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普段から勉強してるので、特に一夜漬けのようにいつも以上の試験対策をするわけではないが、それでも試験終了後の休みは気分的にほっとできる。
…はずなのに、椿木は月曜日の準備で風紀室に籠っていた。
生徒会の役員に反論する資料ともなれば、そう簡単に人目に晒すわけにもいかず、さりとて生徒会室に入れない以上、データのまとめや保管は風紀室で行っている。
建前上、風紀が監視しているという事になれば文句も出ない。
「佐野先輩もせっかくの休みなのに、お目付け役なんて大変ですね」
手伝う訳でもないが、監視役としては椿木を一人にさせるわけにいかず、何もする事なくても時間を潰しているしかない。
「いや、どうせ寮にいてもする事はないし、それなりに書類も溜まっているしな」
相変わらずマリモが起こした事件の後片付けが山積しているようだ。
事件ごとにクリアファイルにまとめられた書類が、離れた場所からも幾つも重なっているのが分かる。
「仕事しても生徒会室で溜まるだけですけどね」
事実を指摘すると、小さく呻いて机に突っ伏した。
「……余計疲れることを言わないでくれ…」
「すみません」
頑張った分、佐野には事実が痛い。
月曜日。
授業は午前中で終了して、午後から全校集会が開催された。
場所は体育館ではなく講堂。
音楽堂も兼ねていて音響設備もばっちり、一人掛の椅子が段々に並び、さらに様々な機能がついている。
その中の一つが投票機能だ。
〇か×かの簡易投票のみであるが、今回のようにリコール選挙のような賛成・反対を問う場合に利用されるのだ。
席は基本的に自由。
投票も暗号化された通信で送られるため、誰が何と投票したか特定されることはない。
清太郎とジョージも昼食もそこそこに講堂へとやってきていた。
まだ三分の一も埋まっていない。
壇上はまだ空席だ。
正面に風紀委員長の席。向って左にイスが4つ、右に一つ。
おそらく数が多いほうがリコール請求した生徒会役員達の席で、一つだけなのは椿木の席なのだろう。
それをみてジョージが眉をひそめる。
「弁護人みたいなのっていないんだっけ?」
人数が多ければいいものでもないが、生徒会役員数名を一人だけで相手にするのは、心理的にも不利なのではないだろうか。
「リコール自体が滅多にないから…うろ覚えだが、確かその都度一般生徒にも弁護が許されているはずだ」
もちろん風紀委員長の許可が必要だが。
「…そっか」
ぽつぽつと席が埋まりだして、講壇最前列である一列目に風紀副委員長と他の各種委員会委員長、運動部と文化部のそれぞれの部長が腰を下ろす。
その後ろの二列目には1年から3年までのクラス委員長と、風紀の幹部委員が座っている。
興奮した一般生徒が壇上に上がらないための防波堤であるとともに、いわゆる生徒会各種運営委員が揃うことで、リコール申請はそれだけ重要かつ重大な事なのだという権威を示すものなのだ。
開始時間の5分間になって、風紀委員に先導された生徒会役員の面々が壇上に現れる。
相変わらずキラキラしい姿で、講堂に座る生徒たちに向けて手を振っている。
「かいちょー!!!」「素敵~っ!」
会場内のあちらこちらから歓声が聞こえた。
男子校の筈なのに、なぜこんなに声援が黄色い声なのか。
それを聞きながら清太郎が首をかしげた。
「声援、少なくないか?」
以前だったら生徒会の役員が登壇した途端、一斉にどっと黄色い声援が沸き起こり、思わず耳をふさぎたくなるような騒音に近い歓声が響いたはずだった。
「うーん、何かけっこう冷めてるコ多いよね」
ジョージもこっそりと周囲の様子を探ってみると、とりあえずのお義理のように拍手をしている者や、それどころか隣の者同士で壇上をチラチラみながら何か囁き合っている者の姿も見えた。




