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コーリング・エンジェル  作者: 小膳
9/11

コーリング・エンジェル(5)

「これは・・・・・・説明するよりも実際に試した方が早そうだな」


 ミルフィは呆れた顔をしつつ、ため息をついた。


「実際に、って何をやるんだ??」


 この少女が現れてから・・・・・・いや、このスマホを拾ってから増え続けているオレの疑問が、解消される気配が一向にしない。


「外に出るぞ」


 ミルフィがそう言った途端、彼女の姿がふっと消えた。


「えっ、おい。ちょっと待てよ!」


 オレは慌てて服を着替えると、スマホを持って外に出た。


******


 家のドアを閉め、アパートの階段を下りて、道路に出た。辺りをきょろきょろと見回す。


「いきなり外に出るって、訳分かんねえな。ミルフィのやつ、どこに行きやがった」


 オレが悪態をついていると。

 ふいにスマホが振動し始めた。


「お、おおっ!?」


 なんだなんだ。メールか? 着信か??

 スマホどころか普通の携帯すら持っていないオレは、こういった時に何をしていいか分からない。

 震え続けるスマホを手に右往左往するしかなかった。


「あれ」


 よく見ると、スマホの画面に美少女--ミルフィの顔が映っている。怒りの表情を露わに、必死に人差し指でこちらをつつくようなジェスチャーを繰り返している。


「押せ、ってことか?」


 触ったら爆発でもするんじゃねえか、という疑念がなぜか沸いてくる。人は未知の物に触れるとき、必要以上に臆病になるようだ。

 そーっと、そーっと。ちょうどミルフィの指の辺りを、人差し指で触れる。

 瞬間、画面がまばゆい光を放った。


「うわっ!?」


 最初に登場した時よりは幾分控えめに。

 画面からするりと抜け出すかのように、少女の姿が宙に浮かび上がった。


「まったく。電話の取り方も知らんのか」


 腕を組みながらちょうどオレと目線が合うぐらいの高さまで、ふわふわと降りてくる。


「そ、そりゃ、持ってないんだから、知ってるわけねえだろ」

「・・・・・・このような情弱が、なぜテストユーザに選ばれたのだ」


 オレの台詞に答えようともせず、人差し指をこめかみに当て、目をつむって頭を振るミルフィ。


「それで、外に出て何をするんだ?」


 文句を言っていても埒があかない。オレは話を進めることにした。

 ミルフィはふーっと息を吐き、オレの方に向き直った。


「これからチュートリアル・テストを開始する」

「チュートリアルって・・・・・・」


 オレの疑問をミルフィの怒りの形相が押し止めた。

 ここは話しの腰を折らず、素直に聞いておいた方が良さそうだ。


「・・・・・・続けてください」


 こほん、と咳払いをするミルフィ。


「チュートリアル・テストというのは、予め決まっている手順に従って簡単なお題をこなすことだ。これをやることによって、システムの一連の流れを把握できるようになっている」


