第7話 邂逅
翌日。ボルクスは早朝にリズよりも早く目が覚めた。生前に幾度となく繰り返されたルーティンにより刻まれた体内時計は、今もなお正確に作動し、早朝の目覚めを可能にさせた。ボルクスは朝飯を食べる前にトレーニングをするのが日課であった。
リズは自室でまだ寝ていた。起こさぬように身支度を整えて家の鍵をちゃんと閉めて早速近所の森の、トレーニングをするにはうってつけの良い感じに開けた場所に出る。
準備運動を終えて、一通りの訓練も終わった後、ふとある事をやってみようと思いついた。枝から紐でぶら下げた空き缶に人差し指を、一本貫手の要領で突き立てて穴をあける闘気の訓練である。求められるのは威力、スピード、瞬発力。この三つが高いレベルで発揮されて初めて空き缶に穴を開けることができる。空き缶と紐は来る途中で街道の端っこにに捨てられていたでそのまま持ってきた。
また、腕を振りぬくスピードどが重視されるように見えるが、足腰の動きも疎かにしてはいけない。踏み込みで得た運動エネルギーを、そのまま正確に腕に、手に伝えなければいけない。十分な威力とスピードを持って腕を振りぬかなければ、空き缶は貫かれない。指で押されるだけとなり、ぶらぶらと振り子のように空しく揺れることになる。
空き缶の前でゆっくり深呼吸をし、精神を整える。早朝の誰もいない森の中。集中するにはもってこいの場所だ。木々が風に揺られる音や鳥のさえずりが無音のボルクスを取り囲む。空き缶は目の前にある。腕を伸ばせば届く距離で、ちょうどいい高さに調整もしてある。腕を引き人差し指を立て、闘気を纏って構える。
「ハッ!!」
気合いの入った掛け声とともに腕を振りぬく。できる限りの最高速に一気に持っていく。空き缶がカシュッと音を立てて、貫かれる。ボルクスは人差し指の先端が空気に触れた感覚を確認すると、ゆっくりと、空き缶から指を引き抜いた。
空き缶には綺麗に穴が開いていた。覗けば向こう側の景色が見えるほどである。
ボルクスは小さく息をついて、その辺の石に腰掛ける。闘気の扱い方自体はさほど錆びてはいない。しかし、問題なのはこれを闘気を纏わなければ出来ないことだ。生前は素の身体能力で、闘気を纏わずに同じことができた。それも足腰を使わず、腕の動きだけで、神の血を引いていない自分はこんなものかと思った。
ふと、カストルのことを思い出した。自分とはほんの数秒の差で先に生まれたが半神としての力は持っていなかった兄。にも関わらず、常に自分の隣に立ち続けていた兄。カストルの感覚とはこのようなものであったかもしれない。今さらながら兄の偉大さに感服した。
だが、今の自分の無力さを嘆いてもなんの解決にもならない。ボルクスが立ち上がり、枝から紐を外そうとした時だった。
「見事だ」
深く集中していたので人が近づいていたことに気が付かなかった。声の方を見れば、立っていたのは金髪碧眼の男。年齢は二十歳前後、身長はボルクスと同じくらいで、体つきもしっかりしている。ボルクスは自分と同じような戦闘者であると立ち姿と雰囲気でなんとなく分かった。男に敵意はなく腕組みをして木に寄りかかっている。その言葉の通りにボルクスが今しがたやった技に関心を寄せているようであった。
「どうも」
誰だか分からないが揉め事は避けたい。ボルクスは軽く礼をして、紐と空き缶を片付け始める。すると金髪の男は申し訳なさそうに眉を落とす。
「すまん。邪魔するつもりはなかった」
「いや、元々これで終わるつもりだった。ここはいい場所だ。これから使うんだろ?」
「ただの散歩だ。俺はこう見えても一応、天導騎士団でね、こんな朝早くから誰がトレーニングをしているのか気になって見に来た。同じ騎士なら助言の一つでもしてやれたんだが冒険者とはな。聖都の騎士団の向上心のなさには呆れたぜ」
