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22.

もし本当に人を狂わせる力なんてものがあるのなら、私はこの人を狂わせたい。


「罪悪感を感じ続けているあなたを、私が幸せにしたいのです。1日で決められないと言うなら、まずは仕事のための偽装妻でもいい。そばにおいて。」


ーーー傍若無人な彼が、私のために甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。

それが罪悪感から来るものだとしても、誰かを重ねているとしても。

私にだけ見せるその姿を誰にも見せたくない。


ディートリヒは目を見開いてしばらく呆然としていた。

フレデリカからすれば、少しでも彼の動揺を引き起こせたことが嬉しかった。


ディートリヒは何かを考えた様子の後、困ったような顔をしてゆっくりと口を開いた。

「……私は、」


「待ってください!!返事は今しないで!」

「!?」

「相談を……。そう、どなたかに相談をして、決めてください。お返事は手紙でいいですから。絶対に相談して決めてくださいね!」

そういうとフレデリカは、フードをかぶり走り出した。


ディートリヒの表情は、どう見てもよい返事をくれる表情ではなかったからだ。チャンスがあるとすれば、他の誰かから後押ししてもらうこと。フレデリカは、今この場で返事をもらってはいけないと判断したのだった。


それに、人生で始めての告白をして、恥ずかしくてこの場に居られたものではないことももちろんあった。


「おい、待て、どこに行く……!」


フレデリカは猛ダッシュで屋敷に向かって走り出した。

はやくアランジェールに慰めてほしかった。



フレデリカが去った後、ディートリヒは広大な庭園で1人になる。

嵐のような時間だった。


「……なんなんだ……」


ディートリヒは立ち尽くし、走り去るフレデリカの後ろ姿を眺めていた。


***

後日、ディートリヒからフレデリカ宛に手紙が届いた。


「ルチル!ルチル!ディートリヒ様から返事が来たの!」

「フレデリカ様、よかったですね」

「見て!」


フレデリカは手紙を差し出す。そこには、遠目からでも几帳面さがわかる文字が並んでいる。

内容はこんなものだった。


『2か月後、ヘリオドールからの使者と会合がある。同席してくれないか』


「やったあ!!」

フレデリカはルチルに抱きつく。

「フレデリカ様、おめでとうございます。ただ、結婚できてこそですからね。必ず結婚までこぎつけてくださいね。」

「がんばるわ!アランジェールにもお礼しないと!」


ディートリヒが肯定的な返事をくれたのは、アランジェールとその父に相談したからこその結果に違いなかった。

ディートリヒ一人であれば、フレデリカを受け入れる結果にはならなかったはずだ。


「しかしフレデリカ様、公爵様はどうするんですか?」

「それは考えてあるの。向こうから振ってもらえばいいのよ。」

「と、言いますと?」

「外見を気に入ってくださっているんだから、すごく太って体型を変えればいいと思わない?別人のようになれば、きっと公爵様の興味もなくなるわ。またアランジェールに協力してもらわないと。たくさん食べるコツを教えてもらおう。」

「……」

「メイクも変えましょう。こういうのはきっとアリスミリアが得意だわ。」

「……そううまくいくでしょうか……?」


結局、この後フレデリカは1ヶ月で8kg太ることに成功した。さらに化粧や姿勢を変えるなどの工夫により、公爵様の興味はみるみるうちにフレデリカから離れていったのだった。


ディートリヒとフレデリカはその後会合に出席し、つつがなく偽装妻としての役割を果たす。


フレデリカはヘリオドールにも帯同するようになるが、偽装妻が本当の妻になれたのかは、神のみぞ知るところだろう。



***


長い石畳を抜けると、舗装されていない砂利道が現れる。

しばらく道を進むと、建物がまばらになっていき、ぽつぽつと民家が立ち並ぶ。

そのうちの一角にその場所はある。


小ぢんまりとしたレンガの建物に大きな扉。建物の前には大量の花が咲いている。

小さな庭園を抜け扉を開けると、扉の中にも植物が並んでいる。

相変わらず花屋のような見た目だった。


植物の中を進むと、その先に体の大きな女性が座っている。

エルミーヌはグレシアナを見つけると、すぐに声を上げた。


「グレシアナ!聞いてよ、ヴォルガったらまだ使用人を雇ってないのよ。あんなに言ったのに!」

「このまえ解決したって言ってませんでした?」

「その人はすぐに辞めちゃったの!仕事が多すぎるのよ。もっとたくさん雇わないと回らないって言っているのに。」

「働きたい人なんていくらでもいるでしょうに。」

「誰か知り合いにいい人いない?紹介してちょうだいよ」

「うちで紹介できるのは結婚相手だけですよお」


エルミーヌはまたヴォルガラスのことでお困りのようだ。

恋愛というのはいつまでも悩みが尽きない。


今日も、この相談所の扉は閉まらない。

グレシアナは肩をすくめながら、次の来訪者を迎えるのだろう。


迷える誰かの物語に、手を差し伸べるために。



お読みいただきありがとうございました!

ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます。リアクションなど本当に本当に励みになりました!!


感想欄を開く予定だったのですが、最近自分の中でのなろうの優先度が上がりすぎているのでこのまま閉じさせていただきますm(__)m


面白かったら評価とリアクションをいただけると嬉しいです♪


恋愛ものではないですが、軍人とパティシエのグルメ?コメディ?連載を開始しました。お暇があればそちらもお読みください!

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