第三話 視線
深くフードを被る。
……被らなきゃいけない。
Aランク。
見つかれば終わりだ。
なのに。
俺は何度も、無意識にフードへ手をかけてしまう。
少しだけ。
ほんの少しだけ顔を見せる。
通行人の視線が刺さる。
女性が振り返る。
コンビニの店員が、一瞬言葉を詰まらせる。
エレベーターで隣になった女子高生が、何度もこちらを盗み見てくる。
妄想じゃない。
自意識過剰でもない。
――真実だ。
俺は思わず、ショーウィンドウに映る自分を見る。
やっぱり。
何度見ても、別人だった。
通行人の反応も、前とは明らかに違う。
数日前。
Cランク判定を受けて逃げていた時。
あの時の視線は、明らかに嘲笑だった。
「あれがイケメン?」
「嘘でしょ?」
「AI壊れてんじゃない?」
クスクスという笑い声。
全部、聞こえていた。
きわめつけは、あのフード男の一言。
>「君レベルまで狙われるとはな。世も末だ」
……あの時は必死だったから聞き流したが、今思い返すと無性に腹が立つ。
「君レベル」?
なんだよそれ。
じゃあ今の俺ならどうなんだ。
今なら。
お前より上か?
胸の奥がざわつく。
その時だった。
【付近にAランク個体を検知】
背筋が凍る。
周囲の空気が一変した。
女性たちが、必死の形相で俺に叫ぶ。
「逃げて!」
……ふっ、あの時とえらい違いだな。
この顔なら、
世界中の女性が俺を肯定してくれる気がした。
遠くで警報が鳴り始める。
俺は走り出した。
……最悪だ。
まるで逃亡犯みたいな扱い。
全部この顔のせいだ。
……なのに。
心のどこかで思ってしまう。
――それでも。
この顔を失いたくない。