金髪の男は肩をすくめる。冒険者とみなされたが、ボルクスは否定しなかった。面倒だからである。騎士団以外に自らの力量を高める必要がある職業など金髪の男にとっては冒険者しか知らない。冒険者ギルドは聖都において、天導騎士団以外に独自の規律で合法的に武装を許された組織である。
全貌は掴めないがこの男はなんとなく強いと思った。召喚直後に会った下衆二人よりも確実に強いだろう。そして、同じ組織の人間に強くいて欲しいという欲求もなんとなく理解して、親近感が湧いていた。アルゴナウタイはそうではなかったが、もし強かったのがヘラクレスとかだけという組織だったらボルクスとて落胆していただろう。
「そんなに酷いのか、ここの騎士団は?」
「まあな、特に下級と中級の一部だな。格下には威張り散らして必要以上に痛めつけるくせに、少しでも自分より強い敵を相手にするとビビッて闘うどころじゃねえ。そのくせ、任務を終えて聖都に帰ってくるときは我こそは勇者であるみてえな面してんだからタチが悪いんだよ。ゴミだよゴミ」
忌々しく吐き捨てる様子にボルクスが苦笑する。純粋に技を褒められたのが嬉しかったので、愚痴でも何でも少しくらい付き合ってやろうというつもりだったし、聖堂騎士団の内情も気になった。空き缶と紐を片付けるのを止め、その辺の石に座る。
「随分と厳しいな」
それを見て男もうんこ座りの要領で両膝を曲げながら、地べたに座る。もしかしたら話が長くなるかもしれない。聖堂騎士団も色々大変なんだなと思った。
「俺も騎士団じゃそれなりの立場だからな。新人の指導なんかをやったことがあるが、見どころあるやつなんかほとんどいなかった」
男がボルクスが穴を開けた空き缶を見る。ゆっくりと揺れ動く空き缶を、やはり感心したような目で数秒見つめたあと、空き缶を指さしてボルクスの方を見た。
「あれのやり方はお前が考えたのか?」
「いいや、俺の師匠が教えてくれた」
「ほーん」
やや気の抜けた声で答えつつ、再び空き缶を見た。風に揺られて動くそれを見ながら、男の口元が緩み、白い歯を見せる。
「俺もあれをやっていいか?」
「別にいいぞ」
あれとは、即ち闘気の訓練方法。空き缶に穴を開けるのはそれなりに難しいが、まるで残した食べ物を俺の好物だからくれないか、と聞くかのような軽い感覚で問う。故にボルクスは少し期待した。しかし、金髪の男は立ち上がると、空き缶の前には立たず、落とし物をしたかのように地面をキョロキョロと見回しながらその辺を歩き回っている。
「何か探しているのか?」
「良さげな枝」
男はそれしか言わなかったがボルクスには何を探しているのか理解できた。良さげな枝とはつまり、真っ直ぐ、ちょうどいい長さと太さで、チャンバラごっこをするのにはもってこいの枝を指す。子供の頃、男はそれを聖剣と呼んでいたし、ボルクスはマルミアドワーズと呼んでいた。国と時代が違ってもなお不変たる武への感性を、二人は無自覚の内に通じ合わせていた。
「お、あった」
ややあって、男が良さげな枝を持ってきた。良い枝だった。ボルクスが昨日今日とこの森でトレーニングしながら良さげな枝には目星を付けていたが、それよりもより良さげな枝だった。枝をヒュンヒュンと適当に振り回しながら空き缶に近づく。
「良いやつだなそれ」
「枝探しは得意だ。それよりこれからもっと良いものを見せてやる」
自信ありげな男の構えを見て、枝を探していた理由が分かった。同じように空き缶に穴を開けるにしても、枝を使って穴を開けるのだ。男はボルクスと似たような構えをとっていたがその手には先ほど拾ってきた枝が剣のように握られており、その先端は空き缶を向いている。
