約束
短いエピローグのようなものです。よろしくお願いします。
ジンは小さな体を“隠し通路”に押し込み、孤児院の部屋の中に入った。
消灯時間はとっくに過ぎているので、大人に見つかればまた飯を抜かれた挙句に鞭で叩かれる。今回は、何とか無事に成功したようだ。
ほくそ笑みながら、ターミナルから盗んできた品物を改めて居たが。
「みぃつけた!」
いたずらっぽい声に、心臓が止まりそうになった。
「ジン、また勝手に外行ってたでしょ?危ないから止めなって、先生に怒られちゃうよ。」
「うるさいな。俺の勝手だろ。」
暗い中でもそれと分かる、白く美しい髪は、この施設に一人だけ。
「レンこそ、なんで俺の部屋に入って来てんだよ。」
「眠たくないの。あそぼ?」
「いやだ。俺はこれから仕事があるんだ。」
仕事、という響きに少し優越感を感じながら、ジンが言う。
「ドクさんに頼まれたの?」
ちょくちょく孤児院に来ては世話を焼いてくれる小さな老人の名を言うレン。ジンは頷く。
「うん。届け物だ。」
嘘だった。頼まれたわけではない。
ドクが「それさえあれば―――」と言っていたものを、昼間に自分で勝手に調達してきただけだ。
明日、この彼の為を思ってやったことで思い切りドクから殴られる事になるのだが、幼いジンが知る由もない。
「ねーねー、あそぼうよ。眠たくないし、ネルは嫌だっていってるし、つまんないしー。」
ジンの腕を掴んで振りまわす。小さいくせに意外と力が強く、簡単に振りほどけない。
あまりのしつこさに、ジンが折れた。
「分かったよ。でも何して遊ぶんだよ。」
「やったぁ!ええとね、映画館行こ?」
レンは映画館と言っているが、実際は月一回の映画上映会の為の部屋だ。
「あんなとこ行って見つかったら―――」
「いいからいいから、早く!」
さっきまでそのことでジンを説教していたことなど忘れたように、レンがジンの手を引っ張る。
「ジン、開けて。」
レンに言われるがままに、金具を使って上映室のカギを開ける。
「これ、ヴォーレンが考えたんだぜ。」
もうこの時にはジンは夜の散歩を楽しんでいた。
中に入り、レンが機械を操作する。
「何見るんだよ。」
「ペンギンのやつー。」
「はぁ?この間観たばっかだろ?」
「また観たくなったの。」
ジンからすれば、つまらない旧時代の動物ドキュメンタリーだった。レンが「可愛い!可愛い!」と連呼していたのを憶えている。どうやら、相当気に入ったらしい。
映像が始まった。
正直、ジンにとって映画はどうでもよかった。気になるのは映像の光で煌々(こうこう)と照らされる隣の少女の横顔だ。
髪も肌も白く、見ていると透けて行ってしまいそうな儚げな顔。
レンの体質について、医者は何か小難しいことを言っていたが、ジンにはまだ理解できなかった。
「知ってる?ペンギンって鳥なんだよ」
「だから何だよ。どうでもいいよ。」
「でも羽根はあるの、ホラ。」
そう言って映像を指差す。
「え?あれは手じゃないのか?」
「違うよ。パタパタしてるでしょ?きっと飛びたいんだよ。」
「ふーん。」
映像を見つめる。羽根はあるのに飛べない、小さくて奇妙な白黒の鳥は、氷の上で何度も羽を動かし、体を揺すっていた。まるで、自分が飛べないなんて何かの間違いだと言わんばかりに。
「可愛いねぇ。」
うっとりとした表情を浮かべるレンに、ジンが口を開く。
「レン、俺は飛ぶ。」
「え?」
「飛びたいのに飛べないなんて嫌だ。俺は絶対に、飛ぶ。」
その真っ直ぐな眼差しを見て、レンの笑みが弾ける。
「じゃあ、ジンが飛べたらあたしも乗せてね。」
「うん、約束だ。」
「約束!」
『Cosmos of Penguin』 完
読んでくださって、本当にありがとうございました。感想お待ちしております。




