと言って良いだろう。
すると流石に偵察艦も危機感を抱いたらしく、方向転換をし、こちらに船首を向け、更にはカタパルトからは“人魚”が4機発進した。
主砲も牽制目的で飛んでくるが、油断しなけりゃこの距離では当たらんよ。
偵察艦にはこれでFS-00が2機に、人魚が4機か…。多分、あれで全部かな?そうなると俺の仕事はここで9割方完了したけど、最後にストーキングされない様に偵察艦の大型広域レーダーだけは潰しておこう。追われて逆襲とか怖いしな。
最速で警護艦や足無しを潜り抜け、偵察艦に接近していく。
「ちっ!」
あと少しで偵察艦というところで人魚に邪魔をされた。流石は下半身が多数のバーニアの塊だけあって速度が速い。それに上半身が人型だからそこそこ器用な立ち回りもしてくる。
こっちは武装も弾数も少ないんだから邪魔しないで欲しいもんだね。
黒兎の右手には高速弾ライフルを、左手には腰に下がっていた超高周波ブレードを抜く。
確かに人魚の速度は速いが、ピョンピョン跳ねるウサギの小回りをなめるなよ。高速で細かくバーニアを噴出させることにより黒兎は文字通り跳ねる様に縦横無尽に宇宙空間を飛び回る。
黒兎を囲む様に4機の人魚が迫るが、人型にはこんなことも出来るんだ。
正面に牽制の弾丸を放ち、体制が崩れた人魚のコクピット付近に蹴りを叩き込み、その反動とバーニアの補助で左側の機体の背面まで移動し、そのまま超高周波ブレードで両断する。
これにて包囲網が崩れたので、その勢いのまま偵察艦に迫る。主砲を避け、弾幕を掻い潜り、高速弾ライフルの残弾全てを大形広域レーダーに撃ち込んだ。
レーダーが無事に崩れる様に破壊されたのを確認してから、飛行形態に変形し、戦場から脱兎の如く離脱する。
念の為にデブリ帯を通過して、抜けてから仕上げのお仕事。黒兎のバックパックに搭載されたメッセンジャービットを母艦に向けて発進させた。
「これにて俺のお勤め完了。」
すると生命維持装置からアラートサインが入り、俺の鼻からは血が垂れ始めていた。
「稼働時間ギリギリだったか。初実戦で余計な力がかかったかな?まぁ…あとは帰還するだけだし、自動操縦に切り替えるから良いけど。」
深い溜息を吐いた後に、目を閉じる。このままの速度ならあと10分でビットは母艦に着くだろうから、俺は2、30分後には拾われるだろう。
ああああゝ"疲れた。
読んで頂きましてありがとうございます。
この作品は現在連載中の『自宅警備員から自宅艦艦長になったようだ』の執筆に行き詰まり、気持ちを切り替える為の気晴し作品になります。
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自宅警備員から自宅艦艦長になったようだ
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