男はボルクスより短い時間で呼吸を整えて集中すると、弾丸のような突きを放った。
「フンッ!!」
見事だ。口には出さなかったが金髪の男が初めてボルクスに放った言葉と同じ印象を胸の内に抱いた。というのも、枝に闘気が纏われていたからである。ボルクスは生前、武器に闘気を纏わせるということをあまりやったことがなかった。並大抵の武器ではボルクスの闘気に耐えられず自壊するからだ。ケイローンは闘気の修行で木剣が何度も壊れる様を見て、体術を伸ばそうという方針をとった。
ボルクスの開けた穴とは違う場所に枝が貫通している。自分には出来ない武器に闘気を纏わせる技術、しかもその辺に落ちてた枝で同じことをやってのけたのだ。素直に感心し、男が枝を引き抜いた後も空き缶に開けられた穴をまじまじと見つめていた。
そんなボルクスを見て男は元居た場所に座りながら嬉しそうに聞いた。
「お前も騎士にならないか?」
「なんて?」
聞き返しながらボルクスも石に腰掛ける。男がボルクスと同じことをしたのは策略、少なくとも同格かもしれませんよというアピール。本命はその後の天導騎士団への勧誘である。ボルクスの行った、指で穴を開ける闘気の技術もまた、男にとっては出来ない技術である。故に一目見て勧誘を思い立った。男が白い歯を見せながら空き缶を指さす。
「あれを見ればわかる。その技量、練り上げられている。冒険者にしておくには惜しい。同じことをできるのは聖都の騎士団には半分もいないだろう」
「そんなに少ないのか」
「何なら俺が口利きして、それなりの地位をやろう。貴族・聖職者生まれのボンボンなんかよりもよっぽどの良い地位をな」
逸材を見つけたと言わんばかりの、かなり嬉しそうに勧誘してくる男からボルクスは視線を逸らした。見込みがあると言ってくれるのは正直に嬉しいが、この勧誘を受けるわけにはいかない。一瞬、天導騎士団に入って、内側から動いてレアを救出するという考えも頭に浮かんだが、自分がそれほど器用な男ではないことを分かっていたので断念した。その作戦を決行すれば結果的に、この男を騙すようなことになり、気が引けたのもある。
「どうだ? まあ多少キツい仕事だがそれに見合う報酬はある。冒険者よりかは収入が安定すると思うぜ?」
男が言っていることは何の誇張もなく事実である。冒険者というものは元来、収入が不安定な職種である。宝を見つけて一攫千金を夢見て冒険者になる者も多いがそうなれるのは一握りで、人探し、ペット探しなどの地味な依頼をこなして日銭を稼ぐ者も多い。依頼の数や内容自体もその時の情勢にどうしても左右され、依頼がかなり少ない時期もある。しかし、天導騎士団は聖都周辺が平和であっても、目立った戦闘がなくともちゃんと給料は支払われる。その上、強大な敵を打ち倒したとなれば褒章とともに、さらなる富を得ることができる。
それに天導騎士団として魔界の勢力と交戦するという責務もこの男なら全うできるという信頼感もあった。ボルクスがなんとなく男の強さを感じ取っていたように、この男もボルクスの強さを感じ取っていた。偶然出会ったこの二人は同類なのだ。
「すまない。申し出は嬉しいが、お断りする。俺はやらなきゃならんことがあるからな」
「そうか……残念だ」
金髪の男は肩を落とした。確かに残念だったけど、断られたこと自体は別にいい。返事には期待していたが、そこまでして騎士団に入って欲しいってわけではなかったし、勧誘は受けてくれたらいいな程度だったし、断られたからってこちら側に何かデメリットがあるわけじゃないし、聖都の騎士団も全く将来性が無いって程でもないし、何かを切っ掛けに騎士団としての自覚が芽生えて心身ともにたくましく成長するかもしれないし、ただ、騎士になってくれたら自分の仕事は多少楽になったかもしれないし……。