 ミルフィの顔には大いなる苛立ちと若干の哀れみの表情が浮かんでいる。


「手順は私が説明する。貴様はその通りにやればよい」

「貴様って・・・・・・」


 見ず知らずの人間・・・・・・人間じゃないか。人物に貴様呼ばわりされていい気分はしない。オレは不機嫌になりつつあった。


「まずは画面をフリックしてみろ」


 フリック? と聞き返しそうになったが、何とか言葉を飲み込んだ。フリック、フリックとな・・・・・・。数秒間考えこんだ挙げ句。


「うおおおお」


 オレはスマホを握りしめ、上下に振る動作を何度も繰り返した。


「この情弱があ!」


 ミルフィの罵声が飛ぶ。


「そんなことも知らんのか。貴様、本当にデジタルネイティブか?」

「あのなあ。オレらの年代でもスマホも携帯も持っていないやつぐらいいるっての」

「これは・・・・・・手取り足取り教えるしかないのか」


 ミルフィは大げさにため息をついた。


「ナビゲーション・エンジェルっていうぐらいだったら、もーちょっと丁寧に教えてくれたって、いいんじゃないですかねえ」


 オレは皮肉たっぷりに、言ってやった。


「ふむ。それも一理あるな。使用者が全くの未熟者である場合の設定も、追加せねばならない」


 未熟者、という言葉がやはり引っかかるが。

 ミルフィはすすす、と高度を下げ、オレの肩の辺りにふわふわと浮いた。そのまま、オレが握りしめているスマホをのぞき込む。

 美少女の想定外の接近に、オレはどきりとしたが。


「こうするのだ」


 柔らかに発光する白い指が、スマホの画面をなぞる。

 画面を押さえたまま指をスライドさせると、画面全体が横にスクロールした。


「おお!」


 友達がすいすい画面を動かしているのは、こういう仕組みだったのか。今までに得た知識と新たに得た知識のリンクに、感動しそうになっていると。


「お前、本当に何も知らんのだな」


 軽蔑一歩手前、とでも言わんばかりのミルフィの鋭い視線が突き刺さる。


「し、仕方ねえだろ!次はどうするんだ」


 オレは何とか視線を跳ね返した。


「次は、このアイコンをタップする」

「タップ・・・・・・」

「軽く押すんだ」


 もはや諦めたのか、罵倒することもなく次の手順を説明するミルフィ。


「コーリング・エンジェル?」

「そうだ。このアプリケーション・・・・・・ソフトウェア・・・・・・何と言ったら伝わるんだ?」

「それぐらいは何となく分かる。ゲームのソフトみたいなもんだろ」

「うむ。アプリケーションの名前だ」

「押せばいいんだな」


 軽く、と言われたので力加減に気をつけながら、白い羽根をモチーフにしたマークを押す。

 画面がぐにゃりと四方に広がって。


「おー・・・・・・おおお?」


 画面に映ったのは。

 オレの顔だった。

 左上に学生証よろしくオレの顔が映っている。右上と下にはさっきミルフィが言っていたアイコン? やら画面の説明をしているような文章が並んでいる。


「この画面には開始30秒でたどり着ける想定なんだがな。一体、何時間かかっておるのだ」

「そんなこと言ったって、初めてなんだから仕方ないだろ」


 ダメだな、どうしても不満を言ってしまう。


「チュートリアルは猿でも分かる程度に簡単な内容にすること、と・・・・・・」

「誰がサルだ!」

「ほう、皮肉は通じるのか」


 ミルフィがにやりと笑う。

 くっそ、こいつ美少女のくせに、中身は全然可愛くねえな。


「んで、次はどうするんだ」

「マイページを開いているな。貴様の写真の右側にある、鞄のアイコンをタップしろ」

「タップだな、タップ」


 さっき教えてもらったことを繰り返す。

 鞄のマークに軽く触れると。またまた画面がぐにゃりと揺らいで。

 剣だの何だのアイテムらしきマークが並んでいる画面が開いた。


「タップしたぞ」

「その中にある、『エビル・スカウター』をタップするんだ」

「?? どれのことだ?」

「これを・・・・・・」


 再び、白い指をすすすと、画面の上に滑らせる。

 片側だけのヘッドフォンに、サングラスを合わせたようなイラストが表示された。


「どっかで見たような形だな」

「さっさとタップしろ」

「へーへー。分かりましたよ」


 いちいち逆らうのも馬鹿馬鹿しいので、言われたとおりにする。いくらか力を込めてイラストを押すと。

 イラストが暗転した。


「何にもないじゃねーか・・・・・・あれ」


 突然視界が水色になった。


「『エビル・スカウター』を装着したぞ」

「えっ??」

「自分の左耳を見てみろ」

「左耳って・・・・・・んな器用なことできるか!」


 悪態をつきながら、何とか見る方法がないかと考えてみる。周囲を見渡し、鏡代わりになるものがないか探す。

 ちょうど自動販売機が目に入ったので正面に行き、ガラス越しに自分の顔を見てみた。


「・・・・・・なんじゃこりゃ」


 ガラスに映ったオレの顔には、さっきイラストで見たままのアイテム--ヘッドフォンとサングラスを組み合わせたようなもの--が装着されていた。


「だから、『エビルスカウター』と言っておるではないか」

「それがわかんねーって言ってんだよ!」


 ある程度スマホの操作に慣れた者やゲームの内容を予め知っている者を前提としているミルフィの説明では、埒があかない。


「隠れた『エビル』を探し出すためのアイテムだ」

「さっきから『エビル』って言ってるけど。『エビル』っていったい何なんだ?」


 オレはさっきから抱いていた疑問をミルフィにぶつけた。


「『エビル』とは我々が倒すべき敵の総称だ。『エビル』をせん滅することこそ、我らの目的・・・・・・!」


 ミルフィは小さな拳をぐっと握りしめた。


「とりあえず、オレは『エビル』をやっつければいいんだな」

「平たく言えば、まあそういうことだ」


 腕を組み、尊大に頷くミルフィ。


「それで、このスカウターを使えば、『エビル』を見つけることができる、と」

「さっきからそう言っておるだろう!」


 ミルフィが改めて罵倒する。


「オレは頭がわりーから、自分の言葉で言い直さないと理解できねえんだよ!」


 水都と勉強していて分かったことが一つある。いくら頭のいい奴に教えてもらっても、そいつの言葉をそのまま丸飲みにしてたらダメだ。自分が理解できるように、細かく細かくかみ砕いて、自分の言葉で説明できないと、とてもじゃないが理解できない。


「では、ゲームの仕組みを理解したところで、さっそくアイテムを使ってもらおうか。レンズの縁のあたりにボタンがあるだろう。それを押せ」

「これか?」


 手探りで見つけたボタンを押す。スカウターの真ん中当たりに赤い円丸が表示された。丸は、ゆっくり点滅を繰り返している。


「んー。この赤い丸は何だ?」

「赤い丸は『エビル』の存在を示している。近くに『エビル』がいれば、もっと激しく点滅するのだが。チュートリアル・クエストだから、すぐに見つかるはずなのだが」


 ミルフィが首を捻った。どうやら想定外の事が起きているらしい。

自分が初めてスマホを見たときのことを思い出しながら書いています。当時は使い方もよく分からなくって、ミルフィみたいなナビゲーション・エンジェルがいてくれたらよかったのになーって思ったりしてますw

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