第六話 獲物
その日の夜。
「行くぞ」
男は立ち上がった。
「どこへ?」
「金を稼ぎに」
そう言ってフードを深く被る。
俺は思わず聞いた。
「……いるのか?」
「何がだ」
「BとかCとか」
男は鼻で笑った。
「いるさ」
そしてスマホを取り出した。
「自分から居場所を教えてくれる馬鹿がな」
画面にはライブ配信が映っていた。
視聴者数一万二千人。
【逃亡生活三日目!まだ捕まってません!】
派手なサムネイル。
無駄に明るい声。
逃亡生活を実況している男。
「YouTuberだよ」
男は呆れたように言った。
「こんな状況で配信?」
「だからBなんだ」
「?」
「Aはわざわざこんなことしない。誰もが認めるイケメンだからな」
男はどこか見下したように続ける。
「承認欲求なんてとっくに満たされてる。褒められるのも嫉妬されるのも飽きてる」
なるほど。
そういうものなのか。
「こんな配信をするのは中途半端な連中だ」
男は画面の男を指差した。
「Bだよ」
俺は画面を見る。
確かに。
顔も、なんというか。
いかにもBランクだった。
整っている。
だが完璧じゃない。
女にモテそうではある。
けれどAではない。
そんな顔。
「どうやって近づくんだ?」
「近づく?」
男は首を傾げた。
「向こうから来るさ」
そう言ってメッセージ画面を開く。
『助けてください』
『俺たちも追われています』
『ランクAです』
俺は眉をひそめた。
「そんなので信じるのか?」
「信じないさ」
男は笑った。
「だから証明する」
そう言って紙切れを取り出した。
そこに、相手から指定された文字列を書き込む。
【B-77431】
「ほら」
「?」
男が紙切れを差し出す。
「なりすまし対策だ」
「は?」
「これを持って自撮りしろ」
「なんでだよ」
男は当然のように言った。
「実際にBと会うのはお前だ」
「!」
「俺は後ろからBを気絶させる」
そして少し考えるように付け加えた。
「……それとも、お前がやるか?Bを」
言葉に詰まる。
気絶させる。
その一言が妙に重かった。
「……わかったよ」
男は満足そうに笑う。
「あと、俺はAの中でも別格だからな」
「は?」
「目立ちすぎる」
男はニヤリと笑った。
「自分で言うかよ、普通」
だが。
悔しいが、こいつの言う通りだった。
何度見ても思う。
別格だ。
同じAランクでも、残念ながら俺とは違う。
俺は紙を持ち、言われた通り自撮り写真を撮る。
男にスマホを渡した。
送信。
数秒後。
通知が鳴った。
『本物!?』
『え、マジ!?』
『やばっ』
『どこですか!?』
『会いたいです!』
『今から行きます!』
男はスマホを俺に見せた。
「ほらな」
さらに数分後。
配信タイトルが変わる。
【超イケメン見つけたった!これから会いに行く!】
俺は思わず呟いた。
「……なるほど」
男はニヤリと笑った。
「獲物が待ってる」