未練たらたらの思考をこねくり回していたが、ふと、気にことがあった。率直に、その疑問をぶつけてみる。
「冒険者ってのは楽しいか?」
ボルクスが眉根を寄せて金髪の男の顔を覗いた。勧誘を断って不機嫌にさせてしまったのかもしれない。金髪の男の男が慌てて言葉を続ける。
「いや、気を悪くしないでくれ。別に変な意味じゃない。ただ純粋に気になっただけだ。天導騎士団っていう職業は冒険者ギルドの掲げる理念の自由ってのと、ある意味対極にあるからな。よくよく考えてみればこうして冒険者とサシで話す機会ってのは中々ない」
多少嘘を交えることになるが返答には困らなかった。ボルクスはこの国で、法的に認められた冒険者としての身分ではなかったが、生前は冒険者といっても差し支えのない経験を積んだことがある。アルゴー船で多くの仲間たち共に、金色の羊の毛皮を探し求める旅がそうだった。
「楽しい。冒険はいいぞ。未知の土地、未知の国に足を踏み入れる度に、未知の景色、未知の生物を見る度に、心が躍る。うまく言えないが、自分が知らなかったものを見ると、自分の中の世界が広がる感覚があるんだ。この感覚は他の何物にも代え難い」
「分からんでもないな。俺も初めて魔界に行った時はそういう気持ちがあったかもしれん」
「無論、楽しいことばかりじゃない。何度か危険な目にもあったし、死にかけたりもした。それでも今、こうしてちゃんと話していられるのは……」
「仲間のおかげか」
金髪の男が目を細めながら、ボルクスよりも先に言葉を落とす。多少驚きつつも「そうだ」と頷いて、頬杖をつきながら金髪の男を見る。この男は、強い。恐らくアルゴナウタイに参加しても、実力的には何ら遜色ない。ヘラクレスや生前のボルクスといった平均値を極端にぶち上げる存在を除けば、中央値と比べてみれば金髪は結構いい線をいっている。アルゴー船の冒険にも問題なく最後まで付いて来ることができただろう。
「そういうあんたはどうなんだ?」
いつの間にか、あんた、お前で呼び合い、ため口で話し合う仲になっていた。だが二人とも今さらそんなことは微塵も気にしない。どうせ、次にいつ会うかとか分からないし、二度と会わないかもしれない。金髪の男もそれなりの立場があるが、今は自分一人しかいないから、自然体で話している。そもそも、自分の身分や権力を他人にひけらかして、相手に何かを強制することは好きではない。第一今日は滅多にない非番。
「報酬が良くなきゃ続けてられん。天導騎士団で前線に立つのは危険だらけだ」
「どういう奴らと闘っている?」
前線に立つとは魔界で闘うことを意味する。リズから天導騎士団については聞いたことはあったが、やはり当事者として戦場に立つ者の言葉は聞いておきたかった。実際に経験した者の言葉には重みがあるからだ。
「魔界の五大勢力は知っているな? 悪魔、堕天士、竜、魔女、吸血鬼。この辺は大体闘ったことがある」
金髪の男が指折りをしながら話す。なるほどそれほどまでに戦闘経験を積んでいるのならば一見しただでも強さがわかるというものだと、納得した。リズには答えられそうにもなかった疑問を金髪にぶつける。
「どいつが一番強かった?」
「強いっていうか、厄介なんだよそれぞれ。悪魔は勢力が一番デカい。向こうもそれをわかってるから数の暴力を振るいまくる。堕天士は表立って闘うことはあまりないが、裏でなんかコソコソやってるから精神すり減らされるし、竜は単純に、堅い。魔女は自分が傷つくのも気にしないでなりふり構わず攻撃してくるような危険な奴らだし、吸血鬼は手足斬っても再生するし、高位の奴は眷属を増やせるから、仲間が向こうの手駒になりかねない。まあ、純粋な戦闘面で一番強いのは竜だな」
