明日香のエピローグ
愛歌たちによって、人質立てこもり事件が解決し、一週間が過ぎた。
死者数0。人質にケガもなく無事に解放され、テロリストたちも大きな負傷もなく全員確保。愛歌の兄、大牙も一命を取り留めた。
お手柄高校生。明日香たちは一躍街の英雄となった。
だが、罪には問われなかったものの、警察からはこっぴどく説教を受けた。
普段通りの日常が戻ってくるのは、まだまだ先かと諦めつつ、明日香は学校へいくため愛歌と家を出た。
「日比谷。すまんが、私はしばらく旅に出ようと思う」
「え!? どうしたの、急に……」
「私はな、日比谷。あのとき気が付いたのだ。お前がテロリストを己の拳で打ち倒したとき、お前は私の理想の男に、父上に近付こうとしている。では、私は日比谷の理想とする女性なのだろうか、と」
「来ヶ崎さん! ぼくの、ぼくの理想の女の子は……強くて、優しくて……ヘタだけど演歌が好きで、おっちょこちょいで、食いしん坊で、電化製品の使い方がわからなくて……でも……かっこいい女の子なんだ!!」
朝の出勤ラッシュが始まった住宅街のど真ん中で、明日香は恥も外聞も捨て、叫んだ。
「――日比谷……それは……」
「決まってるじゃない。それは、来ヶ崎さんのこと――」
「私のことではないな」
「へ?」
「だって私は、演歌がヘタではないぞ。父上に褒められたのだ。お前は演歌歌手になれる! とな。その私が、ヘタなわけがなかろう」
「そ、それは……たぶん親バカというか、来ヶ崎さんを傷付けないためで――」
「それに私は、食いしん坊などでもない。いつも腹八分! 可憐な女子を捕まえて食いしん坊とは、これ如何に。優しいというのもわからんな。強いというのなら、さらに違う。強いのは、日比谷のような、誰かのために立ち上がれる者のことではないか?」
「ぼくが……強い?」
「うむ。私は、改めてお前に惚れた。その心の強さに。だから……旅に出るのだ。さらなる強者と出会い、体と心を鍛え、お前に相応しい女になって帰ってこよう。その時こそ、お前を手に入れる」
「本当に行っちゃうの?」
「うむ。私は一度決めたことは決して曲げん。前にも言ったであろう? くだらんウソと甘い物は好かん、と」
「そっか……そうだね。来ヶ崎さんは、そういう女の子だよね。……うん、わかった。ぼく、いつまでも待ってる」
「すまぬな。お前と過ごしたこの数日、実にかけがえのない思い出だった。ありがとう、日比谷」
「ぼくも、ありがとう。あ、そうだ。本当は学校についてから渡そうと思ってたんだけど……はい、これ」
「む?」
明日香はカバンからキレイに包装された箱を取り出し、愛歌に渡した。
「遅くなっちゃったけど……お誕生日おめでとう、来ヶ崎さん!」
「これは……?」
「プレゼントだよ! さあ、開けてみて」
「う、うむ……」
愛歌はおそるおそる包装用紙を破り、おっかなびっくり箱を開けた。
「ハンカチ、か? キレイな花柄だな」
「来ヶ崎さん、ごはんを食べたらちゃんとお口の周りをそれで拭くんだよ?」
「ふ。わかっている……一生の宝物にさせてもらうぞ。日比谷。では、さらばだ……」
愛歌が背を見せたとき、明日香が叫んだ。
「絶対! 絶対に、また会おうね! おいしいご飯作って待ってるから! 絶対だよ!」
愛歌が振り向くと、明日香の目元に光る涙を、ハンカチで拭った。
「日比谷。男が人前で泣くものではない。さっそく使ってしまったぞ、お前のプレゼント」
「でも……でも……」
「私は必ず帰ってくる。お前を手に入れるために」
愛歌は胸を大きく張って、クールに笑った。
揺れる胸を見て、明日香は思わず真っ赤になって目を逸らした。
「もう、本当来ヶ崎さんは……かっこいいんだから。日本男児っていうのかな? 強くてかっこいい男の人って。でも、来ヶ崎さんは女の子だから……日本女児、っていうのかな?」
「日本女児、か。気に入ったぞその呼び名。これからは、そう名乗ろう」
愛歌は明日香に背を向ける。
「私、来ヶ崎愛歌は日本女児である。さらばだ、日比谷。また会おう」
明日香は、遠ざかっていく愛歌の背中をいつまでも見守った。
~完~




