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第一話 イケメン狩り

「おいイケメン!待てやコラッ!」


――最悪だ。


人生で一度は言われてみたかった言葉。


なのに、こんなにも嬉しくない瞬間があるとは思わなかった。


俺は全力で走っていた。


背後から重いブーツの音。


政府執行官。黒いジャケット。顔認識ゴーグル。


逃げ切れるわけがない。


だって俺は――


イケメンだからだ。


……いや、違う。


少なくとも、昨日までは違った。


俺の名前は 赤梨せきなし れん


……どこぞのイケメン達が組み合わさったような自分の名前が大嫌いだよ。


顔はどう見ても平均以下なのに、


名前だけがイケメン。


昔からコンプレックスだった。


すべてが変わったのは三年前。


「イケメン防止法案」が可決された日だ。


政府は発表した。


AIが全国の防犯カメラ、SNS、スマホデータなどを統合し、


国民を外見評価ランクに分類する。


ランクはA〜E。


そして――


Cランク以上は連行対象。


理由は「社会的公平性の是正」。


最初、誰も本気にしなかった。


でも翌週、街からイケメンが消えた。


モデル。俳優。人気配信者。


営業成績トップの爽やか社員。


みんな、いなくなった。


連行後にどうなるかは誰も知らない。


帰ってきた者がいないからだ。


当然、マスクやサングラスで顔を隠す者もいた。


しかし、膨大なデータを持つAIの前では、そんなもの何の意味もなさない。


今ではマスクやサングラスで顔を隠して歩くだけで通報される。


正直、俺は思った。


神様っているんだな。


雑誌の表紙からイケメンが消え、


広告もドラマも平均顔ばかりになった。


平等こそ正義。


イケメンは得をしていた。


世界各国もこの制度をこぞって真似した。


最高の時代だった。


……はずだった。


問題はAIだった。


イケメンが消えるたび、


AIは「平均」を再計算する。


つまり。


基準が、変わる。


Aが消え、Bが消え、Cが消え


気づけばD、Eだった人間の評価が見直される。


そして今日。


レジで支払いをした瞬間、表示された。


【外見評価:Cランク】

【対象者。待機してください。】


俺は凍りついた。


待て。


俺?


【対象確認。逃走防止措置に移行】


背後で警報が鳴った。


走りながら、ふと思い出す。


小学生の頃。


クラスの中心にいたアイツが突拍子もなく言った。


「お前、ブサイクだな」


それだけで世界が決まった。


皆が笑った。


それ以来、俺は自分の顔が嫌いになった。


写真は全部燃やした。


過去の自分なんて存在しないことにした。


なのに今。


政府は俺を「イケメン」だと認識したのか?


ふざけるな。


路地裏に逃げ込んだ瞬間、腕を掴まれる。


「君レベルまで狙われるとはな。世も末だ」


フードを被った男。


レジスタンス。


イケメン狩りに反対する連中。


「助けてやる。来い」


フードの隙間から、顔がわずかに見えた。


――整いすぎている。


反射的に視線を逸らす。


胸の奥がざわついた。


……正直。


助けられている最中だというのに、


今すぐ政府に引き渡してやりたい顔だった。


……だが、後ろでは執行官の足音が近づいている。


捕まれば終わりだ。


少なくとも政府よりはマシか。


俺は舌打ちして、男の後を追った。


地下へ続く非常階段を降りる。


重い鉄扉が閉まった瞬間、背後で鍵の音がした。


「悪いな」


振り返った時には、もう遅かった。


首筋に冷たい感触。


意識が落ちた。


数時間後。

地下施設。


俺はベッドに固定されていた。


白衣の男が言う。


「安心しろ。麻酔は――使えない」


「は?」


「政府と病院は繋がってる。麻酔履歴でバレる」


嫌な予感しかしない。


メスが近づく。


「お前のランクを変えてやる」


「ちょ、待っ――」


痛い。


痛い。


痛い痛い痛い痛い痛い。


視界が歪む。


骨を削る音。


血の匂い。


なんで俺がこんな目に。


――許せない。


イケメンの何が悪い。


平等?正義?


笑わせるな。


ブサイクどもめ。


地獄に落としてやる。


俺は叫んだ。


「うわあああああああああああ!!」


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