馬は応えてくれる
「復活待ってたぞー!」
「JBCで中央馬負かしてくれ!」
「給料全部単勝にかけてたから助かった!」
レースが終わってウイニングランに入る。スタンドからはたくさんの拍手と様々な祝福の言葉が聞こえる。……待て待てとんでもないやついなかったか?
しかしなんだか誇らしい気分だ。最後にレースで勝ったのが1年近く前だからか、レースで感じたことの無い嬉しさだ。もう少し勝ってやろうかな。
ガッツポーズで歓声に応えるもりかわ君と検量室前まで帰る。あさい調教師とかまだが待っていた。
「本当にありがとう。森川くんのお陰でようやく力出せたし、いいエスコートだった。にしても大差か」
「今日は負けなくて本当に良かったです。でも大差勝ちは想定外ですけど。次、佐賀でJBC行きましょう」
「もちろん、そのつもりでいく。鞍上は頼んだ」
「ありがとうございました」
表彰式まで馬着と優勝レイをかけて歩きながら待つ。その間表彰式の音を聞いている。もりかわ君のインタビューになって少し立ち止まってモニターを見ると嬉しそうなもりかわ君が映っていた。
『東京記念、見事リアンエテルネル号で制しました。森川羽異ジョッキーです。おめでとうございます』
『ありがとうございます』ともりかわ君が答えると大歓声が上がる。
『今日は+28kgの536kgでの出走でしたが、太め感などは無かったのでしょうか?』
『いやいつも通り素軽い動きで、ほぼ成長分だと思います』
『今日のレースはいつもとは違い積極的にハナをとって行って大逃げ。影も踏ませないような圧勝でしたが、手応えどうでしたか?』
俺やっぱ他馬の音が聞こえないと思ったら大逃げしてしまってたのか。そりゃ聞こえねーわ。
『今日の枠だったり、馬場だったり考えて逃げるのは予定通りだったんですけど、ここまで離せるとは思ってなかったですね。3コーナー過ぎての手応えがとんでもなかったので、やっぱりブリンカー着けたのがいい方向出たと思います』
『リアンエテルネル号は昨年のセントライト記念を勝って以来惜しい競馬が続き、今年に入ってからは負けてしまっていましたが見事に復活しました。その辺はどうでしょうか?』
『本当にAJCC負けてから馬自身も精彩を欠いてしまって負け続いていることへのプレッシャーがすごかったんですけど、何とか……』
もりかわ君が急に言葉に詰まる。何とかの後はなんだよ。そう思っていると鼻をすする音と涙を拭くような仕草を見せ始めた。スタンドからは「頑張れー!」と声援が送られる。
『GIに手が届きそうだった馬なのに……裕貴くんから乗り替わった後走らなくて……上手く力を引き出せないことがずっと悔しくて。AJCC以来毎日この馬の事を考えて、工夫して……その結果が今日のレースでした……』
頑張ってきた騎手を拍手で労う暖かい空間がそこにはあった。
『……辛いことやプレッシャーに負けそうになる日もありましたが、本当に諦めなかったら夢は叶うし、馬は応えてくれるんだと勉強になりました。皆さんも上手くいく事ばかりでは無いかもしれないですが、諦めないで続ければいつか上手くいく日が来ます。その日まで僕と一緒に頑張りましょう』
大きな拍手が送られる。なんかごめんな。次も真面目に走るからさ、元気出せよ。俺がお前をJBCってJpnIで勝たせてやるから。
『この馬とのこれからのビジョンはどう考えていらっしゃいますか?』
『この馬とはもっと大きなタイトルを取りたいです。とりあえず次JBCに行って勝ってこの馬をJpnI馬にしたいです。……いえ、この馬をJpnI馬にします』
『ありがとうございました。森川羽異ジョッキーでした』
なんかいいインタビューだったな。俺が競馬ファンだったら間違いなくこの騎手を推すと思う。
ゆっきーも良い奴だけどこいつもなんやかんやもう1年近く乗ってもらってるし、良い奴だからちょっとくらい恩返ししてやるか。
きっかけは俺が負けたら去勢されるから全力で走らなきゃ行けなかっただけだ。しかし、この日から確かに俺ともりかわ君の間には、友情のようなものが生まれたような気がする。