「わかる」
思いもよらない、理解を示す言葉。一体今の話のどこに、共感する部分があったのだろうか、眉根を寄せて、頷いているボルクスの方を見た。
「俺も昔、竜とは闘ったことがある。鱗だか甲殻だかとにかく堅い上に、タフなんだよなあいつら。闘っている最中は体力の底がまるで見えねえ」
嘘ではない。実際にアルゴナウタイに居た頃、航路上を縄張りとする海竜を筏に乗って、一人で退治したことがあった。ボルクスが竜と闘ったのはその一回だけであったが、とにかく強く手こずったので鮮明に記憶に残っていた。「ほう」と金髪の男が意外そうに呟き、話の続きを促すような視線を送る。
「しっかも、海に住んでるやつだったから、俺もわざわざ海に出て戦ったんだ。要するに終始相手に有利な状況だったわけ。水中ってさあ、踏み込みが出来ないから、どうしても重い一撃が繰り出せないわけよ。その上相手カッテぇから途中からマジでイライラしてきて大変だった。……まぁ、最終的にはなんとか勝ててたけどな」
当時のボルクスは半神としてのパワーも有していたので、拳に纏った闘気をパンチの要領で大砲のように打ち出すことが可能であった。それは竜が海中に潜んでも尚、その身に届く凄まじい威力であった。その技が以ってしても筏自体が揺れるし、竜が泳ぐのも早かったのでかなり手こずった。
金髪の男もボルクスの竜退治を気にはなったが、いつ、どこでやったとか詳しくは聞かないことにした。天導騎士団だけでは被害に対応しきれないから、冒険者が何人かでパーティを組んで、そういう依頼を受けることもあるだろうと、自分の頭の中で情報を整理した。しかし、ボルクスが理解を示したことは存外嬉しく、無意識に口元が緩む。
「大変だな、冒険者も」
「そこはまあお互い様だ。俺もあんたの仕事は聞いただけでも怖気づいちまった」
これは世辞。正直、竜以外は生前、闘ったことはおろか、見たことすらなかった。故に、会ってみたかったし、闘ってみたかった。冒険者としての好奇心と英雄としての闘争心、その両方が金髪の男が喋った内容によって、同時に刺激された。しかし、表には出さない。
そもそも、天導騎士団の仕事はそんな危険な連中を民間人に会わせないように闘うことなのだ。金髪の男にとっても冒険者とは何度か、肩を並べて戦ったことはあったが、民間組織の人間なので一応、守らなければならない人間ではある。大体、危険な連中と出会いたければ騎士団への勧誘に乗ればいいのだ。しかい、それはできない。
「今度、騎士団が海に住む竜を相手にする時は、ギルドを通じて依頼を出そう。報酬は弾むぞ」
「そんときゃ任せろ」
大口を叩いたが、今、生前やった海竜退治と同じことをしろと言われても一人では多分無理だ。しかし、この金髪の男との共同戦線なら可能かもしれない。それに、海竜退治をするための準備も筏一隻というヤケクソのようなものではなく、天導騎士団がちゃんと海戦用のデカい船を用意してくれるだろうし、人手もいっぱいあるから大丈夫だろう。空き缶に穴開けられるし。
腹が減ってきたボルクスが立ち上がり、身体を伸ばした後、空き缶と紐を片付け始める。
「そういえば俺朝飯まだだったわ」
「悪いな。俺の愚痴に付き合わせたみたいになって」
「いいって気にすんな。またどっかで会おうぜ」
「ああ、またな」
軽く手を上げて別れの挨拶を交わし、爆速でリズの待つ家に帰る。背中はあっという間に見えなくなった。男との会話は空腹を忘れるくらい楽しかったが、身体がそろそろ何か食わせろと主張してくる。
「名前聞いておけばよかったな……」
良い出会いだった、と感傷に浸っているボルクスと男が同時に呟いた。




